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勝利の女神が終結をもたらす。
勝利の女神の気配を感じて、それを噛み締める。
だとしたら必要なのは時間稼ぎか。
「クロム、クマすらも今回の件には納得できていないんだ。説明、してくれないか?」
優しく、穏やかに問いかける。
クロムとクマは仲がいい。だからクマがクラウドに敵対するってのはよっぽどのことだ。
つまり、クロムの気を引くなら、クマを出すのが手っ取り早い。
「クロム、俺にも聞かせてくれや。お前だって曇天街を守りたいって思ってたんじゃねぇのか」
泣きそうな顔でクマも呼び掛ける。
無表情がデフォルトのクロムもこれには少し困った顔をした。
「クマ……。いいだろう、話してやる。お前達、戻れ」
「「「ハッ」」」
ダン、フニ、ケンの3名がクロムのもとへ一瞬で戻る。
武器をしまって、クロムの後ろに控えた。
クロムはハヤテに目を向けたあと、俺と雷帝、クマを一瞥し、静かに語り始めた。
「曇天街は国の贄。国民をまとめあげ、王家の力を強めるために利用されている」
それは、ハヤテが授業で話してくれたこと。
やはり、クロムも知っていたか。
「だから曇天街の力を強めるために国王と取引をした」
取引?
「奴隷を提供する代わりに、豊かな生活と自治を認めるように」
なっ! 奴隷だと!?
さすがに予想外だが、なるほど、そのために住人をとらえていたわけだな。
クロムめ、相変わらず冷酷なまでの実利主義。
雷帝が雷を帯び始める。
もともと短気な男なので、怒りが溢れ出そうになっているらしい。
クマはクマでクロムを睨み付けている。
ただ、俺だけはクロムに怒れない。
クロムの見た現状も、そこから見出だした意図もわかってしまうからこそ。
だから、俺はこいつが嫌いなんだ。
同族嫌悪、とでもいうだろうか。
誰よりも合理的で、決して間違ってはいないからこそ。
「曇天街奴隷産地化計画……」
苦々しく声を絞り出したのはハヤテだ。
「これは、確かに計画されたことだが、クラウドの手前、実行は不可能と判断されたはずだ! どうして、クラウドがそんなおろかな計画に荷担する!」
泣き叫ぶような訴えに、しかしクロムは冷静に答える。
「曇天街の現状を考えれば魅力的な計画だ。わずかな犠牲で多くの住人を救えるのだからな」
そう。これは一の犠牲で百を救う、そういう取引だ。
もし、今回俺がゴミ処理の現場に来ていなかったなら、外れの住人が捕らわれたことなど、中心部には届かなかったかもしれない。
もし知れたとしても、ゴミ処理に巻き込まれて死ぬのと同じくらいの住人が捕らわれたところで、誰も問題視しなかったかもしれない。
曇天街の片隅で、人知れず、一の犠牲は払われた。
それで曇天街の住人の生活が豊かになり、自治まで認められるなら、これはとんでもなく魅力的な取引なのだ。
クロムのいうことは正しい。
どれだけ感情で否定したくなろうとも、とてつもなく合理的で利の多い取引だ。
感情で否定しても、クロムは止まるまいな。
でも、知ってしまった。
住人達は自分達が奴隷として虐げられる可能性を知ってしまったんだよ。
ビリビリ
強大な光がクロムに向かう。雷帝の雷だ。
クロムは指をくいっとあげる。
すると、手前の地面が盛り上がり、雷からクロムを守る盾となった。
雷帝の雷を受け止めたあと、盾は崩れる。
そう、クロムは魔法使いなのだ。
雷帝ほどの威力ある技は持たないが、土や水、風をある程度操ることが出来る。
チッ、雷帝が舌打ちをした。
いくら最強を誇る雷帝とはいえ、クロムを簡単には倒せない。条件が揃えば、瞬殺も可能だろうが。
「まあ、待て雷帝。シロサギの意見を聞いてみようじゃないか」
「なにぃ?」
「お前もシロサギの頭のよさはよく知っているだろう? シロサギの意見ならお前も納得するんじゃないか?」
「……」
雷帝が黙る。俺の頭脳を信用してくれているのは嬉しいけどな。
ただ、クロムは俺がクロムの考えに賛同すると信じて疑ってないようだ。
場にいる全員の視線が俺に向く。
俺は空を見上げ、ふっと息をはいたあと、クロムに向き直った。
「クロムの考えは理解できる。実に合理的で、曇天街のためになる取引だ」
クロムの口角があがり、雷帝は怪訝そうな顔をした。
ハヤテやアランからも抗議の視線が送られているのを感じる。
「だが、すまない。俺が計画を台無しにしてしまったらしい」
今度はクロムが怪訝そうな顔をする。
「豊かな生活とはなんだ? 衣食住に困らないことか? ああ、確かにそれを豊かだと考えるものもいるだろう、否定はしない。ただ、豊かさとは三者三様の形を持つものだ」
誰もがわけがわからないという目で俺を見ている。
「クロムが曇天街奴隷産地化計画について話してしまった時点で、この取引は曇天街を救うものではなくなった」
「……どういう意味だ?」
「自らが奴隷にされるかもと怯える者のなかに、豊かな生活を享受できる者はほとんどいないからだ。奴隷にされる可能性があると知ってしまったら、常にそれに怯え、心は疲弊する」
クロムがわずかに目を見開く。
「だから俺がここに四天王を呼び寄せ、クロムが曇天街奴隷産地化計画を話してしまった時点で、この取引は破綻した。すまない」
「……ここにいる全員が口をつぐめばいいことだろう」
「なるほど、一理ある。けど、ハヤテもサムもこの計画には反対してる。反対する者の口に戸は立てられない」
「雷帝は仲間を人質にとれば容易に口をつぐむだろう。ハヤテ殿下は今ここで捕らえる」
「残念だけど、時間切れだよ」
俺は空を指差す。
瞬間、雲が空をおおい、影を落とした。
ザァーーー
強めの雨が降り始める。
「なっ、さっきまでド晴天だったのに!」
ダンや、クラウドの者達が狼狽える。
クロムは狼狽えはしないものの、わずかに顔を歪めた。
雲と、雨。
何よりも雷帝と相性のいい2つだ。
そして、俺は昔から、雨が降る前兆を感じることができた。
まさしく、俺だけに聞こえる声のようなものとして。
ビリビリ、ゴロゴロゴロ
雷帝が片手をあげると、雷が雲に向かって伸びていく。
雲は雷帝の雷を溜めて、全体を光らせ始めた。
バリバリ、ゴローーン
雷は雲から一直線にクロムへと落ちていく。
ダンがクロムを庇うように大剣で雷を受ける。
アオウぁーーくっ、
そのまま気絶し、倒れこんだ。
雷帝の体から放たれる雷よりも、雨雲経由で放たれる雷の方がずっと威力は高く、かつ、広範囲への攻撃が可能となる。
この力こそ雷帝が最強と歌われる理由だった。
雨雲が存在するとき本気を出せば、曇天街の全住人を一瞬で殺すことすら可能な力だ。
クラウドを退かせるならここしかない。
それに、俺は決めたよ。
「クロム、計画は変更しろ。いつか俺が、犠牲なく曇天街を救ってみせるから」
「犠牲なく、だと?」
「ああ、だから、それまで国を抑えていてくれ。これは国の中枢に入り込み、力で対等な関係を築いているクラウドにしか頼めない」
クロムは一瞬思案して、ふっ、と笑う。
「……シロサギが言うのなら信じてやろう。お前は俺と似ている。できないことを簡単に口にするやつではない」
「ああ、ありがとう。似ていると言われるのは不快だが、この誓いは守るよ」
俺の祈りを込めて。
経てして、クラウドは国軍を退かせて、帰っていった。
VSクラウド、閉幕です。
祈りの届くその日まで、ルイの道は続く。。




