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22.見るからに不審者

22.見るからに不審者




 昔から、かくれんぼは得意だった。


 ――――存在感無くて地味だから。


 時折、あまりにも極めすぎてそもそも存在を忘れられたりしたけど。

 木を隠すには森の中。今日の装いはいつも通りダークカラーの目立たない上下。そしていつも通りの緑の髪。完璧に温室の緑に溶け込んでいる。


 ――――これならイケる!


 と。思っていた時期もありました。




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




「…………」

「よ。ケル」

 ケルとシェルディナードを獲物指定しているエイミー、そしてその他一同、温室の外でそれを見た面々は一様に固まっていた。

「シェルディナード……君は…………」

 ひくっとケルの口許が引きつり、声には明らかな非難の色が混じる。

「ん? どうしたー?」

 黒い目出し帽を被りながら片手を振るシェルディナードが、そこにいた。

「どこからその格好で歩いてきた!?」

「え。開始から。いやー、すげー歩き易かった」

 そりゃ道開けるわ。見るからに不審者だ。

「君、シアンレードの令息という自覚あるんだろうな!?」

「あるある。心配すんなって」

「ある行動ではないだろう!」

「そんなカリカリすんなよ……っと」

「あら。うふふ。避けられてしまいましたね」

 シェルディナードが一歩下がった地面に、大鎌の刃が突き立てられる。

 パラパラと砕けた石畳の破片を落としつつ、エイミーがおっとりとした笑顔で鎌を抱え直す。

「ごきげんよう。シアンレードの若様」

「うっわー。熱烈な挨拶じゃん」

「はい。久しぶりに良い鍛練になりそうで、昨日からとても楽しみにしておりました」

 さも嬉しそうに頬を染める様子は恋する乙女のようであるが、エイミーの瞳にあるのは闘争の意欲である。

「制限時間いっぱいまで、どうぞお付き合い下さいませ」

 バサッと音をさせ、エイミーの背に灰色のコウモリめいた翼が広がった。そのまま飛び上がり、再びシェルディナードに大鎌を繰り出す。

「そこ。下がれ。巻き込まれるぞ」

 ケルはてきぱきと外野の整理を始め、そんな自分に思う。

「私もシェルディナードの事を言えないような……」

 いや、自分は片目の部分だけの仮面。シェルディナードは目出し帽。どちらが貴族としての品があるかと考えれば自分のはず。大丈夫。交通整備してはいるが、貴族としての品格は損なっていない。

 そんな内なる思いと戦うケル達の音や外野の逃げ惑う悲鳴は温室の中にも届いており。


 ――――なにあの音ぉぉぉぉぉぉお!?


 温室の茂みの中に座り込んだミウはガクブル震えていた。

 どう考えてもヤバい音しか聴こえて来ない。

 絶対出たら死ぬ。


 ――――時間いっぱいまでここに居れば安全だよね!? シェルディナード先輩はエイミーちゃんが食い止めてくれてるし!


 そう。安全なはず。

 止む気配の無い爆音と騒乱が、ここに居れば安全だと言ってくれているようなものだ。その筈だ。

 なのに。

「っ!?」

 本当に何でそんな事をしたのか。

 無意識に身体は一歩横にスライドするように動いていた。

 そして、

「…………」

「…………」

 今まで自分がいた場所につき出された、白く美しい手。

 その手の持ち主である美少女めいた少年は、少し驚いたように藍色の瞳を丸くしていた。

 それも一瞬だったが、ミウには時が止まって見える。

 ゆっくり、その人が笑みを浮かべ、言う。

「みぃ、つけた」

「――――!!!!」

 声にならない絶叫が喉からほとばしる。迷っている暇などない。

 ミウは一目散に逃走した。

「あ……。もう。そんなに、驚かなくても、いい、のに」

 驚いてるんじゃなく怖がっているのだが。

「足、速いんだよ、ね」

 普通に追いかけたら追いつけない。そう呟いて、サラは楽しそうに微笑む。

「だから、お願いね」

 その言葉に、周囲の茂みがザワザワと揺れ、カチャカチャと音を立てる『何か』が、ミウの逃げた方へと移動を始めた。

 得体の知れない何かに追われる獲物(ミウ)はと言えば、息をするのも難しいレベルで疾走してる最中だ。


 ――――気配! 気配しなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! いやぁぁぁぁぁぁぁあ!


 なにあの先輩怖い。

 もうそろそろサラの存在自体がトラウマになりそうな勢いだ。

 広いとはいえ限りある温室。流石に呼吸も苦しくなり、ミウは木にもたれ掛かってしゃがみ込む。

「はぁ、はぁ……ふ?」

 カサカサと何か小さいものが動く音がする。虫にしては大きく、リスなどよりは軽そうなものが動く音。

 カサカサが次第に近付いてきてガサガサと茂みを掻き分ける音になるのも勿論なんか怖いのだが、それより気になるのはそれが周囲を輪のように取り囲んで迫っている感があること。

「ひっ! ひぇ!?」


 ――――なんかすっごく嫌な予感がするぅぅぅぅぅぅぅぅ!!


 ミウは木を見上げ、迷っている場合ではないと登り始める。

 そして、ある程度見渡せる所で意を決して、下を、見た。

「ひっぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!?」

 木の周囲を取り囲むもの。

 一言で言ってしまう。真っ白なデッサン人形だ。

 白く、カチャカチャと音を立てるそれが、一斉に表情すらない顔で木の上のミウを見上げていた。

「いっやぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

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