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40.どう見ても、ウソには見えなかった

40.どう見ても、ウソには見えなかった




 どう見ても、ウソには見えなかった。

「…………」

 サラはよろけた少女を抱きとめる親友と、抱きとめられた少女を見て小首を傾げる。

 罰ゲームで親友に告白した少女。

 好きで告白したわけではなく、彼女をやめたいと言った少女。

 その彼女(ミウ)親友(シェルディナード)を見る目は、信頼と紛れもない好意が見える。

 だから、サラはわからない。

 どうして、親友の『彼女』をやめようとするのか。




    ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




「しぇ、シェルディナード先輩……。これ、動けません」

「大丈夫だって。ダンスとか今日はねーし」

 さてそろそろホールへ移動しようとなったのだが、正直一歩進む度によろけそうなミウである。辿り着ける気がしない。

 しかも予想以上に人も多いし、何か会場もやたら豪華だしと緊張感を高める要素しかない。逃げたい。

「ミウ、(うつむ)くなよ?」

「だ、だって足元見てないとっ」

「余計危ねぇから。それにどうせ会場じゃ、掴まりっぱなしになるんだし」

 掴まってれば歩けるし、転ばないから足元見る必要は無いとシェルディナードは言う。

「でもっ」

「それ、より、顔」

「ひゃい!?」

 ぺしっとサラがミウの両頬を軽く手で挟む。

「せっかく、オレが、ルーちゃんの隣に、立って見劣りしないように、したのに」

 そんな情けない表情してたら台無しでしょ? とひんやり冷気がサラから漂う。

「ひっ! はい!」

「俯かない。変な顔、しない。微笑んでるか、目を(すが)めてれば、大丈夫」

「あの、最後のは?」

「寄んなよ、ってオーラ出しとけって事だろ。極力ねーようにすっけど、俺が席外すと話し掛けてくる奴いるだろうし」

「ひえ!? む、無理です!」

 ひしっと恐怖の表情でミウがシェルディナードの袖を掴む。

「だから、寄るな話し掛けるなってオーラ出して威嚇(いかく)しとけってこと」

「む、無理ですよぉ!」

「じゃ、話し相手するしかねーな」

「いやぁ!」


 ――――うぅっ、絶対独りにならない! シェルディナード先輩から離れない! 死んじゃう!


 震えつつも覚悟を決めた形相(ぎょうそう)のミウに、シェルディナードが微笑む。

「良し。んじゃ行こうぜ。大丈夫だって。ミウの度胸ならいける」

「そんなものありませんよぉ……」

「そっか? 俺は最初から、ミウの度胸は充分俺と釣り合ってっと思ってるけどな」

「何か誉められてる気がしないんですけど!?」

 図太いって言ってませんか!? と恨みがましそうにミウがシェルディナードを睨む。

「顔」

「ひっ」

 サラからの単語にミウが背筋を伸ばす。

 ふっと溜め息をついて、サラは言う。

「ねえ、オレの、ルーちゃんに、恥かかせる、気?」

「め、滅相(めっそう)もございませんんん!」

「オレの、見立てと、腕も、信用できない、わけ?」

「無いです! 完璧です!」

「じゃ、顔。口許だけ、ほんの少し、笑む」

 若干引きつりつつ、ミウは言われた通り笑みを作る。

「…………。まあ、いい、かな」


 ――――いいって言いつつ、ダメだって顔しないで下さい!!


「次。ミレイの、高笑い、思い浮かべて。それを少し、(さげす)んだ感じに」

「え」

「もしくは、エイミーの、笑顔で口許だけ笑わない感じ」


 ――――何か例えおかしくないですか!?


 とは言え、ミウは必死に言うとおりの表情を思い浮かべて自身の表情を近づけていく。

「お。それっぽいじゃん」

「うん。合格」


 ――――物凄く不安なんですけど!?


 二人からの太鼓判にミウが内心叫ぶ。通常運転である。

 そんなミウの叫びは表に出せず、とうとう会場入り本番。

「ミウ・エマレット。どうぞ?」

 シェルディナードがウィンクして差し出す腕に、ミウは若干引きつりながらも微笑みを浮かべ、あくまで優雅に自身の腕を絡める。


 ――――俯かない俯かない。顔あげる。前見る。


 呪文のようにそう繰り返し、シェルディナードの腕にしがみつく為、身を寄せた。

 ホールに続く扉が開き、(まばゆ)い光が溢れ出る。


 ――――うっわぁ……。


 高く美しい風景が描かれた天井とそこから下がる巨大な硝子(ガラス)のシャンデリア。磨き抜かれた大理石のタイルを敷いた床、色とりどりに着飾った人々と談笑を誘う飲み物や食べ物。

 銀のトレイを持って忙しく動く給仕の中にアルデラの姿を見つけ、シェルディナードとミウの入場に気づいたエイミーとケルが笑顔を向けてくる。

 ごくりと息をのみつつ、ミウはしっかりとシェルディナードに掴まって、一歩踏み出す。

 入ってきた二人に、知り合い以外からの視線が集まり、その存在が知れ渡った。

 そんな会場の隅。密かに高等部の夜会に参加していたミレイが、ミウを見てガッツポーズを決めていた事に気づいたのは、シェルディナードだけだったのはどうでも良い話だろう。

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