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挿話 シロサギという男

予告通り、ステイ目線のお話です!

俺はステイ。

雷帝の右腕をしているソフィさんに拾わたのが2年前のこと。

それからなぜかソフィさんに気に入られた俺は、ソフィさんの第1の子分的な立場となっている。

ソフィさんの考えることはわからない。



そして我らがボスは曇天街最強の雷帝。

怒るとそりゃ怖いが、基本的に仲間には優しい。というか、あまり情を向けないので怒るに至らない。

だから俺にとっては、ソフィさんの方が怖い。感情豊かで仲間想いな人だからこそ。



だが、そんな俺が最も緊張する瞬間は雷帝に話しかけるときでも、ソフィさんに報告するときでもなく、シロサギに接触するときだ。


雷帝を裏切り、四天王になった男。


雷帝が仲間に情を向けなくなったのは、シロサギが裏切ってからのことだと古参の皆さんから聞いた。それまでは、とにかく情に厚く、笑顔の絶えない男だったのだと。


正直、信じられないが、だがもし本当なら、シロサギを許せない。俺も笑顔で情に厚い雷帝に会ってみたい。


だが悲しいかな、俺にはシロサギをどうにかできる力なんてないのだ。平凡のなかの平凡の俺がどれだけ思いを描いたところで、なにも成せないのだからむなしい。


仲間達がシロサギの悪口を言って憤慨しているのを見ると、単純に怒り狂えるのが羨ましいとすら思う。


枯れてんのかな、俺。


シロサギより俺の方が少し年上くらいなのに、どうしてこうも違うのだろう。人はどうしてこんなに不公平なのか。


まあ、不公平ということで言えば誰よりも雷帝の存在が不公平か。


雷の能力者。まさしく最強。

初めて会ったとき、その圧倒的な存在感と眼力の強さにただただ気圧されたのを覚えている。


そうだ、あの雷帝(さいきょう)に拮抗し、対等を語るシロサギはやっぱり異常じゃないか。


戦えば雷帝の方が圧倒的に強いが、シロサギは人をうまく動かし戦わない状況を作り出しているように見える。

まるで綱渡り。

少しでも手を間違えれば、一瞬で命を落とす。

わかっていてあの余裕なのがムカつく。



ムカつくと言えば、先日、あろうことかそのシロサギから「俺のところに来ないか」と誘いを受けてしまった。

クマの協力を得つつ、必死で拒否したので事なきを得たが、どういうつもりなのか。


だが、改めてシロサギに目を向けるきっかけにはなった。

そこで、仲間たちにシロサギについて聞いてみることにした。



**************************



「あん? シロサギについて知ってることか?」

「ああ。なんかねぇか?」


まず最初は俺の親友、ソフィさんと恋仲の噂がたっている男。


「そうだなぁ、いつも高い建物から曇天街を見渡してるイメージしかねぇけど」


「ああ、それは確かに暇さえあればって感じだよな」


「そうだろ? 見下されてるみたいで気分が悪い」


そう。シロサギはいつも街を見ている。

それは俺たちに監視されてるような不快感を抱かせるのだった。


実際、俺の仲間にもシロサギに邪魔されたと泣きついてくる奴は多く、監視の意味合いは間違いなくあるのだろう。


「で? シロサギから仲間に誘われたらしいじゃねぇか。どうすんだ?」


ニヤニヤと聞かれて、慌てる。


「おい、待て。なんでお前がそれ知ってんだ!? まさかみんな知ってるんじゃねぇよな?」


シロサギを目の敵にしてる連中にこのことを知られているのなら、俺の居場所がなくなってしまう。

え、待てよ。もしやこれがシロサギの狙いか……。


「ははっ、そう焦るな。ソフィから聞いただけだ。みんなは知らねぇよ」

「…………」

「おいおい、そんなに睨むなよ」

「ソフィさんと付き合ってるって噂、本当ってことか?」

「さぁ、どうだろうな」


ずっとニヤニヤしている親友の真意は図れない。

思わずため息をつく。


「シロサギの真意がつかめない。なんで俺なんかを……」


呟けば、親友は意外にも驚いた顔をする。


「それはお前、自分を卑下しすぎじゃねぇか?」

「は?」

「雷帝の勢力で言えば、お前はナンバー3だろうが。もっと自信持て、な?」


ナンバー3。そうだろうか。

言われたことに文句言う力もないだけの、いわば雑用係にすぎない気がする。


「俺なんてただの平凡だろ」

「……そうだな」

「おい」


慰める気なのか違うのかはっきりしてくれよ。

余計傷つくじゃないか。


「まあなんだ、曇天街で平凡貫けるってのも稀有な能力だろ。お前なんて外界でも普通に生きていけそうだしな」

「うーん、まあそれは否定しないが」


親友のこういうところが好きだ。

楽天的で、物事を俯瞰して見ていて、そして基本は優しい。


「そういえば、ソフィが、お前をシロサギ担当にするって言ってたぞ」

「はぁ!?」

「ま、頑張れよ」

「ふざけんなよぉ」


シロサギ担当ってことはなにか?

これからシロサギと接触することが増えるってことか?

考えただけで寒気がする。


でも、ソフィさんの決定ならどうせ俺は逆らえないのだ。


「ならせめて、今度シロサギと接触するときはお前ついてきてくれよ」


せめてもの願いを込めて、泣きそうな気持ちで訴えれば


「ま、付いていくだけなら」


親友はニヤニヤ笑うのだった。



**************************



「え? シロサギについて知ってることっすか?」

「ああ。なんかねぇか?」


次は最近雷帝の仲間になったばかりの男。


「そうっすね。ムカついた奴がいたら殺すよりも深く恐怖を刻み込むって評判っすよね」

「そうなのか?」

「そっすよ。シロサギって相手を傷つけるだけ傷つけて殺しはしないんすよ。相手の苦しんでる顔を見るのが好きなんじゃないっすかね」

「なるほど」


確かにこの前も心臓の側ギリギリを刺して、楽しそうな顔で笑っていた。

殺すなんて生ぬるいといったところか。


「でもまあ、なんだかんだいって、曇天街の住人にとって一番身近な四天王なんすよね」

「え?」

「だってそうでしょ? いつもアジトにこもっている雷帝。お店にこもってるクマ。そもそも曇天街にいないクラウド。シロサギだけなんすよ、街を普通に歩いて俺らなんかにもちょっかい出してくるのは」


言われてみればその通りだ。

一般に曇天街の住人は四天王なんかとは無縁に暮らしているが、シロサギはいつも街を眺めているから、そうもいかない。


監視してムカつく奴を絞めるくらいなら、最初から監視なんかせず家に籠っていればいいじゃねぇか。


穏やかそうな顔して、雷帝を裏切ったり、こんなに掴めない人間もいないだろう。


あぁぁ。思わず頭をかきむしる。


「ま、考えるだけ無駄っすよ。ただの狂人ですよ、あんなの」


その評価に納得できるようなできないような、とにかくもやもやが消えることはなかった。



*************************



「え? シロサギについて知ってることないかって?」

「はい、お願いします」


最後にフィール先生。


「そうねぇ。シロサギはたくさんお金払ってくれるから好きよ」


実にフィール先生らしい返答だ。

いつも、お金、お金、言ってるもんな。


「フィール先生はシロサギに呼ばれること多いんすか」

「そうね、シロサギは殺さずに刺すことが多いから必然的に呼ばれること多いわね」


さっき聞いた通りのようだ。

でも、苦しみを味わわせるのが目的なら放置しておいた方が楽しめるんじゃなかろうか。


「……シロサギがお金払ってまで怪我人を放置しないのはなんでっすかね」

「ああそれなら前に聞いたことがあるわ。自分の歩く道にゴミがあるのが許せないって」


なるほど。転がった人なんてゴミでしかないということか。

実に曇天街らしい考え方ではあるのだが、あの穏やかな笑顔でそれだと恐怖でしかない。


「怖いっすね……」


素直に口にすれば、キョトンとされる。


「そうかしら? 私からすれば良い金づ、お客なんだけどねぇ」

「……今、金づるって言いませんでした?」

「はは、何言ってるのかな?」


ニコニコと返されて、フィール先生もちょっと狂った人だったと思い出した。


早々に退散する。


*************************



フィール先生の診療所から戻る道、足取りが重い。

3人に話を聞いてみても、シロサギがますますわからなくなるだけだったからだ。


「ステイ」

「あっ!ソフィさん、うっす」


背後から声をかけられる。

振り返って挨拶をすると、ソフィさんは微笑んで横に並んだ。

ソフィさんのゆっくりな歩みに合わせ、俺も歩を進める。


「シロサギについて聞いて回ってたらしいわね」

「あ、いや、すんません。でも、別にシロサギのところに行こうとか思ってねぇですからね?」

「ふふ、別に行きたいなら私もサムも止めないけど?」

「いやいやいや、冗談はやめてくださいよ」


俺が手を振りながら全力で否定すれば、ソフィさんはクスクス笑う。


「冗談じゃなくて真剣に言ってるのよ。ルイが求める人材ならこちらも提供は惜しまないわ」


遠くを眺めながら、ポニーテールを揺らす姿はどこか哀愁漂う。

俺は立ち止まり、かねてからの疑問を尋ねた。


「……ずっと気になってたんですけど、ソフィさんはシロサギのこと許してるんすか?」


ソフィさんは振り向いて、笑う。

悲しげで、それでいて芯のある笑みだ。


「私からすればルイはいも、弟みたいなものだから」


(え?)


そしてまた前を向いて歩きだしてしまう。

俺はわけがわからず、その場に立ち尽くした。


だがすぐに、ソフィさんの歩む先に雷帝が立っているのを見つけて、駆け出す。


「うっす」

「ああ」

「サム、ステイったらルイに仲間にならないか誘われたのよ?」

「ちょっ、ソフィさんっ」

「そうか」


一言告げて歩きだす雷帝にソフィさんは横に並び、俺はその間を後ろからついていく。


「で? どうするんだ?」


雷帝が軽く振り向き俺の目を見た。


(んっ!)


いつぶりだろう。雷帝が俺をちゃんと見たのは。

その射抜く瞳の強さに、胸が高鳴る。

そうだ、俺はこの眼に惚れて雷帝の一味に入ったんだった。


「俺は、いつまでも雷帝のもとに」


まっすぐ自分の想いを差し出す。


「そうか」


雷帝はもう目を向けない。

だが、俺はこの人に付いていくんだ、と強く強く心に刻んだ。



―――この翌日、俺は再びシロサギのもとに駆り出され、傘下の始末をすることになるのだが、それはまた別のお話。


その翌日のお話が、前回投稿した「25」になります。

合わせてお楽しみくださいませ♪

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