41
新たなる登場人物が続々と。
突然のリーダー宣言に戸惑う連中。
そこに煽るように言葉を投げ掛ける。
「このまま捕まって、国のいいように使われていいのか?」
「曇天街の住人なら虐げられて当たり前だと思うのか?」
檻の中を見渡しながら、一人一人に投げ掛けるように言葉を発する。
悔しそうな顔を見せる者、不快に顔を歪めるもの、冷静に事を眺める者。
ああ、大丈夫。まだ絶望している者はいない。
「檻から抜け出し、自らの生を全うしたい者たちよ、今は俺に付き合え」
「俺たちは、俺たちの道をゆこう」
声を荒げることなく静かに、けれど意志を込めて。
俺の声は果たして、檻に囚われた者達に響くだろうか。
いや、さすがは曇天街に生きる者たち。みな、俺の言葉に戸惑い、とらわれながらも、警戒心を強めてしまった。
やはり、言葉だけで簡単に信じてはくれないか。
しかし、そこに凛とした男の声が降る。
「この人の言うことは信じてもいい」
驚くことにそれは俺を擁護するものだった。
声の主は、背が高く細身だが、ことさら目を引くのはオレンジの髪だった。ここまで鮮やかなオレンジは珍しい。
そのオレンジ髪の青年は俺を見据えたあと、周囲の者達を見回しながら話を続ける。
「今回、ゴミ処理が行われるときには音が鳴る、という情報が俺たちには与えられた。その情報を流してくれたのはそこにいるシロサギだ。おかげで逃げ延びた者も多くいるだろう」
連中はチラチラと俺を見つつ、青年の声に耳を傾けている。
これを知っているということは青年もロエお姉さまを慕う親衛隊の1人か?
「そのシロサギが今度は俺たちを助け出すと言ってくれている。どうせ捕まってろくでもないことをさせられるくらいなら、今ここでシロサギに命預けるのも悪くないんじゃないか」
青年は曇天街の外れに生きる者達に慕われているらしい。
青年の言葉ならと、頷いている者も多かった。
「異論があるものはいるか? いないなら、檻に捕らわれた俺たちは全員、シロサギに命を預けることになるぞ?」
檻の中の者たちはいまだ迷っているようだったが、弱々しくとも確実に頷いた。猜疑心の強い曇天街の住人達にしては、破格の対応だ。
檻の中を見渡し、抗議の声が上がらないことに満足そうに口角をあげたオレンジ髪の青年は、俺にまっすぐ目を向ける。
「さて、シロサギ。俺はアラン。自分で言うのも難だけど、外れではそこそこ慕われているんだ。まあ、外れのまとめ役とでも思ってくれればいいよ」
驚いた、外れにまとめ役なんていたのか!
だが、目の前で住人達をまとめてみせたのだから疑う余地もない。
「まとめ役がいたとは知らなかった。挨拶が遅れて申し訳ない。改めて、白鷺類だ」
胸に手をあて、礼をする。
アランは軽く目をみはったあと、大きな声で笑いだす。
「アハハハ! まさか頭を下げられるとは思わなかった。ふう、面白い人だ。あいつを預けて正解だったな」
……あいつ?
あー、なるほど、あいつっていうのはハヤテ、かな?
ハヤテが中心部まで来れたのはアランの協力があったから……とか?
だが、ここであいつという表現を使ったということは、名前を明らかにする気はないってことだろう。
追及してもいい答えは返ってこなさそうだ。
この考えは頭の中に留めておこう。
こちらが何も言わないので、アランが話を進める。
「で? 捕まった俺たちはどうすればいい?」
「ああ、とりあえず曇天街で心をひとつにできたら、勝ちみたいなものだから」
「え?」
驚いて真顔になったアランがなかなか面白かった。
***********************
曇天街で心をひとつに、ね……。
私の耳に届いたルイの言葉を思い浮かべる。
ルイは本気で言っているんだろうけど、曇天街に一番似合わない思想な気がするよ。
リーダー宣言に始まって、心をひとつに、だ。
ルイのすごさを知らない人からしたら、奇人変人の類いにしか見えないことだろう。
ただ、アランはすっとんきょうな声をあげたあと、ひたすら面白そうに笑っていた。
アランなら私も知っている。
外れにいて知らない人はいないだろうってくらい顔が広い。
ねえ様とも仲がいいらしく、何度か家にも遊びに来ていたっけか。
たしか、ずっと曇天街にいたわけではなくて、1年ほど前に外界から曇天街に連れてこられたと言っていた気がする。
犯罪者として曇天街に収容されたってことだろう。
瞬く間に外れに馴染み、ねえ様とも親しげなアランに私は軽く恐怖すら覚えていた。
得体が知れないというか……。
でも、ねえ様みたいに天真爛漫ってわけじゃないけど、それなりに優しい人だとは認識している。
だから、まあ、ルイがアランと手を組むのは、嫌だけど許容しよう。
「ククッ、ぶすくれた顔してんなぁ」
気づけば九条が私の顔を見てニヤニヤしていた。
許容するといいつつ、顔は素直だったようだ。
笑う九条を目で黙らせて、話を進める。
話しかけてきたってことは準備がある程度終わったのだろう。
「ルイが曇天街で心を、ひとつに、って、言ってたけど?」
「たしかにそういう作戦かもな、ククッ」
「……準備できた、の?」
「ああ、メカたちに働いてもらったぜぇ」
なるほど、準備と称してモニターを操作していたが、メカを遠隔操作していたということらしい。
「だが、間に合うかはちょいと微妙だな」
「間に合うって、なに、に?」
「ククッ、ルイのピンチにってな」
ん! ルイのピンチに間に合うかが微妙って?
そもそもルイにピンチが迫ってることが大問題だ。
耳を済ませ、ルイの声を探る。
とりあえず、なにか変わったところはない。
もっと遠くまで耳を済ます。
と、不穏な会話を察知した。
場所でいうと、門の付近か。
「こんな国の犬みたいなマネ、私ごめんよ。ボス、なに考えてるの」
「けけっ、同意見だな。俺は曇天街の敵になる気はねえってのによ」
恐ろしいほど、平坦な声。
でも、わかる。こいつら強い。
内容からして、ゴミ処理に加担する人たち、だけど、それは本意、では、ない?
「ボスの決定は絶対だ。お前たち、事をややこしくするなよ?」
「そうは言っても、乗り気なのはボスとあんたくらいよ?」
「俺、従う」
「あら、ここにも乗り気なのいたわ」
こっちは平坦ではないけど、余裕って感じの声だ。
曇天街にいてこの余裕、ただ者じゃない!
コツコツ
わずかに聞こえた靴の音。そして、さっきまで平坦に、あるいは余裕に構えていた人たちが息をのみ、黙りこくる。
「ふっ、集まったのは5人だけか」
ぞわっとした。
怖い、なにこの声。冷たくて、聞いているだけで、体が震えそうになる。
「ボス、申し訳ありません。他の連中は曇天街のやつらとは戦いたくないと」
声をあげたのはさっき事をややこしくするなと注意していた男の人。
「いや、この4人を連れてこられただけで、十分だ」
ボスと呼ばれる男に他の4人は声をかけない。
さっきまで文句いってたのに。
ピクッ、なに?
ボスと呼ばれる人の軽く吐く息の音すら怖い。
ボスと呼ばれた人がなにか話そうとしている。
それはわかる。
でも、その前の静寂にただ静かな呼吸。
それがどうしてこんなに恐ろしいのか。
ボスがいよいよ言葉を発する。
「我らクラウド、これより曇天街を喰らう」
「「「「「ハッ」」」」」
誰も異を唱えられない、絶対的命令だった。
遂に、彼らが動き出します!




