20
ちょっと穏やかさが戻ってきたかな?
ステーキパーティーと化した姉妹の再会の翌日、俺はロエお姉さまと今後の対応について話し合った。その結果、俺がロエお姉さまから毒について学び、キラの体調管理はフィール先生と九条に協力をあおぐ形でまとまった。
というのも、毒については専門的な知識や機械がないと管理が難しいらしく、フィール先生が知識面を、九条が機械面を補うことでなんとか形にしようという判断だ。
これまで、そういったバックアップなしにキラの毒を管理してきたロエお姉さまはかなりすごい。
ロエお姉さまいわく、両親ともに毒学者だったんだそうだ。だが、毒人間を作り出すという実験が危険視され、曇天街に追放された。キラは覚えていないことだが、もともとキラを実験動物として扱い、毒を投与し始めたのは父親だったらしい。ただ、曇天街という厳しい環境の中で両親が亡くなってしまったため、仕方なくロエお姉さまが毒の投与を受け継いだ。
両親に愛されていなかったことを妹には知られたくないというロエお姉さまの意向によりこの事実はキラには伏せられたが、ロエお姉さま自身はキラのことを純真無垢に愛している。
しかし、純真無垢も無邪気もときに凶器だ。
空気に敏感なキラだからこそ、ロエお姉さまの無邪気に傷つくことも多かったんだろう。
これから、姉妹が正しく愛し愛される未来が来るといい。
そして、俺は今日、九条の拠点に来ている。
この前、情報を対価とする約束をしたからだ。
「ククッ、話がうまくまとまったみてぇでよかったじゃねぇか」
「ああ。九条にも迷惑をかける」
「いやぁ、俺様としては面白い実験に参加できてむしろありがたいこった」
「……それはよかった」
キラの命を実験扱いなのは多少癪だが、九条の協力を得られるのは素直にありがたい。
「それで、雷帝とはどうだったんだ?」
「この前九条が言っていた通り、ただの小競り合いだよ」
「ククッ、じゃなきゃ曇天街の地形が変わってんだろうぜぇ」
「……否定はできないな」
雷帝が本気を出したら曇天街ごとき地に沈むかもしれない。
「それで? 本当は何が知りたいんだ」
「ククッ、わかってんだろ?」
「……禁忌は禁忌だ」
「チッ」
九条が曇天街に来たのは俺が雷帝から離反したあとだった。
そのため九条は、俺と雷帝の間に何があったのか、どんな理由で敵対したのかを知らない。情報屋としてそれが不満なのだろう。
「知りたいなら雷帝に聞け」
「ククッ、そりゃ無理ってもんだぜぇ」
「直接会ったらいいだろう」
「そりゃ俺様に死ねって言ってんのか?」
「雷帝の機嫌がよければ殺されたりはしないさ」
「そんな限定的な条件で特攻かけるわけねぇだろ」
「なら諦めろ」
「チッ」
九条のメカは電気で動いているため、強い電気を帯びた雷帝の近くには寄れないらしい。だから、雷帝から情報を得るためにはメカではなく九条自身が赴く必要があるが、九条は激弱いのでそれも無理という話だ。
「あーあ、俺様キラの命の恩人なのになぁ。あーあ、今回もキラの毒管理に協力してやるのになぁ。あーあ、もう電気と水道止めちゃおうかなぁ」
「……他の情報ならいくらでもやるから、禁忌は勘弁してくれ。というか、俺は九条のために黙ってるんだぞ。雷帝の怒りをかったらどうするんだ」
「……チッ、しょうがねぇか」
さすが、情報屋としては優秀な男なので、引き際もわきまえている。
「というか、一つ疑問なんだが、電気や水をいじれるならガスもいじれるんじゃないのか?」
「ククッ、そりゃ簡単だがな。火ってのは災厄のもとだぜぇ?」
「……なるほど、一理ある」
そう、この曇天街に水や電気が通っている、そんな不可思議な現象の源には九条がいる。水道局や発電所をハッキングして曇天街にも水や電気が流れるようにいじっているらしい。
汚い水を井戸でくみ、生活が今よりずっと困窮していたかつての曇天街。それが、ある日突然、蛇口から水が出るようになり、さらには電気まで付くようになった。俺はその原因を探るなかで九条にたどり着き、四天王の名の元に保護するに至ったのだ。
(わざと俺に見つけさせたんだろうが……)
どこまでも九条の手の平の上。だが、それでもいい。
俺も俺で曇天街にとって有益なこの男を利用しているのだから。
「ククッ、なーに真剣な顔してんだぁ?」
「いや、、曇天街に九条がいてくれてよかったなと改めて」
「おいおいやめてくれよ。からだが痒くなる」
「ふっ。ならもっと言ってやろうか。頼りにしてるよ、九条☆」
「うわっ嫌がらせかよ。意地きたねぇな」
「本心だからそんなこと言うなよ」
「あー痒い。俺らはギブアンドテイクだろうが。あんま持ち上げんなよ、気持ち悪い」
(ギブアンドテイクか……)
悪くない。九条からもらってばかりな気がしていたが、俺も九条のために何かを与えられているということだから。
「そうだ、禁忌について知っているということで言えば、他の四天王もだぞ」
「ククッ、そりゃ耳よりの情報だ。で? クラウドと仲が悪いって噂は本当なのかい?」
「……そんな噂が流れているとはな。うーん、正直言うとほとんど関わったことがないから、よく知らないんだ」
「ま、四天王同士なんてそんなもんか」
「ああ、だが、会うといつも見下してくるからあっちは俺のこと嫌いなのかもな」
「……いや、その顔、ルイも相当嫌ってるだろ」
「え」
九条に鏡を向けられ覗けば、そこに写った俺の顔は確かに苦かった。
(あれ、俺ってあいつのこと嫌いだったのか?)
「ククッ、相変わらず頭は良いのにどっか抜けてるやつだぜ」
「……え、まさか俺のことか」
「他に誰がいるんだよ」
「いや、でも」
「この前キラも言ってたぜ。『ルイは、どっか、抜けて、る』ってよ」
「なんだそのモノマネは! ってか、いつキラとそんな話したんだ!?」
「ククッ、ルイがロエと会ってる間にな」
「いつの間にそんな仲良くなってんだよぉ!?」
「もうマブダチだぜぇ」
(毒をぶっかけといて、なんでそんな仲良くなれんだよぉ)
なぜか泣きたい。
頭を抱えて唸る俺を九条がせせら笑う。
(イラッ)
「いつか報復してやる」
「おいおい物騒だな。なら俺様はキラに守ってもらおうっと」
(わざとらしくかわいい声出しやがって、クソぉ)
その後、口論は俺の帰りが遅いことを気にしたキラが迎えに来るまで続いた。
九条のどんな言葉よりキラがため息とともに発した
「2人とも、くだらない」
という言葉に心がえぐられた。
作者としては辛辣なキラちゃんが大好物です☆




