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ルイとサムってけっこう似てるところあるよね…。
サムは低い棚の上に腰を下ろし、俺に向かい合う。
「ルイ、俺はお前を海に連れていくと約束した」
「うん」
「だから、ルイが曇天街を出ていく前に海に連れて行く」
ああ、やっと海に行けるのか!
でも……。
「セイヤさんは俺が心も大人になったらって言ったんでしょ? さっきサムは俺のこと、心は子供だって、そう言ったじゃないか」
「ああ。だが、曇天街を出ていく決意をできるくらいには大人になった。まだ成長途中って感じだが、キラと一緒なら問題ないだろ」
「キラと一緒……」
「2人で大人になればいい。なにも、独りですべてを背負わなくていい。キラを見つけ、キラと共にいることを選んだルイは心も大人になっていく」
「そうかな」
「ああ。俺が保証する」
サムは昔と変わらず優しい顔で笑ってくれた。
目頭が熱くなる。ただ、泣くなんてカッコ悪すぎて、サムの前ではしたくない。
腕で目を覆い、ふぅと息を吐き出す。
泣きそうになるのを鎮めてから腕をとり、サムに目を向ける。
「曇天街を出ていくとは決めたけど、まだ具体的に考えてるわけじゃないんだ。ハヤテにも相談して、外界でやるべきこととか考えて、時期も決めたいと思う」
「そうか。王子が相手なら色々相談できそうだ」
よかった。サムは王子に対する恨みとか憎しみは持ってないみたいだ。ハヤテが王子であることはどうでもいいみたいだし。
これなら、頼めるかな。
「うん、あ、それと。俺は曇天街から出ていくけど、ハヤテはたぶんここに残るから、ハヤテのことよろしく頼むよ」
「四天王の加護が消えた王子か」
「ああ、でも外れのまとめ役をしているアランって奴が味方みたいだし、自力で中心部にきて、加護なく1ヶ月生き残るだけの力は持ってる。そうお荷物にもならないと思うよ」
「アランな、半年ほど前から聞くようになった名前だ。外れでうまいことやっているらしい。それに中心部だって四天王が敵じゃないなら生き残るのは難しくない、か。いいだろう、任されてやる」
へぇ、サムはアランのこと把握してたのか!
顔に出したつもりはなかったが、そんな俺の驚きは気づかれてしまったらしい。
「おい、俺は雷帝だぞ。曇天街中の情報を把握してるに決まってるだろ」
そういえば、昔から忙しなく情報収集してたっけな。
「まあルイは1人だったから情報収集もままならなかっただろうが、こっちは人数いるからな」
「……いや、調べる手立てはあったんだけど、、。俺は」
そうだ。調べようと思えばいくらでも調べられた。
九条ならすぐにわかるのだから。
俺は、俺はただ……。
ふと、頭に重みを感じる。
いつの間にかそばに来たサムが俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でたのだ。
「いい、お前が調べなくていいと思ったならそうなんだろ」
「でも……」
「ルイ、お前が全てを背負う必要はない。外れのことは俺が把握してたんだからそれでいいだろ」
サムは優しすぎる。
俺は、曇天街を守ってるつもりで中心部しか見てなかった。
外れのことは曇天街だと思えてなかったんだ。
なにが、守ってるだ。
俺はただの自己満足で、守ってるつもりに酔ってただけじゃないか。
「ルーイ」
ぱち
「イタッ」
手の甲で額を叩かれた。
サムが悲しそうな顔で覗いている。
「サム……」
ああ、敵わない。
サムを悲しませたくはない。
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ルイと雷帝、実はとっても仲良しなんだね。
こっそりと盗み聞きながら、ほっとした気持ちになる。
ルイを心配してくれる人がちゃんといたんだ。よかった。
雷帝のアジトに着いたときのこと―――
「お前は来るな」
雷帝がルイを抱えたまま、私に振り向いて言う。
「……」
雷帝がルイを運んでくれたとはいえ、いわばここは敵陣だ。
ルイを預けていいものか、悩む。
でも、同時に、絶対に大丈夫だとそんな予感もしていた。
やっぱり私は雷帝の瞳に弱い。
信じたくなる優しい瞳。
「わかっ、た」
ただひとこと私が返すと、雷帝はそのまま自室へと入っていった。
それから、私は雷帝の部屋の前からホール、前に雷帝の子分たちに囲まれたところへと移動する。
ホールに入ると雷帝の子分たちは
「なんでシロサギのところの奴がいるんだ」
「ふざんけんじゃねぇ」
「裏切り者のくせに」
口々に私を、そしてルイを罵った。
だけど、ルイと雷帝の間には、絆があるように思える。
私にはわからないけど、雷帝はルイにとって大切な存在なんじゃないだろうか。
だとしたら、私が雷帝の子分たちと揉めることをルイは喜ばない。例え、ルイを罵られようと、ルイの意思に逆らうのは本意ではない。
私は罵られても、反論することなく、ただホールの端っこにしゃがみこんだ。
警戒してる相手に対して、そんな真似はできない。
これは私には敵対の意思がないと示すための行為だ。
単に疲れていたからってのもあるけど。
徹夜だったからね。
雷帝の子分たちは排除するべきかとか、色々揉めたようだったけど、結局はなにもせず私を放置することに決めたらしい。
雷帝がアジトへ入ることを許可したようなものだから、なにもできないというのも理由だろう。
―――そして、今。
私はルイと雷帝の声を聞きながら、顔をほころばせていた。
「おい、なにかいいことでもあったのか」
そんな私に声がかかる。
顔をあげると、この前、くま商店でステイと一緒にいた男がいた。
「……」
答えるべきか迷って、うなずいて返す。
男は笑顔で、
「そうか、よかったな」
と自分も私のとなりにしゃがみこんだ。
ついでに布を渡してくれる。
濡れた体を拭けってことだろう。
夏だから雨で濡れてても寒くはないけど、べたっとして気持ち悪かったからありがたい。
「……ありが、と」
「おう」
それからしばらく、なにも話さず無言のときが過ぎる。
「……」
「……」
周りから
「タケさん、なんであんな奴と」
「タケさん、なに考えてるんだ?」
ざわめきが起きていた。
(この人、タケって名前なんだな)
「俺はタケじゃなくてタケトだけどな。みんなタケって呼ぶ」
私の思いを見透かしたように説明された。
タケト、か。
緩い空気を放っているタケトは私を敵と思ってないらしい。
そして、雷帝のところで一目おかれてる存在でもあるらしい。
タケトのそばにいれば平和に過ごせそうだ、とそう思った。
ソフィと恋仲が噂されているタケ君。
実は、タケトって名前でした。




