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挿話 ソフィと恋仲の男

ステイの親友であり、ソフィと恋仲の噂のある男……


恋仲の噂は本当か否か


『ソフィさんと付き合ってるって噂、本当ってことか?』


先日、親友であるステイに尋ねられた。

そのときは『さぁ、どうだろうな』とごまかしたわけだが、実際、付き合ってると言えるのかは微妙なところなのだ。


俺はそもそも、人を好きになるという感情を持ち合わせていない。そりゃそうだろ。この曇天街でその日を生きるのが精一杯だというのに恋をする余裕はなかったし、人は敵か味方かだけ判断できれば問題なかったのだから。


そして、ソフィは誰よりも雷帝のために動く人間だ。

うん、恋する相手より雷帝の命令を大切にする、絶対。


そんな俺たちがどうやったら付き合うという事態になるのか。


……ただ、雷帝の次にソフィに近いのは俺だろうと、そんな確信だけはある。きっかけは俺がシロサギの秘密を知ってしまったことだった。





「…………れで、いいの?」

「………が、シロサギの決断だ」

「でも、ルイは!」

「ソフィ、もう諦めろ。気に入らないならお前も俺を裏切るか」

「ちょっ、バカ言わないでよ!」


雷帝の私室、空いた扉の隙間から聞こえてきたその会話に、これは聞いてはいけないものだと即座に思った。

俺の信じてきたものが足元から崩れ去るような、恐怖だった。


なるたけ息を殺して、踵を返す。


「はっ、誰だ!」


しかし、相手は曇天街最強の男とその右腕。

どれだけ息を殺してもばれてしまった。気が動転していたせいで、うまく気配を消せなかったのも原因か。


勢いよく扉が開き、現れたのはクナイを手にこちらを睨むソフィ。そして、その奥で椅子に座ったままこちらをうかがう雷帝。


「あ、いや、その……」


ごまかす言葉が見つからない。

何も聞いてない、と平然と言ってのけろ! と頭では考えているのに、口はまったく動かなかった。


ソフィは俺から目を外すことなく雷帝に指示をあおぐ。


「殺す?」


ヒュッ! 呼吸がおかしくなりそうだ。

てゆうか呼吸ってどうやるんだっけ?

くそ、意識が遠退く。


が、理性が警鐘を鳴らした。

ここで倒れたら殺されかねない。

少しでも生き残る可能性を高めるために意識だけは保たなければ、と。


ぐっと力を込めて、ソフィの後ろの雷帝を見る。

永遠にも感じるような沈黙が続いた。いや、厳密に言えば、そう感じただけで一瞬だったのだとは思うが。


でも、その頑張りが通じたらしい。


「ふっ、青ざめた顔でその眼ができるか。なかなかだ」


雷帝は面白そうに笑って、ソフィに目配せした。

すると、ソフィはクナイを下げ、「いいの?」と怪訝そうな顔をする。


「優秀な人材こそ俺たちの守りたいものだろう?」


慈愛に満ちた目を向けられ、何がなんだかわからない。

でも、命の危機を脱したことだけは理解できた。


あ、ヤバい、倒れる……ドサッ。


「はぁ」


「限界だったか、でもまあ合格だな。監視は必要だが、仲間はなるべく殺したくない」


「わかったわ、仰せのままに」





それ以来、俺は監視の意味を込めてソフィと組まされることが多くなった。あのときの会話を決して口外しないように、という威圧を常に感じている。


ソフィの私室でくつろいでいる今もかなりの睨みを効かされていた。慣れると気にならないものではあるが。


「タケ、ステイに付き添ってルイと接触したらしいじゃない。余計なこと話してないでしょうね?」


ステイはソフィの右腕のようなものなので、すべて筒抜けだとはわかっていたが、どうやら事後報告だったらしい。

事前にお伺いをたてていたら俺とシロサギが接触するのは阻止しただろうな。


「心配すんなよ。一言も会話してねぇから」


「そ、ならいいけど」


言葉ではいいと言いつつ、目はそう言ってない。

間違いなく事実だというのに疑っているのか?


「何がそんなに気に入らないんだ? 俺はステイに頼まれたから仕方なく付いていっただけだぞ?」


「それはいいわよ、ステイから報告受けてるから! そうじゃなくて、何であんたはいつもいつも私の部屋のソファを占拠してるのよ!」


ブルブルと身体を震わせながら、ギッと睨まれる。

なるほど、そっちか。


「ははは」


「ちょっと! 笑ってごまかすんじゃないわよ!」


我ながら棒読み的な笑いになった。それに対してプンスカ怒るソフィはかわいいな。いつもキリッとお姉さんキャラだが、こういうときは年相応の未熟さが見える。


ちなみに現在、ソフィは23歳、俺は30歳。まあ、これも正確ではないが、そういうことになっている。

どちらにせよ俺の方が年上なんで、話してると優位に立てることが多い。


「ずっと部屋にいたらイライラするのも仕方ないよな。よし、一緒に散歩でもいくか?」


「イライラってねぇ、あんたが原因でしょ!!」


相変わらずプンスカしてるな。

ソファから身を起こして、ため息をつく。


「なんだ? じゃあ行かないのか?」


「え、、いや、その、行くけど……」


「はは、行くか」


「んーーもう!」


ソフィは怒りながらも邪険にできず、なんだかんだ俺との時間を喜んでくれている。好き、という感情はよくわからないが、愛しいとは思うわな。





散歩してると思うことがある。

相変わらず汚い街だが、昔よりかはずっといいって。


昔は死体がいたるところに放置され、腐り、ハエがたかり、ひどい臭いを放っていた。今は死体をすぐに雷帝が焼くので、中心部はいくぶんか空気もきれいになっている。


昔は身体拭くのも洗うのも汚い井戸水で、その汚い井戸水を飲んで死んでいく奴等も多かったというに、水道が通ったことでいつでもおいしい水が飲めるようになった。


昔は飢えていく人間や、腐った目をした人間が溢れかえり狂気に満ちていた街だったのに、今や散歩ができる程度には普通の街になりつつある。


「何? キョロキョロして」


「いや、曇天街とは思えないってな」


「……」


「いい街に、なってきたな」


「……そうね、ほんと、そうね、」


ソフィが立ち止まって、顔を伏せる。

泣いてる、のか?

曇天街を改革した立役者を思っているのか、それとも、かつてこの街で死んでいった仲間を思っているのか。


俺も止まって、空を仰いだ。

ここで気の利いた言葉でもかけられたらよかったんだろうが、あいにくと俺はそんな器じゃない。



しばらくたった頃、正面から歩いてくる男に思わず声をあげた。


「げっ」


真っ白い服は強者の証だ。ミニスカートなのは甚だ疑問だが。


「女の子が道で泣けるとは、曇天街の治安もよくなったものだな」


「そっすね」


辛くも考えることは一緒か。


「だが、ソフィは人前で簡単に泣いたりはしない。ふふ、珍しいものが見れた」


この言葉にソフィが蹴りをかますが、男=シロサギはそれをさっと避けて、いつも通り穏やかな笑みを浮かべた。


「君はこの前、ステイ君と一緒にいたね。なかなか面白い人だとは思ったけど、ソフィがここまで気を許しているとは、予想外だ」


「そりゃどうも」


なんとなく気に入らない。

自分が誰よりもソフィのことを知っているような口ぶりだ。


それに、ステイと一緒にいただけなのに俺を認識しているとは。やっぱり接触すべきじゃなかったな。


「別に気なんて許してないし! ってか普通に声かけてくんじゃないわよ!」


再びの回し蹴りを再び華麗に回避する。


「相変わらず足癖の悪いことだ」


はぁ、ソフィはため息をついて、それから真面目な顔をした。


「ほんとに、何の用?」


「いやなに、ソフィが泣いている現場に俺がいれば、雷帝の右腕がシロサギに泣かされたみたいで面白いだろう?」


「は? ふざけてるの? 死にたいなら相手になるわよ」


「ソフィ姉さんに俺は殺せないよ」


ソフィはぐっと目を見開いて、クナイを振り上げた。

俺は後ろから即座にそれを止める。


「おい、落ち着けソフィ、相手は四天王だ」


四天王という言葉に冷静さを取り戻し、ソフィの身体から力が抜けていく。そもそも泣いたばかりだから情緒が不安定なのもあっただろう。いつもはもっと冷静だ。


「なるほど、思った以上だ」


シロサギは驚いたような顔でこちらに目を向ける。


「ああ゛ん?」


「ふふ、俺もお痛が過ぎたかな。お詫びに情報をひとつ。近いうちゴミ処理が行われるらしいよ」


「は、、え?」


「じゃあね」


ヒラリと手を振り、シロサギが去ってゆく。

ゴミ処理ってあれか? ゴミと一緒に人まで処理するあれか?


ソフィをうかがうと顎に手をあて思案顔だ。


「ソフィ?」


「ゴミ処理は人が死にすぎる。サムに報告して、指示を仰がないと。タケはとりあえずみんなに黙っておいて。それからゴミ山には近づかないように」


「了解」


一瞬で仕事モードか。

……シロサギの情報が嘘だとは一切疑わないんだな。


はぁ、若干モヤモヤする。

この思いがなんなのかわからないまま、俺は日常に戻っていった。


ソフィの恋人未満、タケ君です!

飄々として、楽天的で、物事を俯瞰して見ていて、基本は優しい。


ステイの親友でもあり、実は雷帝勢力の中で結構なキーパーソンなのですが、これまでシロサギに認識されてなかったあたり、侮りがたいお方です♪

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