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いがみ合う2人。でも真実は……。
ゴミ山が片付き、クラウドや軍が撤退し、残ったのは曇天街の住人だけ。
もうハヤテを守る必要はない。
私は、ルイのとなりに向かった。
「終わった、な」
そこへ聞こえてきた、ルイの呟き。
ルイは力尽きたように、頽れる。
「「ルイ!」」
それを支えたのは私ではなく―――雷帝だった。
雷帝がルイをルイって呼んだ。
しかも、心配そうに呼び掛けている。
私だけじゃなく、みんなが怪訝そうにそれを見つめていた。
すると、ソフィ姉さんがハッとしたように指示を飛ばし始める。
外れの被害状況の確認や、必要な支援を提示するようアランに指示。
必要物資があれば惜しみ無く提供するようクマに指示。
怪我人は協力して中心部のフィール先生のもとへ運ぶよう指示。
そして、外れと中心部のパイプとして自らが外れに残ると宣言。
最後に、雷帝のもとへ行き、事態の報告と中心部へ戻るよう進言。
実に素早く、的確な対応だった。
怪訝そうに雷帝を見ていた者達も指示に気をとられ、忘れていく。
最後に残ったのは雷帝とルイと私だけだった。
ちなみに、ハヤテはアランの方についていった。
雷帝がルイをお姫様だっこで抱え、中心部へ歩きだす。
私はそれを斜め後ろからついていく。
ただただ静かに。
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ゆったりと意識が浮上していく。
最初に目に入ったのは薄汚れた白い天井。
ベッドに横になっていた、か。
気絶したということなんだろう。
ケンの拳は想像以上に重く、気力でなんとか立ったはいいものの、気が抜けると共に崩れ落ちたらしい。
静かに状況を推察し、起き上がろうと試みる。
イッ、体が痛みに押し潰される。が、背中に手が差し込まれ、痛みは途端に和らいだ。
「無理するな、ルイ」
そろりと顔をあげると、雷帝、いや、サムがそこにいた。
サムは俺をそのままベッドに寝かせ、自分はベッドの脇に腰かける。
「サム……」
「ここは俺の部屋のベッドだからな。他には誰もいねぇよ」
「そうか」
普段はいがみ合っている俺たちも、周りに誰もいないなら……。
「サム、助けてくれてありがとう」
「焦ったぞ、急いで来たらダンが剣を振り下ろすところで。あとちょっと遅れてたら死んでたんじゃないか?」
「そうだね。死ぬんだろうなって思ったよ」
そう、あの瞬間、俺は生を諦めていた。
頭脳が武器だと息巻いたところで、圧倒的な力には叶わない。
もどかしくて、悲しいけれど、紛れもない事実。
俺は俺が思っていた以上に、為せることの少ないガキだったのだ。
「ルイ、もっと自分を大切にしろ」
「……」
「もしお前が死んでたら、俺はもう自分を許せなかった」
もう、か。
それは既に自分を許すのが限界に近いと、そう言いたいのか。
サムは昔と変わらず、今も俺を大切にしてくれている。
俺のわがままに付き合わせて、あげく心に傷を作ったんじゃサムには申し訳無さすぎる。
「……俺の選んだ道だ。何があっても俺だけの責任だ」
俺に何があってもサムの責任じゃない。サムのせいじゃない。
「その道を選ばせたのは俺だろ?」
でも、サムは優しすぎるから、全部背負ってしまう。
俺が雷帝を裏切って一人になったあと、サムは仲間と距離をとった。常に笑っていて明るかったサムは、常に無表情で仲間とろくに目も合わせない雷帝になった。
知ってるよ。一人になる俺を独りにしないためにそうしたんだって。
俺にだけ背負わせないように、自分も背負おうとしたんだって。
「サム、俺は曇天街が好きなんだ。だから、曇天街のためにって、四天王にもなった。そのことに後悔はしていない」
そう、曇天街の治安を維持するためには四天王が必要だった。
「けど、どうしてだろう。胸に穴が開いたみたいで、風が吹くたびその穴を広げていくみたいで、すごく気持ち悪い」
胸部分の服を手で握りつぶしながら、どうしようもない不快感を抑え込む。歯を食いしばらなければ、なにかが壊れてしまいそうだ。
温かさを感じて、ふわっ、と不快感が和らぐ。
サムが胸を握りしめていた手をほどき、絡めとってくれたのだ。
「サム……」
「ルイ、気持ち悪いのはお前が自分に嘘をついているからだ」
「嘘……?」
「寂しくないなんて嘘。苦しくないなんて嘘。お前は独りでいるのがどうしようもなく寂しくて、苦しかったんだろ」
「そう、なのかな」
キラが俺を心配して泣いてくれたとき、自分が孤独を感じていて、誰かに側にいてほしいと願っていたのではないかと、そう思いいたりはしたけれど。
でも、それを認めたら全部が崩れてしまいそうで、、。
「お前は独りじゃない。俺もいる。ソフィもいる。それと、キラ、だったか? あいつも」
「うん……。キラは俺のために泣いてくれる優しい子だよ」
「ああ、お前のために曇天街最強に喧嘩を売る優しい子だな」
そういえばそうだった。
「キラは頭もいいし、冷静なんだけどな」
「……あれでか?」
信じてないな。まあ仕方ない、か。
曇天街最強たる雷帝にわざわざ声をかけて、あげく裏切ったことになっている俺の話をするなんて、死んでも文句を言えない所業だ。
「うん、たまに無茶をするけど、ね」
「……ルイにはちょうどいいかもな」
「え?」
「ルイ自身が心を無視して頭で正しいと思ったことしかしないタイプだからな。一緒にいるのは心の赴くまま無茶する奴でちょうどいいのかもしれない」
「……なるほど」
キラの行動は読めなくて面白い。それは、俺と正反対だからなのかもしれない。
頭でしか動けない俺と、心のまま動くキラ。
キラと出会えたことは何よりの幸福だ。
「ルイは大人すぎる。まだまだ子供だってのに」
「……子供って」
「小さい頃から大人っぽかったし、俺よりずっと頭よかったけどな。心は子供だ」
サムはベッドから腰をあげ、俺を見下ろす。
「わがままがあるなら聞くぞ?」
ああやっぱり。サムには敵わない。
俺のことは何でもお見通しか。
クロムに誓ったことのために必要だと考えはしても、口に出すのに勇気がいる言葉。
サムに背中を押されたからこそ言える言葉。
「俺、曇天街を出ていこうと思う」
ルイの裏切りには何やら裏がある様子?
そして、決意したルイ。




