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ハヤテがまさかの第三王子!?
第三王子、ハヤテ・ウェザリア。
なるほど。やはり、ハヤテは王家の人間だったか。
王家を恨まないのか、というあの言葉。
王家の者としての責任を重く受け止めているようだった。
ざわめきが起こる。
当然だ。この曇天街に国の王子がいるなんて、誰も想像できなかったろう。
キラも目を丸くしている。
「ハヤテ殿下、曇天街は王子が居ていい場所ではありません」
クロムの呆れたような声が響く。
「なぜだ? 曇天街だって国の一部じゃないか」
ハヤテは臆すことなく、凛とした声で答える。
「それを王家の貴方が言うのか」
クロムの小さな呟きは、果たしてハヤテにも聞こえただろうか。
王家の力を強めるための贄として、曇天街の者たちを虐げておきながら、曇天街を国の一部と言うのは傲慢だ、とクロムはそう思っているのだろう。
正直、俺もハヤテの人となりを知らなかったなら同じ事を考えたはずだ。
そして、今この場にいる曇天街の住人達も詳しい事情を知らずとも王子に対して憎しみを持ってしまっている。日々の苦しさから国への不満を、恨みを、憎しみを持つ者は多いのだ。
ハヤテが凛とした声で曇天街を擁護するほど、曇天街の住人はハヤテの敵になってゆく。
まずいな。
クラウドだけならともかく、住人すべてが敵になってはキラでもハヤテを守りきれない。
なんとか誤解を解かなければ。
「王子だとしても、この曇天街で3ヶ月という長さ生活をしたのだから、ハヤテはもう曇天街の仲間だ。曇天街を虐げ、俺たちを蔑む人間が、この曇天街での暮らしに耐えられるはずがない。ハヤテの心は俺たちと共にある」
「心があったとしてなんだというのだ。たかだか3ヶ月曇天街で暮らしたからなんだというんだ。何年も王宮で安穏と暮らし、曇天街を放置してきたその罪が消えるとでも?」
「曇天街には元貴族も大勢いる。それこそ、ここに来るまで曇天街に目を向けなかったり、蔑んできた奴も多いだろう。それでも、この曇天街で暮らした時点でみな、曇天街の仲間になるのだと俺は思っている。曇天街に来る前は関係ない」
「関係ないとは思えないな。ハヤテ殿下はここで暮らすしか道がなくなった者達とは違う。帰ろうと思えば外界に帰れる。本気で望めば、王宮に帰れる。曇天街の生活を疑似体験したところで、曇天街の仲間にはなりえない」
どこまでも淡々と言葉を返すクロム。
さすが、合理的考え方を好む男だ。
今回の件も感情で動いているわけではない、か。
そうなると、これ以上議論したところで平行線だな。
思わず閉口する。
「曇天街の仲間になれるなどと、そんな不遜なことを願うつもりはない。これまで、曇天街を放置してきたのも事実だ」
クロムに言葉を返さない俺の代わりに、拳を握りしめながら話し始めたのはハヤテだった。
「でも、曇天街が王家の贄として存在するのだと知ったとき、王家を憎んだ気持ちは本当だ。自分がウェザリア王家の人間であることを恥ずかしいと思ったのは本当だ」
王家の人間であることが恥ずかしい、か。
王家は豊かな生活が保証され、誰もが羨む存在だというに、恥ずかしいとは、住人達が驚き、息をのみ始める。
「だから僕はここに来た。国を変えたくて、曇天街を救いたくてここに来た。王子とはいえ僕には何の力もない。だけど、曇天街の生活を知りたいと思って、王宮を飛び出した」
そうか、自らの意思で曇天街に来てくれたのか。
王宮での暮らしを捨てて、この街に……。
「そうして、くま商店のおじさんやルイ君、キラちゃんに出会った。僕は、曇天街がこんなにたくましい街だって知らなかったよ。こんなに優しい街だって知らなかったよ」
「僕が救うなんておこがましかったのかもしれない。曇天街の住人はただ虐げられて泣いているような弱い人たちじゃなかった。曇天街に誇りをもって生きているんだ」
「僕を、王家を恨むのは仕方ない。けど、僕は曇天街の住人と共に戦おう。敵が国だろうと、クラウドだろうと、僕はもう曇天街が大好きだから」
住人達からハヤテへの敵意が消えていく。
最高だ、ハヤテ。
住人達の心を動かすに足る、いい演説だった。
嬉しいよ、曇天街を大好きだと言ってくれて。
けど、クロムには通じないだろうな。
感情なんかに左右される男ではないのだ。
それにさっきクロムは言った、『心があったとしてなんだというのだ』と。つまり、ハヤテが本当に曇天街を想っていたとしても、それは関係ないのだと。
少なくともクロムはそう考えている。
「フニ、ケン、捕らえろ」
案の定だ。クロムは部下にハヤテを捕らえるよう指示を出した。
「「ハッ」」
刹那、ハヤテの眼前にフニとケンが現れる。
速すぎて、ハヤテには認識する間もなかっただろう。
キーン、シュッ
だが、キラが反応できないわけがない。
フニの剣を短剣で受け止めいなし、即座にケンの拳をかわし、深く沈んで短剣をケンのお腹に刺す――が、避けられ、拳が再び飛んでくるのをバク転で避け、ハヤテの位置をずらし、フニの剣から守った。
ハヤテが認識できたのは、キラのバク転あたりからかな。
強い。
こと、戦闘センスという面において、キラは俺より数段上だ。
「驚いた。この子、強いネ」
「けけっ、曇天街にまだこんな猛者が隠れていたとはな」
また、ハヤテに向かって飛び出した2人を、しかし今度止めたのはソフィだった。
無数のクナイを放ち、2人を下がらせる。
「ちょっと、あんた達、私のこと無視しないでくれる? 雷帝の右腕として、2人とも叩き潰してあげるわよ?」
シュッ
ん! ソフィが消えた!
いや、正確には、速すぎて消えたように見えた、だ。
ソフィは瞬身の術をもち、曇天街一の速さを誇る。
最強の右腕にふさわしい実力者なのだ。
(久々に見たよ、瞬身の術。懐かしい……)
気づいたときにはフニの首もとにクナイを押し付け、ケンの身体には数本のクナイが刺さっていた。
「けけっ、油断したぜ」
「しくじったネ」
だが、猪突猛進。そんなソフィに向かっていく男がいた。
黒き影、ダンだ。
フニを人質に取られているにも関わらず、関係ないとばかりにソフィに剣を振りかぶる。
キーン
ソフィはフニを突き飛ばし、両手に一本ずつ持ったクナイで大剣を受け止める。
フニごとソフィを斬ろうとしたダンを見て、フニには人質の価値がないと判断し、剣を止めることに集中したのだ。
ぐっ、ソフィが片ひざをつく。
大剣に押し潰されそうになるソフィ。
助けなきゃと思うが、俺の身体は思うように動かない。
ケンにくらった拳のダメージがまだ残っているのだ。
雷帝はクロムとにらみあっていて動けない。
キラもハヤテのことを考えて動けない。
動いたのは―――クマだった。
フン、オラァー
クマが拳で地面を叩く、と地面が崩れ始めた。
先に崩れたのはダンの下の地面。
ちっ、舌打ちと共にダンは後ろへ下がる。
ソフィは大剣が消えたとはいえ、体力をかなり持っていかれたらしい。
片ひざをついたまま両手を力なく下ろした。
肩で息をしているのがわかる。
地面が崩れる手前で、キラが即座にソフィを抱えあげ、ハヤテの隣まで下がった。
クマが参戦したことで、ソフィを助けてなお、ハヤテを守れると考えたのだろう。
いい判断だ。
しかし、俺に続いてソフィも戦闘不能となると、状況は苦しいな。
いくら雷帝が最強とはいえ、クロム相手では勝つにも時間がかかるだろうし、クマとキラでハヤテを守りながらクラウドを相手取るのは厳しいものがある。
そんなときだ。何かに呼ばれた気がして、ふと、空を見上げる。
雲ひとつない青空が広がっていた。
(ああ、どうやら勝利の女神は俺たちに微笑む気があるらしい)
それは昔から俺だけに聞こえる声だった。
ルイにだけ聞こえた声とは!?
前話にて、クラウドのボスの名前が『クロム』だと明らかになりました!
でも、熱心な読者の方ならお気づきだったかもしれません。
挿話「くま商店の1日」にクロムとして既に登場しておりましたし、それとなく匂わせておいたので笑
気づいてもらえてたら嬉しいです♪
気づかなかった方は、また改めて「くま商店の1日」とか読んでみてください(^^)




