挿話 俺様の曇天街初日
今回は九条が主役です!
ククッ、俺様の名前は九条。下の名前は秘密だぜぇ。
情報屋なんでな、自分の情報も大金積まれなきゃはかねぇよ。
ってよりは、大金積まれても不足か。なんかすげぇ情報とじゃなきゃ交換できねぇな。
なに?
アレに繋がる道を教えてくれるって?
ククッ、なら交渉成立だ。
俺が曇天街に来た頃の話をしてやるよ。
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(ククッ、ここが曇天街に繋がる門か)
アレを求めてやって来たウェザリア王国。
アレがどうやら王国のゴミ処理場、つまりは曇天街にあるってことまでは突き止めたが、どうしたものか。
(殺されるのはごめんだぜぇ)
荒くれ者の集まる、治安の悪い曇天街ではまず生き残る術を考えなくてはならない。
(とりあえず情報収集だな)
とはいえ、曇天街の情報を集めるのは至難の技だ。
一番簡単なのは曇天街の住人から情報を得ることだが、曇天街の外にいて曇天街の住人に会うことはかなり難しい上、たとえ会えても話が通じる保証はない。
(しょうがねぇ、クラウドから攻めてみるか)
クラウドは今や曇天街とウェザリア王国やその近隣国を繋ぐ存在だ。
だが、もとを正せば、曇天街出身の盗賊団だった。
王国中の金持ちが被害にあい、その被害額は相当なものだったと言われている。指名手配され、軍や警察も動いたが、ことごとく返り討ちにされた。
そこで王国は、そのあまりの強さに懐柔策をとった。
指名手配を解き、王国の要人として扱ったのだ。
結果、クラウドは1年足らずでウェザリア王国の最強部隊として近隣諸国に名を轟かせる運びとなった。
そのせいで、王家の力が弱まったり、戦争になりかけたり、色々問題は起こっているのだが、それはとりあえず置いておこう。
ともかく、クラウドであれば曇天街の外にいながら曇天街の情報が手に入る。
「俺のかわいいクルリンちゃん、行っておいで」
上にプロペラを付けた黄色くて丸いメカ。クルクルと回るのがかわいらしいので、クルリンと名付けたそれをクラウドのアジトに向けて飛ばす。ちなみに、これまでクルリンはずっと俺の隣を飛んでいた。
門周辺から泊まっている宿屋に戻り、モニターを開く。
クルリンの目とリンクさせているため、クルリンの見ている景色がそのままモニターに映った。
まもなく、クルリンがアジトに到着した。
クルリンは無音を追求して作ったメカなのでアジトの人間たちにその存在はバレていない。
(クッ、目当ての人物を見つけたぜぇ)
ひとりがけの黒いソファに座って部下、いや、王国の人間たちに指示を出しているらしい男。
クラウドのリーダー、、、ではない。リーダーの代わりに指揮を執ることも多い右腕的存在の男だ。
手元のPCを操作して、クルリンの無音モードを解く。
すると、通常の機械音、人によってはハエのようだと形容する音が流れ出す。
当然、男にもクルリンの存在を気づかせた。
俺はクルリンを男の正面に飛ばし、マイクに向かって発声する。
『初めまして、ダン。俺は情報屋の九条。よろしく』
男・ダンは一瞬眉をつり上げたあと、威圧するような目で答える。
「俺の名を知っているのならここがクラウドのアジトだとわかっているな。殺されたいのか」
『まさか。殺されたくないからメカ越しの挨拶をしている』
「ふん。……で、情報屋がなんのようだ」
『ククッ、俺は曇天街の情報が知りたい。代わりにクラウドが求める情報を提供しよう』
「貴様の情報が信用できるという保証がない」
『裏付けくらい取れるだろ』
「つまり、先払いをしてくれると?」
『そういうことだ』
「……いいだろう。では、こちらの求めている情報を当ててみろ」
どうやら試されているらしい。だが、願ってもないチャンスだ。
『治安局の動向』
途端、ダンは大声で笑いだした。
「ハハハハハ、素晴らしい。こちらも九条殿の望むものを提供しよう」
認められたようだ。まあ俺様の情報力なら当然だが。
ちなみに、治安局というのは、警察と似たようなものではあるが、母体が違うらしい。この俺様でも中枢を見つけられない謎に包まれた組織だ。今のクラウドが唯一恐れている存在でもある。
その後、情報のやり取りをして、次の日、俺は再び門にやって来た。隣にはクルリンが飛んでいる。普段はペットのような気持ちで飛ばしているが、今回は一種の身分証明として必要があって飛ばしている。
門番の男はクルリンを視認して、門を開いた。
「黄色いメカを連れた男、クラウドから話は聞いている。門の通過を許可する」
「ククッ、ありがたいこった」
そして、門を入ってすぐ、暗い雰囲気な曇天街に場違いなほど明るい空気を孕んだ女が声をかけてきた。
「あなたが九条? 私はロエ。ダンから話は聞いてるわ」
なるほど。ダンが案内人を用意しておくと言っていたが、それがこいつか。
「ククッ、弱そうな姉ちゃんだな」
「あら、失敬な。ま、確かに私は弱いけどね。妹ちゃんが強いからいいのよ」
「妹がいんのか」
「ええ、今は仕事に行ってるけど。殺し屋やってるのよ」
「……さすが、曇天街だな、クク」
物騒な街だとわかってはいたが、殺し屋とかがゴロゴロしてるのかと思うと、さすがの俺様も苦笑いするしかない。
ロエは自らの家に俺を招いてくれた。黒を基調とした部屋だった。
「黒はクラウドを示す色。背後にクラウドがいると知らしめるのに有効よ」
「へぇ、そういやダンも黒ずくめな服着てたな」
「そうでしょう? 他に、雷帝の勢力は紫を着てるわ」
「雷帝ってのは誰だ?」
「あら、なんにも知らないのね。この曇天街には四天王という勢力がいるの。クラウド・雷帝・クマ・シロサギってね」
「ククッ、さすがに曇天街の情報は外では手に入らねぇからな。じゃあ、俺様がここで平穏に暮らすためには四天王の誰かにバックについてもらった方がいいってわけかい?」
「ええ、そう思うわ。というか、クラウドにバックについてもらったんじゃないの?」
「ククッ、そんな話はしてねぇな」
クラウドに情報屋として認められた以上、頼めばバックについてもらえるとは思うが、、乗り気はしない。
そもそも俺は誰かの下に付くのはごめんだ。組織であるクラウドでは、ある程度の上下関係が存在する。そういうのは面倒くさい。
「雷帝は紫っつったが、他の2つは?」
「ああ、クマとシロサギはグループじゃなくて1人なの。だから、色とかないわねぇ。強いて言うなら、シロサギはいつも真っ白い服着てるらしいけど」
1人ってんなら都合がいいな。
「らしいってことは見たことねぇのか?」
「ええ、クラウド以外、四天王はみんな中心部にいるから、外れではお目にかかれないわ」
「なるほど。ここは曇天街の外れってわけか」
「そう。でも、中心部の方が生活は豊かって話よ。その分、強者も多くて、弱い人には厳しい環境みたいだけど」
「ククッ、豊かってのはどの程度を言うんだ?」
「さっき言った四天王の1人、クマがね、中心部でお店を開いているんですって。商品卸してるのはクラウドらしいんだけど、だからきれいなお水とか食料とか手に入りやすいみたいよ」
「へぇ、そういう仕組みか。ああ、じゃあ、昔はクラウドが盗んだものを卸してたのか」
「ふふ、そうらしいわ」
クラウドという盗賊団は王国からすれば、はた迷惑な存在だったろうが、曇天街の住人にとってはある種の生命線になっていたというわけか。
だが、クマが商人だとするとバックとしては弱いものも感じる。
「で? 残りの1人、シロサギってのはどんなやつなんだ?」
「うーん、それがよくわからないのよね」
「わからない?」
「1年くらい前かな、雷帝を裏切って離反し、四天王になったって話は聞いたわ。雷帝って四天王最強と言われている男なの。だから、それを裏切ったってのがびっくりだったんだけど」
「その雷帝ってのはクラウドより強いのか?」
「ええ。雷帝は雷の能力者。本気を出せば1人で曇天街の全住人を殺せるほど強いらしいわ」
「……そりゃやべぇな。で、裏切ったって具体的には?」
「うーん、雷帝の仲間を何人も殺して、独立を宣言したって話だけど。雷帝は仲間想いで知られているから相当な怒りを買ったはずよ」
「ククッ、それなのに無事生きてるってことはシロサギも相当強いってことか」
「恐らくね」
シロサギ、バックとしての強さは申し分ないな。
ただ、話の通じない狂人じゃ困る。もう少し情報が欲しいところだ。
「シロサギと仲がいいやつに心当たりはねぇか?」
「そんな存在いないわよ」
「なに?」
「シロサギはずっと1人で、仲間はおろか手を組んでいるような相手もいないと思うわ。一匹狼という異名をとるほどよ」
「ククッ、一匹狼ねぇ」
これはバックについてもらうのはかなり難しいか。
「ああでも、四天王勢力の中でクマとは良好な関係を築いていたはず。そういえば、シロサギは本の虫って話で、クラウドがシロサギに向けてたくさん本を卸してるって聞いたかも」
「ククッ、そりゃ耳よりな情報だ」
本の虫だというのなら狂人の線は薄い。
話の通じる相手である可能性が高まった。
その後も、俺はロエから曇天街の常識や情勢などありとあらゆる情報を得た。
「あ、そろそろ妹ちゃんが帰ってくる時間!九条くん、悪いけどもう出てってくれる?」
昼だった時間がもう夕方になる頃、窓の外が朱色に輝いたことに気づいたロエは俺を捲し立てるように追い出した。
「おいおい、ひどくねぇか」
「ふふ、クラウドの勢力に入らないっていうなら私にあなたを守る義務はないからね」
「チッ」
「それに、妹ちゃんには色々話してないから、九条くんのこと説明するの面倒くさいのよ」
「まあ、人様の家庭事情を詮索する気はねえけどな」
「ええ、そうしてちょうだい。といっても、情報屋なら調べちゃうんでしょうけど」
よくわかってるな。調べる気満々だった。
「まあ調べるのは構わないんだけど、妹ちゃんにちょっかいだしたら許さないから」
「ククッ、善処するぜぇ」
「よろしく」
「ま、今回は色々教えてもらって世話になったからな。必要なときにはいつでも情報くれてやるよ」
「嬉しいわ!九条くんが死んでなかったらね」
「おいおい、物騒だな」
「ふふ、曇天街の決まり文句よ。挨拶みたいなもの」
明るく笑って、ロエはブンブン手を振った。
俺はそれに応えないが、クルリンはクルクル縦に回っていた。
(さて、どこから攻めるか)
本の虫だというのなら、シロサギは知識欲があり好奇心旺盛なタイプかもしれない。
(ま、なにはともあれもっと情報が必要か)
「モスキート」
クルリンの口の中に忍ばせていた蚊型メカ・モスキートを呼ぶ。
クルリンは十数匹のモスキートを放出した。
3匹だけ手元に残し、残りを中心部に向かって飛ばした。
数日もあればたくさんの情報が集まるだろう。
問題はその数日間、ないしはシロサギに接触するまでの間、俺自身が無事に生き延びられるかだ。
手元に残した3匹で、辺りの情報を掴む。まずは住める場所や他人に見つからないルートを探った。ロエいわく、中心部に行くほど強者が増えるようだからなるべく門付近で待機していたい。
モスキートは数分でそんな高立地を見つけ出してくれた。
(ボロっちいが人には見つからなそうだな)
地下にある部屋だが、入り口が見えづらいので生存率という意味では抜群だ。
ただ、夏になろうとしている今、いくら地下でも冷房はほしい。
(ってか、電気通ってねぇじゃねえか)
照明のスイッチはあるのに押しても電気が付かない。
そういえば、ロエが水は井戸で汲んでいると言っていた。
(チッ、やっぱりか)
蛇口を捻っても水は出なかった。
だが、スイッチや蛇口があるということは、電気や水が通っていた頃もあったってわけか。
(なら、ちょっとズルさせてもらおう)
PCを起動し、水道局や電気局にハッキングを仕掛ける。
ちなみに、クルリンは無線LANの役割も担ってくれる超高性能メカだ。
ものの数分でハッキングは完了。水も電気も開通した。
この家だけでなく、曇天街中の水や電気も使えるようになってしまったが、別にいいだろう。
コンセントでクルリンを充電しつつ、モスキートの集める情報をモニターで眺める。
この水と電気の開通こそがシロサギを呼び寄せることになるのだが、それはまた、数日後のお話……。
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ククッ、これが俺の曇天街初日だぜぇ
なに?
シロサギと初めて会った日の話が聞きたかったって?
ククッ、そりゃお断りだ。
別に情報持ってきたら教えてやるかもしれねぇけどな。
んっ!そりゃ本当か。
ってか、お前さん何者だ?
……語り手? なんだそれ
ククッ、まあいいや。
情報の対価としていずれ必ず教えてやるよ。
シロサギと俺様の出会いの物語もな。
おやおや?
どうやら九条のもとを訪れたのはあの彼だったようです。。




