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新たな登場人物の登場です…
ソファで眠るキラは欠片も起きる様子がない。
昨日は夕方にも寝ていたので今日は早く起きるかと予想していたのだが、その予想は完全に裏切られた。
(まあ、眠れるのはいいことだ)
朝という時間を過ぎてもうすぐ昼になりそうなところだが、わざわざ起こす必要もないため放っておくことにする。
何かから逃げてきたらしいキラは、なぜか俺に懐いた。
俺はずっと独りで生きてきたが、1人で住むには広い家だし、誰かと共に暮らすというのも悪くないだろう。
そもそもキラという少女は俺の興味をことごとく刺激する。
俺は相手がどのような人間か、次どのような行動をとるか、大体の場合わかってしまうのだが、なぜかキラのことは読めない。
キラと共にいれば、これから胸の高鳴る日々が送れそうだ。
キラが俺をどう思っているかは知らないが、決して優しさや同情で助けたわけじゃない。
俺はいつだって俺の欲望に忠実だ。
だから、例えキラが離れることを望んでも俺はもうそれを許さないだろう。
(ふっ、ほんとどうしようもない)
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空気が変わるのを感じた。
瞬間、パチリと目を開け、上体を起こす。
こちらを向いているルイと目が合った。
ルイは急に私が起きたから驚いているようだ。目を丸くしている。
「…おはよう」
とりあえず声をかけてみる。
「うん、おはよう。よく眠れたみたいだね」
さっきまで少しギラついた空気を醸していたはずのルイはパッと空気を切り替えて、明るく答えて見せた。
(なるほど…さすが)
昨日はルイを曇天街に似つかわしくない穏やかさだと思ったが、どうやら私の思い過ごしだったらしい。
この空気の切り替えは強者の証だ。
考えてみれば私を助けたときもゴロツキども相手にかなり凶悪な空気をまとっていた気がする。
あのときは私も調子が悪かったので、あまり気に留めなかったが…。
というか、私に向く空気はどこまでも穏やかだったのだ。
敵と認識したもののみに違う空気を放つとはなかなか器用な真似をする。
見つめたままそんなことを考えていたら、当然ルイに不審がられた。
「どうかした?」
「…なんでもない」
嘘ではない。
自分に向けられる空気が穏やかなら私はそれでいいのだから。
昨日の残り物のスープを食べながら、ルイがニコニコ話すのを聞く。
「これからの生活に必要なものを揃える必要があるよね。キラも今までと環境が変わるんだから欲しいものとかあるだろ?」
どうやら、私がここで暮らすのは決定事項らしい。
穏やかな顔してなかなかに強引なことだ。
私にとっても都合がいいことなのでいっこうに構わないが。
「キラ?」
黙っていたら呼び掛けられる。
「…」
「キラ?」
仕方なさそうにもう一度呼ばれれば、さすがになにか答えなければいけない気がしてきた。
「…欲しいもの…ナイ」
身一つで生きる曇天街の住人だ。
こんなにいい家があるというのにさらに何を欲しがればいいのか全くわからなかった。
「じゃあとりあえずお店に行ってみようか。なにか欲しいものが見つかるかもしれないしね」
「…ウン」
この曇天街にお店なんて可愛らしいものが存在しているのか。
甚だ疑問ではあるが、ルイが望むなら従うまでだ。
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お店に行こうと口にすれば素直にうなずいてくれたキラだが、明らかに胡乱げな瞳でこちらを見つめていた。
無理もない。曇天街でお店を開こうものならすぐさま品を奪われて商売になどならないだろう。
それがわかっているからキラはお店という表現に疑問を抱いたのだ。
(曇天街に生きてきたことは間違いないな)
曇天街と外界の間には巨大な柵がしかれていてそう簡単に行き来はできない。
それでも不可能とは言いきれないため、キラが外界から来た可能性も視野には入れていた。
しかしながら曇天街の事情をよく理解していて、これまでの行動・反応からも察するに、間違いなくキラは曇天街の中で生きてきたのだろう。
でも、俺はこれまでキラを見かけたことはないし、キラも俺のことを知らないようだった。
とすると、曇天街の外れにいたというのが妥当なところか。
そう当たりをつけたころお目当ての店に到着した。
曇天街の中心部、よく目立つ大きな看板を掲げている『くま商店』だ。
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到着したお店には、白い看板に真っ黒な文字で大きく『くま商店』と書かれている。
ドアは開け放たれているが、なんとも入りがたい空気だ。
それを察してか、ルイはこちらを向き軽く微笑んでから中に入った。
お陰で緊張が溶け、私もあとに続く。
「おー小僧!昨日はずいぶんと可愛い買い物をしていたが、なるほどそいつが理由か」
強者の風格をまるで隠すことのない男が威勢よく声をかけてきた。図体がでかく、盛り上がった筋肉はナイフごときでは傷がつけられそうにないほど、しっかりと鍛え上げられている。
(なるほど…)
これほどの強者ならばお店を開けるのも納得だ。
おじさんと呼ばれる部類に入るだろう歳の男は商売人らしく愛想のいい笑みを浮かべ、敵意は感じない。しかしながら、明らかに味方に向けるのとは違う警戒をはらんだ空気を放っている。
ならばこちらも、敵意は向けず警戒だけは全開にしておこう。
ルイの1歩後ろで警戒心を高め待機した。
「フハハハハ!!」
途端、男が豪快に笑いだした。
「こりゃぁいい!ずいぶんといい拾い物をしたなぁ、小僧」
ルイは隣に来て私の肩に片手をのせ、
「ああ。これから俺の元に置く、キラだ。これからここに寄ることもあるだろうからな。知っておいてくれ」
挑戦的な空気をはらみニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。
だが、一方で肩にのせられた手からは穏やかで優しい気が流れてくるようだった。
「わあってるよ、小僧のもんに手は出さねぇし、出させねぇ」
男の言葉に納得したらしいルイは瞬間、いつもの穏やかな空気に切り替えて、店の商品を物色し始めた。
「それにしても、一匹狼としてこれまで孤高を貫いてきた小僧が、どういう風の吹きまわしだ?」
そんなクマの疑問にルイが答えることはなかった。
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味方ではない相手に対して、敵意を持たずにいれる人間というのはこの曇天街において少ない。
だから、キラがクマに対して警戒のみに留めたことは恐るべきことであり、確かな実力者であるというなによりの証明となった。
今日、くま商店を訪れた目的は、必要なものを揃えるためもあるが、もうひとつ、キラをクマに紹介することにあった。
これからキラが1人で買いに来ることがあっても、特に問題が起きないよう挨拶を済ませておこうと思ったのだ。
そういう意味では、キラの実力をクマに示せたことは大きかった。
俺の名で守ることはできるが、キラがただ俺の腰巾着のように思われるのは気にくわない。
キラ自身に力があると示せれば、舐めてかかられるようなことも減るだろう。
俺は気分よくその後の買い物ができた。
ジャガイモやお肉などの食材と、キラの衣服が主だった。
キラ的にはそんなに要らないと不満そうだったが、いくら曇天街とはいえ女の子に不自由させたくないと考えるのは仕方ない。
俺はいつだって俺の欲望に忠実なのだ。
曇天街唯一の商人、クマの登場でした!
頼れるおじさまキャラ(*´-`)




