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挿話 ロエお姉さまの優雅なる1日

キラが家出をしてルイと出会った日。


妹がいなくなったことを知ったロエお姉さまが何をしていたのか、その真相が明かされます!


―――これは妹ちゃんが家出をした日の物語。


朝、私は早めに家を出た。

家の中に妹ちゃんの姿はなかったけれど、家を出て屋上に存在を確認した。私の指示なく家から出ることのない妹ちゃんだけど、屋上だけはお気に入りで、唯一自らの意思で赴く場所だった。


視線は中心部を向いている。

私のことに気づいているだろうけどこちらには目を向けなかった。


珍しいことだった。

いつもはこちらに目を向けるのに……。


少し寂しく思いつつも、「行ってくるわね」と声をかけ、取引に向かった。


妹ちゃんと違って戦闘力皆無の私だけれど、人との交渉や取引は得意だ。門番の男ともクラウドともいい関係を築けている。


今日もその一貫で門番の男と軽くおしゃべりをして、関係を構築。それから、妹ちゃんの仕事である殺しの依頼人との取引だ。

外界は危険ということで、主に曇天街内部の殺しを請け負っている。過保護かもしれないが、かわいい妹ちゃんを危険にさらしたくはないのだ。





「あいつ、ふざけやがって! さっさと殺してくれよ」

「ふふ、任せてちょうだい」


依頼人は息子を殺された父親だった。

随分と怒りに染まっているらしい。


「私も家族を持つ身。あなたの怒りはよくわかるわ。私たちは同志ね」


「同志……」


「ええ。私はあなたの味方。殺すのは本当にその男だけでいいの? あなたの息子を助けてあげなかった周りの人たちは? あなたの怒りは、恨みはその程度なのかしら」


恨みや怒りといった感情を増長させるのは容易い。

殺す人数が多いほど金になるのだから、煽る。

依頼人は拳を握りブルブルと震えて怒りに満ちた目を向けてきた。


「全員だ。俺の息子を殺したやつも、それを遠巻きに見てたやつらも全員殺してくれ!」


ふふ、いっちょ上がりね。


「ええ、任せて。足りない分のお金は将来払ってくれればいいわ。同志だものね」


「ああ、ありがとうっ」


怒りに燃えた目には涙が浮かぶ。


依頼人は殺してほしい人間を殺してもらえて、私はお金をたんまり受け取れる。お互いにとって得しかない、素晴らしい取引になった。


心から満足した私は前金を受け取って、退席した。





取引を終え、家に帰る。

屋上に妹ちゃんの姿はなく、もう家の中に入ったのだと認識した。


ドアを開け、「ただいま~」とわりと明るめに声をかける。


「……」


なんの反応もなかった。

というか、妹ちゃんが見当たらない。


「妹ちゃん、どこ~?」


やはり反応はない。

キョロキョロ見回していると、テーブルの上に書き置きがあった。


『ごめん』


そこに書かれていたのがこれだ。


(ふむ)


妹ちゃんは文字を書けるわけではないが、簡単な単語だけは教えてあった。これは妹ちゃんの書いた文字で間違いない。


それにしても、ごめん、とは簡潔で分かりにくい単語を選んだものだ。


何に対して謝っているのか。


これまで、妹ちゃんが自らの意思で家の外に出たことはなかった。その妹ちゃんが家にいないのだから、家出、と考えるのが妥当だろうか。


妹ちゃんは殺し屋をしているけれど、決して命を軽視はしていない。そういう風に育てた。

だから、自殺という選択肢は考えなかった。


家出してごめんってこと?



(予想外だわ……)


妹ちゃんが家出したことは私にとって意外なことだった。

大切に育ててきたし、妹ちゃんは従順で私に歯向かったことなんて一度もなかったのだから。


妹ちゃんが出ていったことは素直に悲しい。でも、同時に自分の口がニヤけていることに気づいた。


(あら、嬉しいのかしら)


姉妹喧嘩を一度くらいはしてみたいと思っていた。

妹ちゃんが反抗してこないのは嬉しい反面寂しくもあったのだ。


(ふふ、人というのは矛盾にまみれた生き物ね)


考えるべきことは数多あるだろうがまずは落ち着くことが肝心と判断し、お気に入りの紅茶をいれた。


ソファに腰かけ、一息つく。


ふぅ


朝、いつも通り家の屋上にいる妹ちゃんを確認した。

中心部に目を向けていたとなると、お出掛け先は中心部か。


厄介なことだ。

いくら妹ちゃんが強いとはいえ、中心部には猛者が多い。

特に、四天王勢力に睨まれでもしたら命はないだろう。


(まずは安否の確認と、危険な場合は助け出さなきゃね)


であれば、九条に頼んで探してもらうべきか。


あと、今日受けた殺しの依頼をどう処理するかも問題だ。


あれだけ怒りに満ちていた以上、依頼を断りでもしたらこちらに火の粉が飛んできかねない。

クラウドに頼んで殺してもらうという手もあるけれど、それでは妹ちゃんの家出がばれてしまうだろう。まだ状況がわからない中では、妹ちゃんが家出したことをクラウドに知られるべきではない。


クラウドとはあくまで協力関係であって仲間同士ではないのだから、私の弱みとなることは隠しておかねなくてはね。


(そうよ、クラウドを騙すためにも殺しの依頼は全うしなきゃ)


一番の理想は妹ちゃんが家に帰ってきてくれることだ。

そうすれば、クラウドを騙すもなにもなくなるし、殺しの依頼だって問題なく遂行できる。


ただ、今まで自らの意思を主張しなかった妹ちゃんが初めて反抗した事例だ。そう簡単に戻ってくる気はしない。


ふぅ


思わず出たため息を紅茶で流して、ソファから立ち上がった。





「ククッ、とうとう妹に愛想つかされたか」


九条に会ったら開口一番にこれだ。

相変わらずだこと。


「ちょっとした反抗でしょ」

「ククッ、どうだかな」


妹ちゃんが家出したことを既に知っているようだし、居場所も把握してるとみてよさそうね。

少し安心して口角が上がる。


「妹ちゃんの居場所と現在の状況を所望するわ」


足を組んで、余裕たっぷりで依頼する。


「ククッ、高くつくぜぇ」

「あら、お金は惜しまなくってよ」


妹ちゃんのためならお金なんていくらでもつぎ込める。

稼ごうと思えばそれこそいくらでも稼げるのだから。


「余裕だな。まあいい。居場所は中心部のシロサギの家だ」


(げっ、まさか恐れていた四天王勢力と既にまみえているとは)


しかも、シロサギときたものだ。四天王の一角、一匹狼の異名をとり、知の王とも呼ばれる賢者。他者に決して心を開かず、冷酷な男と聞く。戦闘力で言えば四天王最弱らしいが、行動が読めず、一番厄介な男かもしれない。


思わず唇を噛む。

ただ、九条の口ぶりからして、妹ちゃんは無事っぽいからそれは救いか。


「それで?」


「今はぐっすりおねんねタイムだぜぇ」


「……は?」


まさか睡眠薬でも盛られたかと一瞬思ったが、妹ちゃんに睡眠薬は効かないはずだ。おねんねって比喩?


「ククッ、打ち解けたらしいな」


「……予想外ね」


妹ちゃんは不思議な子なので常識ではかれないことは知っている。しかし、まさか一匹狼と打ち解けるとは。


まあ、妹ちゃんのあの可愛さなら、シロサギもメロメロになっちゃうわよね。わかるわ。


(ふふっ、シロサギも存外いい趣味してるじゃない)


「情報感謝するわ。引き続きよろしく」


「ククッ、そりゃいいけどよ。クラウドには報告すんのか?」


いつも余裕な九条が少し顔を曇らせて聞いてきた。

そういえば、九条の曇天街での守護はシロサギだったか。


「そうねぇ、妹ちゃんがシロサギに気に入られたなら、とりあえず様子を見るわ。クラウドには報告せずにごまかしておく。あ、間違ってもクラウドに情報渡さないでよ?」


「ククッ、料金上乗せしてくれるなら、売らないでおいてやるよ」


「言ったでしょ? お金は惜しまないって」


「ククッ、ありがてぇこった。それで? ロエは大丈夫なのか?」


クラウドに黙っていたらばれたときに殺されるんじゃないか、殺し屋の仕事できなくなったら困るんじゃないか、そもそも弱いのに妹の守りがなくなって生きていけるのか。


九条は私のことを心配してくれているらしい。

いつも人をバカにしているくせにこういうときは優しいなんてずるい男ね。


「問題ないわ。味方はたくさんいるから」


「味方ねぇ……。あいつらは傀儡の間違いじゃないのか?」


「ふふ、あら? 味方と傀儡は同じ意味じゃなくって?」


「チッ、相変わらずだな」


「ふふ、あなたに言われたくはないわ」


楽しい会話に花を咲かせてのち、九条のところをあとにした。





次は、殺しの依頼を達成してくれる味方に会いに行った。


「ねぇ、殺してほしい男がいるのよ」


切り出せば私の味方はうんうんうなずく。


「あなたとの未来を脅かそうとするんだもの恐ろしくって。もちろん殺してくれるわよね?」


「ああ、俺たちの未来を邪魔するやつは殺してやるよ」


「ありがと」


毒を渡して、その場をあとにする。





家に帰ってソファに横になる。


(妹ちゃんは元気にしてるかしら)


九条が監視してくれるというし、妹ちゃんも強いので、とりあえず問題はないだろう。殺しの方も何人もいる味方に順繰りにお願いすれば、しばらくはクラウドをごまかせるはず。


はぁ


妹ちゃんがいないと食欲もわかない。

今日は何も食べずに寝てしまおうかな。

そう思った途端にまぶたは下がってくる。



気分最悪かと思ったが不思議といい気分で、眠りについた。

微睡みの中で、姉妹喧嘩に心踊らせていたことを思い出した。


ロエお姉さまは、いつだって余裕を崩さないのです♪

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