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その頃曇天街では3

さて、白鷺類が聖パール学園の入学試験に挑む頃、曇天街ではどんなことが起きているのでしょうか。

少し覗いてみましょう。

けほっ、けほっ、


1階から聞こえてくる音に首をかしげる。

この音は外れにいたときに何回か聞いたことがある。

そして、この音を出した人は大抵その数日後に死んでいた気がする。


ねえ様はなんて言ってたか、、、風邪?


ハヤテ、死んじゃうのカナ。


ねえ様は風邪の人には近づいちゃだめだって言ってたけど、不安には勝てず、1階を訪ねた。


コンコン


扉を叩いても返事がない。

ハヤテが動いてる気配もない、よね。


うーん。


扉を蹴破るのは簡単だけど、どうしたものか。


「あん? お嬢ちゃん、どうしたんだ?」


声をかけてきたのは、雷帝のところのタケトだった。

雷帝のところにいながらも、子分たちとはあまりつるまないタイプの彼は、今日も一人で行動しているようだ。ステイと2人でいることも多いけど、ステイが子分といるときに一緒にいるのは見たことないんだよね。


なんとなくそういうところが、私は気に入っている。

タケトになら相談もできる、よかった。


「タケ、、ハヤテ、風邪、ひいて、る?」


「なんで疑問形なんだよ」


がしがしと頭を掻いて、それでも邪険にしないでくれるタケトに安心する。それでこそ、だ。


「風邪の音がする、の」


「なんだそりゃあ、だがまあ、風、、、風邪か? ならフィール先生に看てもらえばいいんじゃねぇか?」


「そう、だね」


煙玉を地面に叩きつけると、もくもくと赤い煙が噴き出す。


ルイがフィール先生を呼ぶ姿を思い出して、懐かしい思いだ。

実は私自身で呼ぶのは初めてだから、そわそわした。


本当はライターやマッチで火をつける必要があるものなのだが、そういった着火装置がないと発動しないのは不便なので、九条に言って改良してもらった。ただ地面に叩きつけるだけで、中で火がついて煙が上がる仕組みだ。


九条はちゃっかりそれをフィール先生に売り込んで儲けたらしい。フィール先生、守銭奴なのに申し訳ない。

でも、患者のためならどんなことでもするのが、フィール先生の矜持だ。


すぐにフィール先生が飛んできた。すぐって、もうほんと一瞬。

なぜなら、フィール先生を送り届けたのが、ソフィ姉さんだったから。


ソフィ姉さんの瞬身の術はやっぱりすごい。

人を運ぶこともできるとは、知らなかったけど。


「あら、タケもいたのね」


あっけらかんと言ったが、タケトとソフィ姉さんはお付き合いをしているんだそうだ。噂、ではあるけど。


「よぉ、ソフィ」


「どうしてここに?」


「ちょっとぶらぶらしてて、たまたまな」


「一人でこんなところうろついて、殺されても知らないわよ」


「そのときはそのときだ」


ムッとしたソフィ姉さんに、それでもタケトは余裕の態度を崩さない。なんというか、素直じゃない2人なのだ。


「いい加減、結婚しちゃえばいいのに。キラちゃん、で、患者は?」


呆れたように呟いたあと、私を向いたフィール先生が尋ねる。


「ハヤテ、風邪かな、」


ハヤテの家の扉を指差しながら話すと、フィール先生はぐっと鋭い顔をした。なんとなく嫌な予感がして、私はとうとう扉を蹴破った。


バーン


衝撃で、風が吹き付ける。


げほっ、げほっ、ひゅー


扉が消えたことで、ハヤテの音がクリアになった。

と、同時にフィール先生が音のする方へ駆け出す。


追いかけると、ベッドに横になって苦しそうに呼吸するハヤテがいた。


これ、外れで死にかける人がよくなってた状態。


「殿下、ハヤテ殿下、聞こえますか?」


フィール先生がハヤテの肩を叩きながら反応を伺う。

ハヤテはフィール先生に向かって必死に手を伸ばすが、喋る余裕はないようだった。


伸ばされた手をフィール先生が勢いよく掴み、


「ハヤテ殿下、大丈夫ですからね。ここにいますよ。落ち着いてゆっくり呼吸してください」


声をかける。


だが、ハヤテの様子は改善されない。


ハヤテ、死んじゃう?

私の初めての友達、なのに。


ポン、とタケトが私の肩を抱いた。

そのままポンポンとゆっくり肩を叩かれると、少しずつ落ち着けた。


「フィールせん、せい」


声が少し震えた。


「キラちゃん、死なせはしないから安心して」


よかった。フィール先生がそう言うなら安心だ。


「ハヤテ殿下は昔からからだがあまり強くなくて、季節の変わり目には必ず体調を崩していたわ。大人になって、少しずつそれも落ち着いてきていたのだけど、曇天街暮らしに耐えられはしなかったようね」


ハヤテ……。


「ただ、ハヤテ殿下の場合、精神的に弱ると体に影響が出るから、今回のことも精神的理由が大きいかもしれない。恐らく、シロサギがいなくなったことで不安が大きくなったんじゃないかしら」


「どうしたら、いい、の」


ルイの穴なんて、私じゃ埋められないヨ。


「精神的な回復をはかるなら、ジンがいれば確実でしょうけど、彼は王宮だし。外れのアランでなんとかなるか、といったところね」


でも、確実なのはジンなんだよね。


丁度というか、幸いというか、今日はなぜか曇天街にあの人がいる。耳をすませば、あの人の冷たさに殺られそうになるくらい。


でも、ハヤテを助けるためなら。


「私、ジンを呼んでくる」


「ちょっ! なにいってるのキラちゃん。まさか外界に出るつもり? 認めないわよ」


ソフィ姉さんに手を引っ張られる。

タケトはもう肩から身をひいてくれたのに。


「外界にはいか、ない。九条のところに、行く、だけ」


「九条さん? ほんとに?―――だったら私が連れていってあげる」


え、


猛烈な風を感じたのち、気づけば九条がいた。

ここ、九条の。


ピリピリ


あ、ってことはあの人がいる。

はぁ、はぁ、だめだ。息が詰まって、動けない。


「なるほど、キラちゃんの狙いは九条さんではなく、あなただったってわけね――クロム」


ソフィ姉さんが手を握る力を強めてくれる。

けど、ちっとも息ができない。


息ってどうやるんだっけ。


「ん、キラちゃん!」


からだが崩れてゆくのを感じた。

ハヤテはからだが弱いのに、スラムに足を踏み入れた。

よく言えば自らの身を省みない優しさ、悪く言えば無鉄砲。

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