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曇天街は強い女性で溢れてます……
呼吸が浅く、意識もない。
「フィール先生!キラは?」
思わず叫ぶ。
「脈が乱れてる、呼吸も浅い、それに異常な汗の量。かなり危険な状態よ」
歯を食い縛り、頭をフル回転させる。
なにか、なにかできることはないか。
「落ち着きなさい、シロサギ」
フィール先生が強い目を向けてくる。
思わず、息を飲み込んだ。
「ここで意識を失ったのはラッキーよ。意識がある方が危なかった」
「毒と作用する可能性があるから薬も点滴も使えない。あとはキラちゃん自身の力を信じるしかない」
「いい? うろたえないで、キラちゃんが毒に勝ったそのあとの行動を考えなさい」
いつもとは違う真面目な態度で、どこまでも凛と。
そうだった、フィール先生は外界での自由で豊かな生活を捨てて、この曇天街に命を懸けてくれた医者なのだ。
弱いわけがない。誰よりも崇高な魂を宿した人だった。
「ククッ、数値的には想定内なんだ、なんとかなるだろ」
九条は相変わらずだった。
でも、それが逆に俺を落ち着かせてくれる。
深呼吸をした。
「うん、2人ともよろしく」
クリアになった頭で考える。
今後、キラを守るために今とれる行動はなにか。
「あのさ……」
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暗闇。
自分が誰だったかすらわからないほどに頭がボーッとしている。
体が熱い、いや、寒い?
だるい、ツラい、苦しい、痛い、痺れる、あれ、感覚がなくなっていく?
あれ……あれ……
怖いのかすらわからないまま抗う術もなく、ただただ深く沈んでいく。
「、、、、ラ、、、キラ!」
なにか聴こえた?
「、、、、ラ、、、キラ、、キラ!」
ああ、わからないけどなんとなく安心する声。
浮かんでいく。
パチッ
光が差す、ルイの泣きそうな笑顔に迎えられた。
「ル、イ」
汗で自分がびしょびしょなことに気づき、体がブルッと震える。
窓の外はすでに夜になっていた。
起き上がりベッドから足を下ろして座ると、ルイに支えられる。
「体力の消耗も激しい。今は寝てた方がいいよ」
穏やかなルイの声に身体を預ける。
「そうね、キラちゃんゆっくり休んで」
「ククッ、いいデータをもらえたぜぇ」
診療机で作業していたらしいフィール先生も、モニター前に座ってデータを集めていたらしい九条も、思い思いに声をかけてくれた。
ただ、私にはまだやるべきことがあるのだ。
首を横にふって答える。
「毒、まだのこって、る、から」
そう、器にはまだ半分近く毒が残っていた。
体内の毒を調整するために必要な量を、ルイが考えて用意してくれたものだ。
たとえ苦しかろうと接種しなければいけない。
「キラ……」
ルイがまっすぐ見つめてくる。
私はうなずいた、大丈夫だという意思を込めて。
ふふっ
だが、ルイは困ったように笑い、フィール先生も呆れ返る。
九条にいたってはクツクツ笑う有り様だ。
あれ、、思ってた反応と違う?
首をかしげるとルイが申し訳なさそうに告げてきた。
「ごめん、キラ……。キラが寝てる間に、毒、入れちゃった」
は?
「なに、言ってる、の」
ルイは斜め上に目を逸らしながら答える。
「えーっと、その……キラが起きてからまた毒食べさせるのは申し訳ないかなと思って……だったら気を失ってる間に残りの毒入れちゃおうかな……みたいな?てへ」
てへってなんじゃ。
「私が、苦しんでるなか、さらに追い討ちを……かけた、のね」
猛烈に睨むと、「あはは」と苦笑いをして、ルイはフィール先生のそばに隠れるようなポーズをとった。
私は立ち上がってゆらりと歩を進める。
「ルイ? なんで隠れるの、かな」
ルイは笑みをひきつらせる。
「えーっと、キラさん? もう済んだことは蒸し返さなくても……」
だんだん語気が小さくなるルイに私はニッコリと笑った。
そして、手を振りかぶり……
「天誅!」
頭をがっつりチョップしてやった。
ルイは頭を抱えてしゃがみこむ。
「うぅ、いったーい」
ルイは涙目でぶつぶつ呟いた。
「はぁ、まったく情けない。でも、こんだけ動けるならキラちゃんもう大丈夫そうね」
そこに、呆れつつ、優しい笑みを浮かべたのはフィール先生。
「ああ、数値的にもオールクリアだぜぇ、ククッ」
それに応えたのは九条。
わかっている。ルイが、フィール先生や九条と相談したうえで私にとって最上の選択はなにか考えてくれたんだってことくらい。
ただ、それを認めるのはちょっとむず痒かったのと、あと、単純にムカついたから……このくらいの仕打ちは許されるよね……てへ。
でも、フィール先生や九条にはちゃんと礼を尽くしておこう。
「ありがとう、ござい、ました」
頭を下げるとフィール先生はふっと笑い、九条は背中を向けた。
ルイは頭を抱えたポーズのまま嬉しそうな笑顔を浮かべる。
頭をあげると少しふらついたが、素早くルイに支えられた。
そのままお姫様抱っこでベッドまで運ばれる。
「今日はここに泊まっていいってさ。ゆっくりお休み」
私は気がついたらルイのスカートの裾を握っていた。
ルイは一瞬目を丸くして優しい顔になる。
「今日は俺もここに泊まるよ、少しやりたいことがあるから徹夜かな♪」
ルイには全部わかっているのだ。私がなんで今、スカートの裾を握ってしまったか、なんてこと。
私が、寂しくてルイに側にいてほしいと思ってるって……。
仕方ないことだ。ルイにはなんでもお見通しなのだから。
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ぐっすり眠るキラに背を向ける形で俺はベッドにもたれ掛かり座っている。
キラが毒に勝てるかどうか不安でたまらなかったけど、よく頑張ってくれた。
そして、心のなかでロエお姉さまに感謝する。
『毒はちゃんと計算したぶん飲ませなきゃダメよ?』
『少し強めに入れちゃうくらいの方がこれまでにない変化が起きるかもしれないし!』
『心配なら妹ちゃん自身に毒を食べさせることね』
冗談っぽく言っていた言葉のすべてが俺へのアドバイス、いや、妹を守るためのアドバイスだったのだと今ならわかる。
毒をキラのペースで食べさせれば半分のところで意識を失い、その間に残りの毒を打ち込めば体内の毒のバランスが整い、キラが助かる。
ロエお姉さまには最初からわかっていたのだ。
だから、そう仕向けた。
(ほんと、食えない人だ)
もっと勉強して、ロエお姉さまに認めてもらえるようにしなきゃな。
これからは俺自身の力でキラを守ってみせる。
決意を胸に、空に手をかざしぎゅっと握った。
ロエお姉さまは毒のプロ。
なんでもかんでもお見通し!?




