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新キャラ登場です!
程なくして快活な声がかかる。
「こりゃまた派手にやったもんね」
見ると、男勝りな雰囲気の女性が立っている。
肩くらいの長さのパーマがかった金髪を赤いヘアバンドでとめ、スカート部分にいくつか赤いハートの刺繍を施した真っ白いワンピースを着ている。片手には救急箱を手にしていた。
「フィール先生、ご足労いただきありがとうございます」
ルイはにこやかに応じる。
フィール先生、と呼ばれた女性はそれに答えることなく屍の方に目を向けた。しゃがみこみ、途中ウンウン唸ったりしながら5人共を観察する。
そして、立ち上がり、私を指差して
「これ、殺ったのはその子?」
ルイに問うた。
「ふふ、わかりますか」
ルイはなんだか嬉しそうにうなずいた。
「わかるわよ。あんたは人を殺さないから」
(…??)
何を言っているのだろう。ルイは人を殺さない?
曇天街に生きているのに…?
(いや、だとしたら私も殺さない方がよかったんじゃ、、)
不安になってルイを見る。
私の視線に気づいてルイは、首を横に振り、頭をポンポンしてくれた。とりあえず殺したことは問題なかったようでホッとする。
「うっわ!珍しいもん見たわー」
そんな私たちの様子に女性は目を丸くしている。
なんだか気恥ずかしくなった。
「フィール先生、呼んだのはこの子の傷を診てもらいたかったからですよ」
「傷?ってまさかその頬の傷じゃないわよね?」
「ふふ、そのまさかです」
「はぁ~嘘でしょ!その程度で私を呼ぶとか信じらんない」
「お金はちゃんと払いますから、ね」
「…まあ、お金払ってもらえるなら診ますけどぉ」
「お願いします」
ずいぶんと気心の知れた関係らしい。
双方に警戒の欠片もない。
話がまとまり、ルイは私に彼女を紹介する。
「キラ、こちらフィール先生。俺の知る限りでは曇天街で唯一のお医者様だよ」
「医者…やぶ?」
「なっ!失礼な子ね。歴とした本物の医者ですぅ」
「ホンモ、ノ?」
「そう、フィール先生はちゃんと医師免許をもった本物のお医者様」
「ホントに?」
「この医師免許が目に入らぬか!」
私が疑いを緩めないのでフィール先生はワンピースのポケットからカードを取り出す。このカードが医師免許というやつらしい。
正直、そのカードを見ても本物かどうかなど私にはわからないが、ルイが疑っていないのだから信じていいのだろう。
それにしても、本物の医者だというのなら曇天街にいる意味がわからない。いくらでも外界に仕事があるだろうに。
そういう意味で胡乱げな眼を向ければ、まだ疑っているのか、とぶつくさ言われた。
「んっ、じゃあ傷診せて」
フィール先生は救急箱から消毒液やガーゼを取り出して私を向く。
「あっそうでした、フィール先生」
思い出したようにルイが言う。
「キラの血は毒なので気を付けてくださいね」
「…はぁ!?」
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キラの血が毒だと告げれば、ものすごく驚かれた。
でも、次の瞬間にはどこか納得したようにうなずかれる。
「確かに、あいつらの死因は毒だったわ」
「視ただけでわかるんですね」
「そりゃあ、ちょっと泡吹いてたり、変色してたり、毒っぽい所見があったから」
「なるほど」
さすがは本物の医者。実力は確かだ。
「それにしても、血が毒とはねぇ」
フィール先生は銀の匙でキラの血をすくう。
「うん、確かに間違いないわ」
銀の匙は黒く変色していた。
「だったら消毒は必要ないかもねぇ」
「どうしてです?」
「バイ菌は毒素を出すから危険なの。その毒も効かないってんなら消毒の意味はない」
「そういうものですか」
「そういうもんよ」
キラにはバイ菌と毒は別物だなんて偉そうに言ったが、どうやらお門違いだったらしい。
となると、フィール先生を呼んだのは無駄骨だったといえなくもないが、キラに彼女を紹介できたのだからよしとするか。
「まあだからってこのまま放置は医者としてないわね」
そう言うとフィール先生はキラの頬をガーゼでぬぐい、大きめの絆創膏を貼り付けた。
「フィール先生、それは…」
「ふふふ、曇天街に女の子少ないんだもの。使う機会なかったんだけどね」
フィール先生が貼り付けたのはピンクで、ハートが白抜きになっている絆創膏だった。
そりゃ、男に貼れば間違いなく苦情が出るだろう。
俺達の会話にキラは怪訝そうに首をかしげていた。
「あーそれから、一個確認しとこう」
ふと思い出したようにフィール先生が切り出す。
「キラちゃん?その毒って生まれつき?」
それは確かに俺も気になっていた。
キラは首を横にふる。
「ふーん、じゃあ毒を摂取することで毒を蓄積してるのかしら。だとすると、相当な量の毒、しかも長期間」
フィール先生は手を顎にあて、思案する。
そして、数秒後、キラの頬を両手で挟み込むように触れ、
「よく頑張ったわね」
優しく告げた。
キラは目を丸くして、そののち泣きそうな顔で微笑んだ。
長い時間をかけて毒に身体を慣らし、さらには身体に蓄積されるまでに大量の毒を摂取する。
並大抵のことではないのだろう。ましてや医療環境も整っていない曇天街でだ。
それは常に死と隣り合わせな苦行だったに違いない。
キラが思い出したくないことというのもここに繋がっているのではないだろうか。
俺は何も言わずキラの頭を撫でた。
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フィール先生は慈愛に満ちた声で、表情で、
「よく頑張ったわね」
ただ一言を発した。
私は姉に毒を飲まされた日々を思い出す。
それは時に、身体が張り裂けるような痛みをともない、自分が自分でなくなっていくような混乱を心に生じさせた。
姉と毒に自分の全てを支配されているような不快感だった。
ルイは何も言わずただ優しくゆっくりと頭を撫でてくれる。
それは姉の支配が少しずつ溶かされていくような不思議な感覚をもたらした。
頼れるお姉さん医師、フィール先生の登場でした!
そして、、、よかったね、キラちゃん。
これからきっともっと自由に。




