33.もふもふハート
33.もふもふハート
「だからね、貴女に筆頭彼女を引き継いで欲しいのよ」
「い・や・で・すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! やっぱりろくでもないじゃないですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! 絶対絶対嫌ですー!!」
「お願い。貴女しか考えられないの」
「男のヒトだったらそれで堕ちるかも知れませんけどあたしは嫌ですぅぅぅぅぅ! 無理ですっ!!」
ナイスバディの美女が物憂げな視線で潤んだ瞳を上目遣いで向け、軽く両手で手を握ってお願いなんてシチュエーション、美味しい以外のなにものでもないがミウは同性である。効果が完全に無いわけではないが、抵抗できないほどではない。
しかしこれも意外だったのか、ミレイは軽く目を見開いた。
「まさか……アタシの魅了も効かないの? ステキ。ますます貴女が欲しくなったわ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
若干その金色の瞳が本気である。ペロッと舌なめずりされた時点でミウの警戒と恐怖が限界値の達した。
「みやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっー!! エイミーちゃん! アルデラちゃんっっっ!」
◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆
「ハハハ。大変なのに目ぇつけられたな。ミウ」
頑張れー。とか笑うシェルディナードに、ミウはエイミーとアルデラの後ろからキシャー! と猫なら全身の毛を逆立てる勢いで抗議した。
「シェルディナード先輩のせいですよね!? 責任とってどうにかして下さいぃぃぃぃぃ!!!!」
「あはははは!」
「笑わないで下さい!!」
しかし助けてくれる気配は皆無である。
どころかニヤニヤと面白がっている気配すら漂う。
だが、助けは意外なところからもたらされた。
「ミウ、怖がってる、でしょ」
「サラ先輩?」
相変わらず音も気配もなく移動するのはやめて欲しいのだが、サラはミウの背後からぬいぐるみを抱き締めるように腕を回して、ミウの首あたりをそっと抱いた。
「やっぱり黒陽はその子がお気に入りなのね……。まあ、それが後任にしたい一番の理由なのだけれど」
訂正。助けではなく、原因だった。
「サラ先輩のせいですか!?」
「あら。だって、黒陽とうまくやっていける子なんて、滅多にいないもの。絶対逃がせないわ」
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
――――絶対逃がせないのとこだけ眼! 眼が光っ! 怖いぃぃぃぃぃ!!!!
ガクブル震えるミウに、シェルディナードが仕方なさそうに笑う。
「ミレイ。そんくらいにしとけって。ミウがハゲる」
「ストレスで毛の抜ける動物みたいにいわないで下さい!?」
「君のせい、で、ミウがハゲ、たら、怒る、よ」
「ハゲません!!」
もう何かのトリオかなとケルはそのやり取りを眺め、エイミーとアルデラはさりげなくケルの方へと避難する。
「だが、彼女は意外と強心臓だな」
「確かに。時々、心臓に毛生えてんのかな? ってこと言ったりやってるし」
「うふふ。きっとミウはもふもふハートなのね。可愛い」
「いや、心臓がもふもふってそれヤバい」
「エイミー、君それはほめているのか?」
そんな外野の事は置き去りに、ミウ達の話は進む。
「お願い。ハイかイエスで応えてくれれば良いから」
「それどっちも同じじゃないですか!」
「あ。じゃあ、こうしましょ。今度の夜会で、貴女が『相応しくない』って皆が思ったら諦めるわ」
「そっ……。え?」
にっこりとミレイが微笑む。どう? なんて聞いてくるミレイに、ミウは疑いの眼差しを向けた。
「本当に、それで諦めてくれるんですか?」
「ええ。何なら、契約書つくる?」
――――どう考えてもあたしに有利というか……勝てる気しかしないけど…………。
逆なら百パー無理だが、その条件なら勝てる。
ミウが考え込む様子に、ひっそりとミレイが笑みを深めるのだが、検討に検討を重ねているミウはそれに気づけない。
「…………」
サラが呆れたような目でミレイを見て、ミレイはそれに笑顔を返す。その笑顔は声に出さずにこう言っていた。
この子、もらったわ。と。
チラリとサラは考え込むミウを見て、再びミレイを見る。面白くはない。だが……。
「…………」
サラは口をつぐむ。何故ならサラも別に不都合は無いから。
そしてシェルディナードはと言えば、クスクスと相変わらず楽しそうに成り行きを見守っているだけ。
「わかり、ました」
「じゃあ、契約成立ね」
その瞬間、ケルは目も当てられないというように片手で顔を覆い、エイミーはニコニコと、アルデラは苦笑いを浮かべた。
勝ち誇った満面の笑みを浮かべ上機嫌のミレイと、それを不思議そうな顔で見るミウ。
シェルディナードとサラは一度視線を交わして、ミウを見る。
「え? なに? え?」
知らぬは本人ばかりなり。
だって、あり得ないのだ。
サラがシェルディナードに依頼されている以上、そのオーダーに応えられない、つまり外見に関して釣り合うようにできない、なんて。
「え? あれ?」
「今度の夜会、楽しみね」
おーほっほっほ、なんて高笑いしそうな雰囲気で、ミレイはミウに微笑んだ。