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17

情報屋・九条。

彼の握る情報がもたらすものとは!?

九条との話が一旦落ち着き、キラが目覚めるのを待つことになった。


目が覚めたらここまで来るだろうが、一応様子を見に隣の部屋をうかがう。


(んっ!)


「キラ!どうした」


そこには身体を震わせ目の焦点が定まっていないキラがいた。

俺はすぐに駆け寄りキラを抱き締める。


それでも震えは治まらず呼吸も荒い。

上体を起こし、背中に左手を添え、右手で額に触れる。


「熱いというよりむしろ冷たいな」


熱でもあるのではと額に触れてみたが、汗でグッショリと濡れむしろ冷たい。その冷たさは死体を彷彿とさせるもので俺は思わず唇を噛み締める。


俺はもう一度抱き締め、背中をポンポンと叩いた。

少しでもキラを落ち着けられるように。


しばらくそうしていると、

「ハッ、ハッ…んっル、イ」

少しずつ呼吸が落ち着き、キラが俺の名を呼ぶ。


俺は抱き締めたまま

「キラ、大丈夫だよ。大丈夫。」

そう言った。それはまるで自分に言い聞かせているようだと、内心で自らを嘲る。それに呼応するようにキラが抱き締め返してくれる。それは弱い力ではあるものの強い意思を感じさせた。


「ふぅふぅ、、ル、イ」

「キラ」


段々と呼吸が落ち着き、抱き締め返す力も強くなっていく。

(これなら大丈夫そうだな)

おれ自身も軽く息を吐き、心を落ち着けた。


「なんとか無事だったみてぇだな」


これまで隣の部屋で傍観の姿勢を保っていた九条がニヤニヤと笑いながら仮眠室に入ってきた。


キラが敵意を剥き出しにして俺を抱き締める力が痛いほどのものになる。俺はその背中をポンポンと叩き落ち着かせながら、キラを守るようにベッドに腰かけた。


「九条、キラが怖がってる。それ以上は近づくな」

「ひでぇなぁ。まあいいけどよ、ククッ」


九条はそのまま入り口付近で立ち止まる。

キラの抱き締める力が弱くなった。


「キラ、大丈夫?」

「…たぶん」

「うん、いいよ」


ずっと力をいれているのは今のキラには無理なようだ。

俺はキラが俺に寄りかかれるようにして、力を抜いていていいと示す。


「さて、九条。キラも起きたのだから説明してくれるんだよな?」

「まあな」


今のやり取りの間に隣から椅子を持ってきた九条はボフッと勢いよくそれに座り、話し始めた。


「キラが毒人間なのは知ってるだろ?だが、後天的なものである以上、メンテナンスは不可欠だ。今回はそれを依頼されたから実行したってところだな、ククッ」


「メンテナンス?」

「簡単に言やぁ毒が薄まらねぇように、毒を入れる作業だぜぇ」

「…なるほど。だったら、キラに事情を説明し、同意を得るのが筋じゃないのか?」

「ククッ、同意なんて得られねぇだろうからいきなりぶちかませってのが依頼内容だったんでな」

「…で、その依頼をしたのがロエという人物。ってことでいいんだな?」

「ま、そういうこった」


俺がロエの名を出した途端、キラがガタガタと震え出した。

これまでにもキラは時々身震いして何かに怯えるそぶりを見せることがあったが、なるほど、その原因はロエという人物にあるらしい。


「さっき、九条は命の恩人だと言ったな?あれはどういう意味だ?」

「ククッ、毒のバランスってのは難しいからな。メンテをしないまま放置すれば体内の毒のバランスが崩れてキラが死ぬのは目に見えてるぜぇ」


キラは震えるまま俺の背中を鷲掴む。

俺は痛いほどのそれをなんでもないように振る舞って、キラの頭を撫でてやった。キラが上目遣いで俺の顔を向く。


「大丈夫だよ、キラ。俺が付いてるんだから」


努めて明るく穏やかに。震えるキラの心の奥にまで届くように微笑んだ。



*************************



姉の支配から欠片も解放されていなかったのだと知って、私は深い泥の中にいるような錯覚に陥る。


そこに光を射してくれたのはルイだった。


俺が付いているーーーそれは私を泥から引き上げ光で包む魔法の言葉。


さっきまで震えていた身体は嘘のように止まり、心には平穏が戻ってくる。


「ルイ、もう大丈夫」


私は笑顔で背筋を伸ばした。

ルイは私の頭から手を離し、微笑みを返してくれた。


「さて、九条。キラにメンテナンスが必要なことは理解したが、、それは俺では不可能なことか?」


情報屋の方に向き直ったルイが聞く。


「毒の知識がねぇと難しいだろうな。まあルイなら知識をつけることは可能だろうが」

「ふむ」

「ただ、キラの毒については専門家に教わらねぇと始まらねぇぜぇ」

「…それがロエというわけか?」

「ククッ、ご名答!」

「はぁ、ならロエに会ってみる必要がありそうだ」


ルイが決めたなら私が否定すべきではない。

(ルイは強いから大丈夫…)

私は覚悟を決めてルイに姉のことを話すことにした。


「ロエは…私のねえ様のこと。」

「姉様?」

「ソウ。私に曇天街で生きる術を教えてくれた人」

「…なるほど。キラ、俺はその姉様に会いに行こうと思うんだ。キラも一緒に来るかい?」

「…行く。ルイと一緒なら」


1度決めたら揺るがない。覚悟とはそういうことだ。


「まだ、調子悪いなら後日改めてでもいいけど」

「いや、今行く」

「どうして?」

「…さっさと終わらせたい…かな」

「わかった、じゃあ今から行こうか」

「ククッ、話はまとまったみてぇだな。案内に俺のメカをつけてやるぜぇ」

「助かる。ありがとう」


ルイに水をぶっかけた黄色いメカが私たちの回りを飛ぶ。


「あーそれから、こいつを壊した分は情報で払ってくれよ」

「バカ言うな。今回キラを傷つけたことでチャラだ」

「チッ、まあ仕方ねぇな。なら、キラの毒について教えてやった情報料ってことで情報寄越せよ」

「そうだな。何がほしいんだ?」

「ま、雷帝との小競り合いについてでいいぜぇ」

「…わかった。用事がすんだらまた来る」

「ククッ了解」


情報屋はまるでルイを恐れる様子がなく、ルイも情報屋に敵意を向けない。

私としては姉と繋がっている相手など殺してやりたいぐらいなのだが、ルイが対等に思っている相手なら傷つけるわけにはいかない。


ただ、気持ちは顔に表れてしまったようだ。

「ククッ、そんなにむくれんなよ」

情報屋に嘲笑われてしまった。


「別に、むくれてないヨ」

「明らかにむくれてんじゃねぇか」

「気のせいだヨ」

「チッ、意趣返しもあったんだ、許せ」

「…意趣返しって?」

「キラには今までに俺様のメカをいくつか壊されてるからな」

「…知らない」

「モスキート」


情報屋の呼び掛けにブーンブーンとそこらでハエのような音がする。


「こいつが俺様のメカ、モスキート達だ」


よく見れば蚊が数匹飛んでいる。


「…これが、メカ?」

「ああ」


本物の蚊にしか見えないが、これがメカらしい。


「なら、殺したかも」

「かもじゃねぇよ」

「…メカ飛ばすのが悪い」

「ククッ、開き直りやがった」

「…ってゆーかなんで蚊にしてるの、それがよくない」

「チッ、自然に溶け込むこのフォルムが最高なんじゃねぇか」


不思議なことに情報屋と話しているうち警戒が薄れてしまったようだ。

この後しばらく、私は情報屋と口喧嘩を続けることになる。


それを眺めてルイは呆れたように、でもどこか嬉しそうに笑っていた。

空気に敏感なキラが打ち解けたってことは?

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