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11話 交渉

 昼休み、西川が弁当を食べ終わるタイミングを待って、藤咲と二人で特攻した。


「ちょっといいかな、西川さん」


 藤咲が声をかけると、西川は大げさに驚いた。


「わっ! なに! びっくりすんじゃーん!」


 そんなことを言いながら両手を上げるという漫画みたいなリアクションをする。


 西川楓。このクラス一の人気者であり、江南さんの唯一の友達。


 毛先を巻いているうえ、目元につけまつげ。薄い色のカラコンをつけていて、全体的に派手な印象を受けるギャルだ。私服を着て歩いていれば、まず女子高生と思われることはないだろう。


「しおちゃんだけじゃなくて、なおっちもいるし。いいんちょ二人でどうしたのー?」


 目を大きく開け、顔を近づけてくる。俺は言った。


「実は、西川にお願い事があるんだ。ちょっと来てもらってもいいか?」

「へぇ、なおっちが? いいよー。どこに行くの?」

「階段の踊り場かな。屋上の前のところは人があんまりいないから」

「はいはーい」


 西川は腰が軽くて助かる。そのまま、俺たちは屋上の手前の踊り場まで移動する。昼休みの喧騒が少し遠ざかる。


「もしかして、梨沙ちゃんのこと?」


 踊り場に着くなり、西川がそう言った。さすがに気づかれていたか。


「まさにその通りだ。江南さんについて、お願いがある」

「んー? 前に先生に呼ばれていたけど、それに関連してる感じ? それだったら無理だかんね。遅刻の理由を聞いたり、生活態度を改めるよう説得したりするのは嫌だから」


 さすがに勘が鋭い。俺の記憶が確かならば、テストの学年順位はいつも一桁だ。

 藤咲が、小さくうなずく。


「先生から、西川さんに断られた話は聞いたよ。先生に、江南さんのことを頼まれたのもほんと。だけど、無理に遅刻の理由を聞きだしたり、説得しようと思って西川さんに話しかけたわけではないの」

「そうなんだ、それならよかった!」


 今さらながら、先生が断られたという事実を知られたのはよかった。でなければ、あえなく撃沈していただろう。


「先生に頼まれたというだけじゃなくて、わたしたち、前から江南さんとは仲良くなりたかったの。だって、せっかく同じクラスなんだから」

「そういえば、一学期のときは梨沙ちゃんに何回か話しかけてたよね。全部、冷たくあしらわれちゃってたけど」

「うん……」


 やはり、江南さんにはすでに何度もアタックしていたようだ。藤咲も、交友関係は広いほうだし、ショッピングモールで見かける前から江南さんのことは気になっていたのだろう。

 藤咲はつづける。


「それに、江南さんって正直あまり成績もよくないでしょう? だから、一緒に勉強会出来たらいいな、って思ったの」

「勉強会、かぁ」

「中間テストも近いし、ね」


 西川は考え込んでいた。相手にとってもこちらにとっても悪くない提案だと思う。しかし、西川がなぜ江南さんのことについて非協力的なのかがわからない以上、提案を受け入れてくれるかどうかは未知数だ。


「もちろん、勉強会には西川も一緒にいてくれると助かる。俺たち3人は勉強ができるほうだから、江南さんのこともうまくフォローできるんじゃないかと思う。勉強会はあくまで親睦を深めるのが目的だから、さっきも言ったように説得するつもりは欠片もない」

「なるほど……まぁ、わたしは問題ないかな」


 迷いながらもそう答えてくれた。


「わたしにお願いしてきたってことは、梨沙ちゃんへの交渉もわたしに任せたいってことでしょ? わたしから頼んだところで、梨沙ちゃんが参加するとは限らないからね。それでもいいなら、わたしから言ってあげてもいいよ」

「ありがとう、助かるよ」


 なんとか話がまとまった。これで無理なら仕方がない。


「ただ、一つだけ条件があるんだよね~」

「え?」


 西川が眉を上げて、にやっとしながら俺たちを見た。


「まあ、大したことじゃないって。そっちのお願い聞くんだから、こっちの言うことも聞いてくれたっていいでしょ?」

「ああ、うん。そうだな」


 飯をおごるとか、ノートを貸すとかかな、と考えていた。それくらいであれば、特に問題はない。西川にノートを貸したことは何度もある。俺のノートは見やすいらしく、よくコピーをとらせてくれと頼まれている。


「わたしも、できることであれば頑張ってみるよ。西川さんばかりに負担をかけてちゃ悪いもんね。それで、何? 条件って……」


 藤咲としても、条件を提示されるとは思っていなかったようだ。西川は、何か頼まれたとき、快諾してくれることが多い。クラスの人気者たる所以がその気安さだ。

 西川は言う。


「もし、梨沙ちゃんも含めて勉強会をやるとしたら、きっと梨沙ちゃん、いいんちょたちを怒らせるようなことをしちゃうと思うの。そのときに、怒らないであげて」

「え? それだけ?」


 拍子抜けだった。てっきり、西川自身のお願いを聞くものと思っていた。


「うん、それだけ。だから大したことじゃないって言ってるでしょ」


 そうだな。俺たちが勝手に勘違いしただけだ。


「わかった。怒らないようにするよ」

「わたしも」


 俺たちは即答する。しかし西川は再びにやっとしながらこうつづけるのだった。


「大したことじゃない……。でも、それを実行するのは結構大変かもね」


 とても意味深に聞こえた。

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