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さあ、ハヤテの授業がスタートです!
キラの体調も回復し、いつも通りの穏やかな日常。
念のためにとキラの側を離れないようにしていたが、もう問題はなさそうだ。
というわけで、俺は自分の家の1階を訪れてた。
え、近すぎるって? 仕方ないじゃないか、まだちょっとは心配なんだよ。
「ハヤテ、勉強教えてもらいにきたよ」
突然の訪問だったが、ハヤテはパッと笑みを浮かべて
「いらっしゃい! ってまあルイ君の家だけど!」
テンション高く出迎えてくれた。
部屋は元々空だったのだが、今はハヤテが揃えたらしい家具で溢れている。
ソファ、テーブル、椅子、ベッド、ランプ、ポット……。
全体的に大人っぽい雰囲気でセンスのよさがうかがえた。
ソファもあるのにテーブルにはそれに合った椅子をわざわざつける辺り、お金に余裕があるらしい。クマが上客と言っていたのもうなずける話だ。
ハヤテに促され、椅子に座ると紅茶とクッキーを出してくれた。
(この感じはもしかすると……)
浮かぶ予感があったが、それはハヤテの声に掻き消される。
「勉強、教えてほしいって話だったからおじさんに頼んで教材を手にいれてもらったよ♪」
向かいの椅子に座ったハヤテがテーブルに置いたのは、見たことない薄くて大きな本だった。
「これが教材?」
受け取った2冊の本の表紙にはそれぞれ歴史、数学と書かれている。
「うん、歴史と数学の教材だけ手に入ったんだって。本当は科学とか世界語とか一般教養の教材も用意したかったんだけど、なかなか難しいみたい。こういう教材を使って外の人間は勉強するんだよ」
歴史の教材をパラパラめくってザッと中身を確認してみる。
普段読む歴史本とは違い、考察や著者の気持ちは除かれて、ただたんたんと事実が描かれているようだ。何より驚いたのは、ウェザリアの歴史が中心となりつつも、世界の大きな流れまで書かれていること。世界の歴史とウェザリアの歴史を重ね合わせ、互いの歴史がどのような影響を与え合ったかまでわかる。
「すごいな……」
思わず呟いていた。
「ハハッ!本を見ると瞳が輝くって本当だったんだね!」
ハヤテは屈託のない笑みを浮かべた。
「じゃあこの教材を使って勉強を進めるってことでいいかな? で、一般教養は教材使わずに僕が教えるよ。科学や世界語は教材使わないと厳しいからいったん保留ね」
こちらが思っていた以上に本気で勉強を教えてくれる気のようだ。ありがたい。
ペコッと頭を下げて
「よろしくお願いします」
感謝を伝えた。
「ハハッ、そんなにかしこまらなくていいよ。ただのアカデミー生が先生のまねごとするだけなんだから」
外界からきたハヤテにはわからないのだ。この曇天街で勉強を教えてもらえることにどれだけ大きな価値があるのか。
しかし、友達として教えてくれると言ったハヤテにこれ以上お礼をいうのは敬遠されると判断し、ただうなずいて返す。
満足そうに笑ったハヤテはベッドの下から白い板と木の枠のようなものを取り出して、こちらに運んでくる。
そして、あっという間に組み立てて腰に手をあてうなずいた。
「えーっと?」
わけがわからず、首をかしげると
「これはね、ホワイトボードだよ!アカデミーで使ってたのはもっと大きいけど、これしか手に入らなかったから」
「ホワイトボード?」
「そう!勉強を教えるときに先生が使う道具だからさ。おじさんに頼んでなんとか手に入れてもらったよ~」
なんだかよくわからないが、ハヤテが先生の真似を楽しんでることだけはよくわかった。
「さて、これから歴史の授業を始めます。歴史の教材、目次跳ばして3ページを開いて。あ、教材と一緒に渡したノートも開いてね。習ったことはそこにジャンジャン書き込んでいいから!」
ホワイトボードの前に立って、ハヤテが授業を開始する。
ハヤテが用意してくれたペンを握り、教材とノートを開く。
これからにワクワクが止まらない。
「教材に従って授業を進めていくけど、教材に書かれていることを読み上げるだけなら、授業の意味はない。というわけで、教材には載ってない知識や常識を中心に話していくよ」
ホワイトボードにハヤテが描いたのはおおざっぱ世界地図だった。
「これが世界。ルイ君、ウェザリアがどこにあるかわかる?」
立ち上がり、ハヤテから受け取ったマーカーで印をつけた。
「うん、素晴らしい。座っていいよ。そう! 世界の西、北よりの大陸にある海洋国家、それがウェザリアだ」
「ひとつ質問なんだけど、世界は丸いって本で読んだよ。丸いのなら立つ場所によって方角は変わる。世界の西という表現は正しいのかな?」
手をあげて、ハヤテに質問してみる。
「ふふ、世界が丸いは本当だよ。そっかぁ……世界首都のこと知らないのかぁ。うーん、これは確かに本にも教材にも書かれないからなぁ」
「世界首都?」
「うーん、世界首都のことは僕も詳しく知らないんだけど……まあ、世界には基準となる国があるってことさ。でも、僕たちは気にする必要ないんだよねぇ。一般人に行ける国でもないし」
ホワイトボードに描いた世界地図の中心、小さなドーナツ型の島。ハヤテはそこに『首都』と書き込んだ。
ハヤテの態度からして、あまり触れるべき話ではないらしい。
友達としての善意で教えてもらっているわけだから、ハヤテを困らせるのは本意ではない。世界首都のことはそれ以上触れないことにした。
「さて、3ページからはウェザリアの誕生について書かれてるんだけど、ウェザリア王家はどの国の王家と関わりが深いかわかる?」
「うーん、知らない……」
「ウェザリア王家ってね、世界から見ると大したことないんだよ。そもそもウェザリア王国って大陸の中じゃ弱小……だったし」
「だった?」
「うん、まあ今はクラウドが国軍扱いされてるからね。他国には恐れられてるし、国の力としては強まってると思うよ。ま、でも大切なのは王家自体の力は弱いということさ」
キラにも読んでもらった『ウェザリア王国の歩み』は当然俺も読んだ。そこには王家の権威の強さとそれによって国がひとつにまとまっている旨書かれていた。ただ、王家の偉大さを語る部分が多く、王家寄りな本という印象はあったのだ。
あったのだが……まさか王家の力が弱いなんて。
「だからさ、この曇天街は一種、王家の力をなんとか維持するための贄……なんだよねぇ」
困った顔で笑うハヤテ。
その不吉な表現に俺は思わず眉をひそめた。
次回、曇天街誕生の秘密が明らかに!?




