32.何かろくでもない予感がする
32.何かろくでもない予感がする
「シェルディナードは『遊び相手』に丁度良いのよ」
ミレイは溜め息をつきながらそう言った。
「ひっで」
クスクスとシェルディナードはその言葉に笑い、楽しそうに赤い瞳を歪めている。
「貴女もわかると思うけど、貴族の結婚は個人同士の結婚ではなく、家同士の結婚なの」
シェルディナードを軽く睨みつつ、ミレイはミウを見る。
「決められた相手と結婚するまでの遊びの期間、シェルディナードはわりと良い物件なのよ。後腐れないし、長男じゃないから面倒事にもならないし。何より……」
ミレイのシェルディナードを見る目が据わる。
「こちらが本気になろうが何しようが、絶対遊びの相手しかしないし」
「うっわー。酷でぇな。俺、ちゃんと全員愛してるぜ?」
「ね? 最低だから心置きなく、さよなら出来るでしょ?」
だから、と。ミレイは一度目を閉じてから心配そうにミウを見た。
「シェルディナードが新しく告白した子を彼女にしたって。その子が遊びで付き合う感じの子じゃないって聞いたから、少し気になったのよ」
じっと金色の瞳がミウを見つめる。
「遊び相手には良いけど、本気になるには最低最悪だから」
物凄い言われようだが、事実だろう。
――――いや、それ以前にシェルディナード先輩とあたしじゃ、遊びにすらなれないけど。
遊び相手というのは同じ貴族同士だからで。
ミウみたいな庶民はまず立ってる場所からして違うのだから遊びにすらならない。遊び相手とは、同じ立ち位置にいるから成り立つ関係で、ミウとシェルディナードなら一方的にミウが玩具にされて終わりだ。
「気にする必要、無い、でしょ」
「黒陽……」
ミレイからミウをイスごと隔離したサラは、ミウの髪を手に取りつつポツリと呟いた。
「ルーちゃん、大事に、してるもん」
「貴方ね……。まあ、いいわ。それよりさっきから何してるの」
ミレイの問い掛けに、サラは視線を上げずに答える。
「期末夜会、の、ヘアスタイル、どうしよう、かな、って」
◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆
「やっぱり高い位置でアップじゃない?」
「あら。それならハーフアップの方が可愛いのではないかしら?」
「ちょっと編み込んだ方が良くない?」
ミウを除く女性陣がミウと、無言でミウの髪を見て考え込んでいるサラを囲んで意見を出し合っていた。
「でも、それじゃ子供っぽくなるじゃない」
「ミウの雰囲気は可愛い方が絶対合うって」
「高い位置だとミウの髪の長さが足りないのではないかしら」
盛り上がる女性陣を見て、ケルは何とも言えない顔をする。
「シェルディナード。そろそろ彼女をあそこから助けた方が良いのではないか?」
「んー? 別にそんな必要なくね? ミウも受け入れてっし」
「いや、あれはぐったりしてるの間違いだろう」
触られまくった小動物のごとく、イスに座ってぐったりするミウにケルの目が哀れみの色を宿す。盛り上がり生き生きする周囲とセットで見ると、まるで生気を吸い取られている哀れな犠牲者だ。
「…………決めた」
それまで無言でミウの髪を触っていたサラがそうポツリと呟く。
「……サラ先輩?」
「当日の、ミウの髪型。低い位置でまとめて、髪飾り」
「ちょっと黒陽」
「決定」
女性陣の不満そうな声が聴こえても、サラは意見を変える気はないらしい。納得したのかミウの髪から手を離し、そして何故かミウをぬいぐるみのように抱え。
「え。ちょ、サラ先輩!?」
「ルーちゃん」
――――ちょ、何するんですか!?
「お。決まったか? サラ」
「うん。下でまとめて、軽く、ゆるふわ、あと髪飾り」
「ふーん。いんじゃね?」
「ふふ」
いや、わからない。何故その説明でわかるのか。
――――あたし、ぬいぐるみじゃないですよ!!
雰囲気が玩具売り場でぬいぐるみ選んだ子供が「コレにするー」って言った時の感じそのまま。
しかもジタジタとミウが暴れても、美少女めいた容貌と華奢な身体のクセにどこにそんな力があるのか、サラはびくともしない。イスごとミレイからミウを引き剥がしたのも良く考えればそうなのだが。
「サラ先輩! 離して下さいぃぃ」
「はい」
「うみゃ!?」
「おっと」
離せとは言った。が。ポイッと投げろとは言っていない。
本当にぬいぐるみと思ってんじゃないかという気軽さで、サラがシェルディナードの方にミウを投げる。シェルディナードはそれを受け止めて、流れるように自然に自分の膝に座らせるまでが一連の動作だ。
「離して! 触んないで下さい! シェルディナード先輩!」
「えー。ヤダ」
「サラ先輩のマネですか!? シェルディナード先輩がやっても可愛くないです! 離して下さいぃぃぃぃぃ!!!!」
――――ヤダと言いつつアトラクションの安全レバーみたいにお腹のあたりから抱き締めるのやめてくれませんかね!?
そんなやり取りを見て、ミレイが小さく唇を開ける。
「…………」
その金色の瞳が信じられないものを見たそれだ。
身分で考えるなら、確かにそれはあり得ない光景である。ミレイが驚くのも無理はない。
やがてその瞳が今度は考え込むように伏せられ、ミレイが静かにシェルディナードの側に近づいていく。
「シェルディナード」
「なに?」
「その子、今度の夜会にパートナーとして連れていくのよね?」
「そ」
未だにシェルディナードの腕から抜け出そうともがくミウは、どちらの視界にも入っていないらしい。
「なら、丁度良いわ。アタシの後任、この子にするから」
「OK」
「ちょっ!? 何かろくでもない予感がするんですけどっ!! 本人に確認しないで勝手に決めないで下さいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」




