表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/131

31

これから曇天街編のクライマックスに向かって参ります!

今回の話はその序章的な感じです。


お楽しみくださいませ♪

「今日は満月だ、ね」


外階段に座り、天を見上げたキラが呟いた。

同じように、俺も空に目を向ける。

確かに見事な満月だ。


ああ、その輝きに、雷帝を裏切った日のことを思い出す。



―――あの日も欠けることのない月が浮かんでいた。



ハハッハハハハハ


やっと独りだ。


仲睦まじかった雷帝の仲間たちを引き裂いてやった。

仲よしこよし、軟弱な最強を引き裂いてやった。


ひたすらに笑いが漏れる。


それがひどく乾いたように聞こえるのはきっと気のせいだ。

胸に穴が空いたような空虚を感じるのはきっと気のせいだ。



……今宵は満月か。

高い建物に上り、屋上に腰かけて、天を仰ぐ。


まだ秋だというのに、肌を刺すような冷たい風が吹いている。その風は胸に空いた穴を通り抜けるかのごとく、そこに穴があることを俺に分からせるがごとく、ただただ吹き付ける。


見下ろせば、広がるのは曇天街。

腐敗した街。腐敗した人。腐敗した心。


この街で生きることになんの価値があるのか。


かつて抱き、今も抱くその疑問に、自らを嘲笑う。


考えても仕方ないだろう。

この街に生きるしか道がないのだから。

意味なんてなくたって生きるしかないのだから。


だが、理解していても考えてしまうのが人の悲しい性か。


次の日も、また次の日も、俺は同じ疑問を繰り返す。

そんな自分がひどく滑稽で、穴は広がるばかりだった。


明くる日の昼下がり。


前から歩いてきたのは紫の服を着た連中。

一瞬、足を止め、何をすくむことがあるのかと、むしろ堂々と歩みを進める。


連中は気づいた途端に、猛烈な殺気と言い様のない怒りをぶつけてくる。ある者は泣き叫び、ある者は剣を向け、またある者はじっと拳を握る。


俺はそのすべてに冷笑を向け、蔑みの言葉を与えた。


穴はますます広がって、心は黒く染まっていく。


ああそうか、心など切り離してしまえば良い。

頭が働いていればなんの問題もないのだから。


その日から俺は穏やかな笑みを称え、落ち着きを持った四天王になった。


誰が向かってこようと、笑顔は崩さない。

どんな怒りをぶつけられても、笑顔で取り合わない。

どんな目を向けられても、笑顔で見ない振りをする。


穴は広がるばかりだったが、無視すればいいだけ。


それでいい。



――――ときは現在。


キラが俺をじっと見つめている。


「……ルイ、どうか、した?」


キラの大きな眼はすべてを見抜くかのような強さをたたえている。

逃げることは許されない。逃げたら愛想をつかされる。


だから、

「月は、苦手なんだ」

その一言にすべてを込めた。


キラに過去のなにもかも話す必要はない。


「私は、月、好きだよ」


キラは再び月に目を向け、まっすぐ手を伸ばす。

俺にはそれがなんだか眩しくうつった。


「月は、まるで、ルイみたい」


月は嫌いだ。

いつも俺を見下(みお)ろして、いや、見下(みくだ)している。

切り離したはずの心を照らしにくるような不躾な光。


今、また穴が広がった気がした。


「俺は月になんか似てないよ」


少し冷たい声が出た。

キラが手を戻し、うかがうようにこちらに視線を向けてくる。


俺はその目をみるのがなんだか怖くてただ月を見た。


「月をみると、励まされる、の。心がポカポカする、の。ルイもおな、じ」


俺はそれに返す言葉を持たなかった。

返したら、何かが壊れてしまうような、溢れてしまうような恐怖にかられた。


月を睨み、唇を噛み締めた。



*************************



ルイは時折、どこか遠くを見つめている。


今も、月を見ているようで、もっと遠いどこかに思いを馳せているようだ。


風が私たちを撫でる。

月の光が風を温めてくれているようで、不思議と心地のよい風。


でも、ルイには光が届いていないように見える。

ルイだけが冬にいるよう。



―――ふと、思い出したのはねえ様との会話だった。


『妹ちゃんは月が好きなの?』


私が、屋上から月を見上げていたとき、ねえ様が声をかけてきた。

コクりとうなずくと、『どうして?』と尋ねられた。


『月はなんだか、あったかい、から』


答えれば、ねえ様は目を細め、小さく笑う。


『そうねぇ、私も同意見だわ。でも、一匹狼は月に何を思うのかしら』


突然のワードに目を瞬かせる。


『一匹狼?』


『えぇ。群れからはぐれ、それでも気高く吠える狼は、月に何を思うのかしら』


私はねえ様の言う意味がわからず、首をかしげた。

それに可笑しそうに微笑んだねえ様は月を見上げて言葉を紡ぐ。


『私はね、妹ちゃん。月はときに孤独の象徴じゃないかと思うのよ。月が空にただひとつ浮かぶように、世界に自分は独りなのだとそう言われているような、そんな錯覚を覚えるの』


いつも明るいねえ様がそのときばかりは憂いを帯びた顔をした。だから、印象に残っている。



―――今、再びルイに目を向ける。


あのときねえ様が言っていた一匹狼とルイが重なったように思えた。

そういえば、初めてくま商店に行ったとき、クマがルイのことを一匹狼と呼んでいた気がする。


……ルイは月に孤独を感じるのだろうか。


そっとルイの手を握った。


「いつか、月、好きになれると、いい、ね」


ただ一言に思いを込めて。


もう絶対、ルイを独りにはしない。

シロサギの抱える孤独

キラの寄り添う心

ロエの導き……


さあ、これから曇天街のたどる運命とは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ