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挿話 くま商店の1日

クマ目線のお話書いてみました。

ちらほら新キャラも登場します。

俺の名はクマ。名といっても愛称のようなもので、本名ではない。大きくて強いってんで勝手にクマと呼ばれるようになった。


ここ、曇天街の中心部で長いこと商店をやっている。


俺が幼い頃は外界に暮らしていた。しかし、家が貧しく家賃や税などもろもろ払えなかったため親が身分証を売ったらしい。それでも数日しのぐのが精一杯で結局、一家揃ってこの曇天街に流れ着いた。

はじめは曇天街の外れに暮らしていたが、曇天街では外れの方が生活は苦しい。親や兄弟は少しでも豊かな暮らしを求め中心部を目指したが、殺されてしまった。中心部には強者が多く、闘う術を持たない者など、すぐ屍になってしまう。


俺は家族の中で一番幼く、かつ臆病だったため外れから動かなかった。臆病であるがゆえに生き残り、臆病であるがゆえに強くなろうと頑張った。おかげで今では四天王の一角を担っている。



これはそんな俺のとある1日のお話。


早朝、俺はクロムという男から商品を仕入れる。

クロムってのはもともと曇天街にいたが、今では外界に出て色々暗躍している奴だ。

曇天街の住人を傭兵として斡旋したり、殺し屋として派遣したり、まあある意味曇天街の住人の家計を支えているとも言える。


クロムも忙しいため商品を持ってくるのは部下に任せることが多いのだが、今日はクロム自身で持ってきた。


「よお、クロムじゃねぇか。曇天街に来るの珍しいなぁ」

「雷帝とシロサギが揉めたと聞いたからな。一応、情報を把握しておこうかと」


なるほど。曇天街の住人を商売に使っている以上、四天王の衝突はゆゆしき問題なのだろう。


「ああ、ありゃただの小競り合いだ。どっちも本気じゃねぇよ」

「やはりそうか。毎度毎度よくやるな」

「まあ曇天街の住人に対する牽制もあるんだろ」

「健気なことだ」


俺もクロムも曇天街の事情に精通している自負がある。あの2人の過去も、確執も、現状も正確に把握している。ゆえに2人の小競り合いの裏にある思惑も読めてしまう。


「そうだ、小僧が最近美人な嬢ちゃんを連れるようになったのは知ってるか?」

「知らんな」

「店にも連れて来てな。ありゃ相当強いぞ」

「ほお?」

「雷帝との小競り合いにも連れてってたからな」

「…信じられんな」


信じられないのも無理はない。

これまで小僧は一匹狼として知られてきた。

雷帝を裏切って対立状態なこともあり、小僧に近づく、ないしは取り入るという人間は少ない。それでもわずかにいる取り入ろうとする人間達も小僧にはその思惑が読まれてしまうためまるで相手にされなかった。


「あの嬢ちゃんなら大丈夫だろうよ」

「ふむ。貴様がそう思うなら、そうなんだろうな」


クロムは半信半疑といった様子だが、とりあえず納得したらしい。


「まあ心配することがないようで安心した。俺はこれで」

「おう、また来いや」


久々クロムに会ったが相変わらず忙しそうだ。

たまにはゆっくり話したいものなのだが。


仕入れた商品をその日の気分で陳列する。

仕入れの内容は大雑把にオーダーはするものの、基本はクロムの采配に任せている。

(今日は本が多めだな)


小僧が本を好きなことはクロムも知っているので、この状況で本が多いのは偶然ではないだろう。


その意図を組み、本は店頭に並べず、取り置くことにした。




しばらくたった頃、今日初めての客が来る。

「クマさん、こんにちは」

「おう!先生よく来たな!」


やってきたのは雷帝の加護のもと、医者をしているフィール先生だった。


「針と糸、その他もろもろ補充しときたくて」

「あぁ、小競り合いに巻き込まれたんだったか」

「はは、ほんと困ったものです」

「頼りにされんのはいいじゃねぇか」

「そうでしょうか」

「ちゃんと報酬はもらったのか?」

「それはもうたんまりと!」


さっきまで困ったように笑っていたのに、報酬の話をした途端に瞳をキラキラさせるのだから現金なことだ。


「だったら今日は値切る必要ねえよな?」

「えっ、いや、それは」

「ねえよな?」

「はい…」


先生はいつも値切ってくる困った客だ。だが、曇天街唯一の医者だし、いつもはそれにある程度応じていた。


「クマさん意地悪です…」

「ははっ、たんまりもらったんだろうが」

「むぅーそうですけど…」


俺の誘導にまんまと引っ掛かるとは可愛らしい。

治療に使う針や糸、消毒薬をがっつり定価でお買い上げいただいた。




そのあともちらほらと客は来るものの基本は暇だ。曇天街でお金を持ってる人間は少ないので仕方ない。

そんなこんなで昼過ぎ、店番をしながらパンを食べていると客がやってきた。


「うっす、クマさん」

「おう、ステイか」


幾人かの仲間を連れやってきたのは雷帝のとこのステイだった。


「今日はお詫びに」

「詫び?」

「この前、店で騒ぎ立ててすんませんしたっ」


小僧と揉めたことに対する詫びらしい。ステイ含め周りの連中も頭を下げる。連中の怒りを沈めるのに少し日を要したか。

雷帝は細かいことを気にするやつじゃないので、ソフィの発案か、もしくはステイの独断だろう。優秀な部下をもって雷帝も幸せだ。


「詫びってんなら何か買ってけや」

俺はなにも気にしてないことを示すように笑った。


「うっす。あざっす」

ホッとしたらしいステイは仲間達と店内を物色し始める。


「ビビったよな、久々雷帝の本気を見たぜ」

「バカヤロウ、あんなの本気に入らねえよ。本気になるとマジで俺たちも無事じゃ済まねえからな」

「にしてもシロサギの奴むかつくぜ」

「わかる。裏切り者のくせに平然と四天王(づら)しやがって」


雷帝の手下達から小競り合いの話が聞こえてくる。

(相変わらず小僧は嫌われてんなぁ)


「おい、お前らクマさんの店で騒ぐなよ」

ステイがいさめればみんな口をつぐむ。


「おい、ステイ」

「はいっ」

「さっきフィール先生が来たんだがな。シロサギの小僧に刺された奴らは大丈夫だったのか?」

「はい。フィール先生のおかげでもうみんな歩けるくらいには回復してます」

「そうか、そりゃよかったな」

「ええまあ。シロサギが手加減してくれたってことっすよ」

「ほお、てめえはそう考えるのか」

「え?」

「いや、なんでもねえ」


雷帝の手下達はみんな小僧のことを嫌ってるのかと思ったが、そうじゃないやつもいるようで少しほっとした。


「あ、そうだ。ちょっと相談があるんすけど」

仲間達が店内の物色に忙しいのを確認し、ステイがこそっと話しかけてくる。


「うん?どした?」

「あの、、シロサギから俺のとこに来ないかって言われたんすけど…」

「ぶほっ」


俺は思わず吹き出した。


「おま、それマジか!すげえな」

「いやいやいや、俺は雷帝のとこにずっといたいんすよ」

「そうかあ?なら断りゃいいじゃねえか」

「いや、でもシロサギだって四天王だし、断るのも怖くって…」

「はは大丈夫だろ。小僧だって断られる前提で話してんだろうよ」

「そうっすかね…?」

「そんなに不安か?なら今度小僧が来たら俺からも断っといてやるよ」

「まじっすか!あざます」


ステイは心底ほっとしているようだった。相変わらずわかりやすい男だ。

(うん?もしや小僧にからかわれただけか?)

ふとそう思った。だとしたら難儀なことだ。


「まあ頑張れや」

「へ、あ、はい。あざっす」


雷帝の手下達は大量の食材や武器を買って帰っていた。




夕方、ぼちぼち店を閉めようかと思っていたとき、


バタバタバタ


(うん?外が騒がしいな)

外を覗こうとすると、1人の少年が店に勢いよく駆け込んできた。


「おじさん、助けて!」

少年は俺の後ろに隠れる。


「おいてめえ、うわっ」

少年を追いかけてきたらしい数人の男達はここがくま商店とわかって顔をひきつらせている。


「はあ、俺の店に何か用か?」

「いや、俺らはそいつに用があっただけで」

「だそうだが?」

「僕は用ないもん、おじさん何とかして」


面識はなかったはずだが、図々しい少年だ。


「はあ、別に俺はこの少年がどうなろうが興味ねえがな。俺の店で暴れるのは許さねぇぞ」


少しにらみを利かせれば男達はおずおずと店を出ていった。


「ありがと、おじさん!もしかして有名人?強そうだよね」


俺のことを知らないとは、曇天街の中心部に住んでるわけじゃないのか。よく見れば、服は上等な生地で汚れも少ない。


「もしかして、曇天街の人間じゃねえのか?」


少年は目をパチパチと瞬かせたあとふっと笑って

「今日から曇天街の住人です」

ピースサインをした。


「今日からって…よくここまでたどり着けたな」

「逃げ足だけは速いんだ、僕」

「そうか…」


少年は店内をキョロキョロと見回し

「曇天街にもお店とかあるんだね!」

嬉しそうに言った。


「ちゃんと金なきゃ売らねえぞ」

「あははっ!わかってるよー。金ならあるんだ!」


少年はポーチからごそっと布袋を取り出す。


ジャラッ


中身はお金らしい。すれあう音がしている。

少年が袋の口を緩めると

「うわっ」

そこには大量の金貨があった。


「うへへ、すごいでしょ」

「おま、何でこんなに金持ってんのに曇天街に来てんだよ!」

「えー色々あったんだよぉ」

口を尖らせてふてくされる少年に俺は頭が痛くなった。


「坊っちゃん、ここでそんな金持ってたら奪われて、最悪殺されるぞ」

「やっぱり?」

「俺が預かっててやろうか?」

「え、いいの!」


俺は少年の頭を軽く叩く。

「イテッ、なにするのさ」

「簡単に人を信じすぎだ。預かるなんて信じてんじゃねえよ」

「えー、でもおじさんいい人そうだし」

「曇天街でその考え方は命取りだぞ」

「うん、いいよ。僕は僕の目を信じる」


(んっ!)

中心部までたどり着くだけのことはある。力も武もないはずなのにどこか強者の風格だ。


「わかった。ならこの金は預かっておく。」

「ありがと、おじさん!僕はハヤテ。これからよろしくね」

「ああ、お前が死んでなければな」

「ひどーい」


ハヤテは手をひらひらとふって店を出ていった。




もう客も来ないだろう。

店を閉める。


今日も曇天街の住人は思い思いに生きている。

俺はそれが嬉しくて、ぐいーっと伸びをした。


クマの1日、いかがだったでしょうか。

正直、いつもより筆がのって楽しかったです

(^。^;)

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