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23.色んな意味で怖くて降りられない

23.色んな意味で怖くて降りられない




 皆さんは木に登って降りられなくなった猫を見たことはあるだろうか。


 ――――怖いぃぃぃぃー!! こんなの、降りれないよぉぉお!


 まさに、それ。

 色んな意味で怖くて降りられない状態になったミウは、木の幹にしっかりがっしりしがみついて、ガクブル震えていた。


 ――――サラ先輩の、馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 眼下には無表情ならぬ無面で見上げてくるデッサン人形達。

 木に登ろうとしているのだが、流石にデッサン人形の簡略化された手では難しいらしい。

 ただ数がおびただしくて集まってるの見てるだけで恐怖であるのは間違いないわけで。


 ――――なんで!? 何でこんな目に!?


 ミウの頭の中からは残り時間の概念もすっぽり抜けている。

 つまり、パニックだった。




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




「ほいっ、と」

「あら」

 エイミーの振るう大鎌を避け、黒い目出し帽を被ったシェルディナードは温室の扉の前に辿り着く。

「時間も時間だ。ここまでだな。エイミー」

 ちらりと腕時計に目を遣り、ケルがそうエイミーに告げる。

「残念……。でも、良い勉強になりましたわ。シアンレードの若様、ありがとうございます」

「そりゃ良かった。んじゃ、はい」

「あんまり、ミウをいじめないで下さいね?」

 シェルディナードの軽く上げた手のひらに、エイミーがそっと手を合わせた。

「えー? 心外。大事にしてんだけどな」

「うふふ。でしたら問題ありませんわ」

 そんな軽口を交わしつつ、シェルディナードとエイミー、ケルが温室へと踏み込む。と、響き渡る絶叫。

「何事だ!?」

「あ。サラと遭遇(エンカウント)したっぽいな」

「まあ……。そういえば、黒陽(ノッティエルード)はいらっしゃいませんでしたわね」

 さくさくといつものお茶会をする温室の中央へと歩みを進め、一足先にお茶を飲んでいるアルデラに挨拶する。

「あ。お疲れー。あと五分くらいだけど」

「あんだけ盛大に声上げてれば居場所わかるから、よゆー」

 クツクツと喉を鳴らして笑い、シェルディナードは迷い無い足取りで茂みの中へと歩みを進めた。

「ルーちゃん」

「よ。サラ。ミウ触った?」

「ううん。逃げられ、た」

「わお。珍し。サラから逃げるとかやるじゃん。ミウ」

「ね。……凄く、(かん)が良い」

 あまり本人が聞いても嬉しくないだろう褒め方をしつつ、サラはシェルディナードをミウのいる木の近くまで案内する。

「あそこ」

「おー。ネコだな」

 ふしゃー! なんて声でも聞こえてきそうな様子で、涙目で叫ぶミウがいた。

「さ、サラ先輩の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! シェルディナード先輩の鬼ぃぃぃぃぃぃー!!」

 顔が真っ赤で頭に血が昇ってる様子だ。

 シェルディナードはクスクスと笑ってミウに声をかける。

「ひっでぇな。ほら、大丈夫だから降りてこいって」

「嫌です! 人形怖いですぅぅぅぅぅっ!!」

「怖い……?」

 こんなに可愛いのに? とサラがデッサン人形を一体掲げると、ミウがビクッと身を強張らせた。

「わかったわかった。サラ、悪りぃけど人形下げてくれるか?」

「むう……。わかった」

 サラが人形を連れて離れる。

 それを見ながら、ミウは深く深く息を吐いていた。

「ふ……ふぇぇぇぇ」

「ほら、居なくなっただろ」

 こいこい、とシェルディナードが言うが、ミウはブルブルと顔を横に振る。

 残り時間がとかではなく、単純に、

「こ、腰が、抜けて……」

 動けない。

 蒼いんだか赤いんだかわからない顔色である。

「仕方ねーなぁ」

 シェルディナードが笑いながら、両手を広げた。

「な、何ですか? ま、まさか、飛べと!?」

「そ。あんま腰抜かした状態でいると危ねーから、思い切って飛べ。受け止めてやっから」

「無理! 無理ですー!!」

「ミーウ」

「ひっ」

 ニッコリとシェルディナードが笑う。そしてこんな呼び方をされる時は必ず……。

「飛ぶのやだってんなら、俺がそこまで登って抱えて降りても良いぜ? その代わり、お礼にキスでもしてもら……」

「飛ばせて頂きます!」


 ――――シェルディナード先輩のセクハラドSぅぅぅぅぅ!!


 グッと両手のみならず全身に力を入れて、ミウは震える脚を叱咤(しった)しつつ体勢を立て直す。

 飛び込む先のシェルディナードへと目を向けて、ミウは次の瞬間に叫んでいた。

「シェルディナード先輩っ!!!!」

 光の矢。そんなようなものとしか言えない。

 それがシェルディナードの側頭部目掛けて飛ぶ様が、視界に映った。

 考えるより先に靴底が枝を蹴る。

 飛び込むと言うより最早タックルするような勢いで、ミウはシェルディナードへ向かって跳躍(ちょうやく)した。

 胸元ではなく、ミウは腰に抱き着き半ばシェルディナードを押し倒すような形になる。

 かなり勢い任せだったにも関わらず、あまり衝撃がないのはシェルディナードが自ら後ろに少し飛んで受け身の体勢を取っていたからかも知れない。そんな事は露知らず。ミウはシェルディナードの上でガバッと身を起こす。

 ベタベタベタ! と頭を中心に触って触って触りまくる。

「しぇ、シェルディナード先輩? シェルディナード先輩!?」

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