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幸せムードの歓迎会です!

くま商店から帰ってきてルイは夜ご飯を作り始めた。

その間に私は机を設置する。



さっき、くま商店にて、小さくて足が折り畳めるタイプの机を見つけたときのルイは分かりやすくテンションが上がっていた。

「あっ!見てキラ!机あるよ!!」

ひどく明るい声で眼をキラキラさせながらそう言われた。

何がそんなに嬉しいのかさっぱりだったが、ルイが喜んでいるならそれでいい。

私はただうなずいてその場をやり過ごした。


帰り道、ルイは片手に机を持ち、もう片手に食材を持ち、意気揚々と歩いていた。

曇天街で両手とも塞ぐなど普通はあり得ない。突然誰かに襲われたりしたとき対処が遅れるからだ。


「…食材、私が持つ?」

そう尋ねれば

「女の子に重いものは持たせられないよ」

という紳士的な答えが返ってきた。

「…ソウ」

ルイがいいならいい。



昨日のゴロツキ達の反応、今日のクマの反応。

思うにルイは強者としてかなり名が知れているらしい。

だからこその、この余裕なのだろう。

たとえ両手が塞がっていようと白鷺類に手を出す者はいないという判断か。


実際、誰にも襲われなかったのだからその判断は正しかったようだ。


ソファの前に机を設置し終えて、奥をうかがう。

さっきから聞いたことのないジュージューという音がしていた。



**************************



朝、そしてくま商店でも、俺はこれからに言及した。



『これからの生活に必要なものを揃える必要があるよね。キラも今までと環境が変わるんだから欲しいものとかあるだろ?』


『これから俺の元に置く、キラだ。これからここに寄ることもあるだろうからな。知っておいてくれ』



それをしっかりと聞いていただろうキラは、しかし、一切否定しなかった。

どうやら、俺と共にこの家に暮らすことを受け入れてくれたらしい。

(よかった)


気分よく調理していると、視線を感じた。

曇天街で料理は珍しい光景だからか、凝視されている。


この家には水も電気も通っているが、ガスだけない。

そのため、昔くま商店でカセットコンロを買った。

独りで住んでいるときはよっぽど寒い日にスープを作るってくらいしか使用していなかったが、これからは毎日使うことになりそうだ。


「ふっ」

思わず笑みがこぼれる。


「…」

ちらりとキラを向けば、その笑みに怪訝そうにしながら首をかしげている。

ただ、声はかけてこないところがいじらしい。


たまらず声をかける。

「どしたの?」


キラはおずおずと質問してくる。

「…なに作って、るの?」

「ステーキだよ」

「…」

「ステーキっていうのは肉のかたまりを焼いたもののこと」

「…へぇ」


あまりピンと来ていないらしい。

無理もない。曇天街で生の肉など普通は手に入らないのだから。

俺もくま商店でしか見たことがない。


「…料理、どこで?」

いつもより小さな声でキラが呟くように問うてきた。

料理をどこで覚えたかという話か。

(どう答えるべきか…)


「…昔ね」

結局一言でごまかしてしまった。



**************************



純粋に気になって料理のことを尋ねたが、困ったようにごまかされた。

昔、、なにかあったのだろう。

これ以上、踏み込むべきではないと判断してソファに戻る。



程なくして、ルイがステーキを持ってきた。

隣にはジャガイモが添えられている。


「…ジャガイモ、とステーキ?」

「そう!ステーキは塩で味がつけてあるよ。ジャガイモは蒸かしただけだけど。」

「ソウ… 」


料理のことを言われてもわからない。

とりあえずうなずいておく。


(どうやって食べるんだろ…)

見たことのない道具がおかれている。


「…ルイ。これ、どう使うの?」

「あぁ。スプーン使えるならこれも使えるかと思ったけど違うんだね」


ルイはうなずきながらその道具を持つ。

「これはフォーク。こっちはナイフ。今から使うからよく見てて」

フォークで肉を刺し、ナイフで切って、切れたらフォークを口に運ぶ。

(なるほど)


ルイがやったのを真似て使って見せると

「器用だなぁ」

ルイの呟きが聴こえた。


それを気にせずお肉を口に入れると

(んん!!)

口の中が美味しさで溢れる。


それからはもう夢中でお肉を頬張り続けた。



**************************



ものすごい勢いでステーキを頬張るキラを見てホッとする。

(喜んでもらえたようでなによりだ)

それにしても、一口食べたときの瞳の輝きは凄まじかった。


「ふふ」

思い出して、こぼれた笑みにキラがこちらを伺う。

見れば、ステーキを食べ終え蒸かし芋に手を出したところだった。

「ステーキ美味しかった?」

「うん」

喰いぎみにうなずかれた。


「よかった。今日はね、歓迎会のつもりなんだ」

「…?」

「キラ、我が家へようこそ」

両手を広げウインクして見せる。


(いや、、ちょっとっていうかだいぶキザすぎたな、、)

なんの反応も返ってこない状況にいたたまれなくなってうつむいた。


「ルイ、、それはナイ」

冷たい目でばっさりいかれた。

なんか想像より手厳しいな、おい。

「いや、うん、ごめん…」


「でも…」

キラがポツリとこぼす。


なにやらソワソワして落ち着かない様子だ。

そして、覚悟を決めたように顔をあげると、

「これからよろしく、ルイ!」

最高の笑顔でウインクしてくれた。


「うわっ!優しい!キラ!」

「調子に乗るな」

「はい…」


キラは思っていたよりずっと明るい少女のようだ。



**************************



『我が家へようこそ』

言い方はともかく、その言葉はとても嬉しかった。

ルイが私を家に置くつもりだというのは知っていた。

それでも、歓迎のためにお肉を用意し、努めて明るくそれを告げたのは、私への優しさだったと理解している。


命令ではなく歓迎。

あくまでも対等な立場であると示す行為。


だから私もそれに応えた。

本音でツッコみ、同じようにウインクをして。


ルイが私に対等を求めるならどこまでも付き合ってみせる。

(これからは遠慮しないゾ…)



その日、キラはステーキにまみれる夢を見た。


これをもって、キラの大好物はステーキになりました☆

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