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21.どう見ても考えても、誠実からはほど遠い

21.どう見ても考えても、誠実からはほど遠い




 セクハラ発言はするし、人の慌てる様子とか本気の抗議もどこか面白がってる節はあるし、普通に最低な気がするんだけど。


 ――――何でだろ……。


 どう見ても考えても、誠実からはほど遠い。

 それでも、ふとした時に。

 例えばなだめるように頭を撫でたり、本当に危ない時は助けてくれたり。


 ――――名前を、呼んでくれたり。


 三男とはいえ、貴族である事に変わりはないのに。

 一度だってそういう意味で貴族だと思った事はない。それはそういう振る舞いをしないから。

 対等だと言うように、視線を合わせ、歩調を合わせ。


 ――――あぁ。ヤダな。良くない、ものだ。


 温かい何かが心に広がる度に、感じる。

 良くないものだ。意識しちゃいけないもの。

 トゲの痛みにも似た、チクチクと声を上げる程ではないけど無視も難しい痛み。

 まるで毒のように、じわりじわりと(むしば)んで。

「ミウ?」

「あ。はい」

「ボーッとしてると、危ねーぞ」

 ほれ。なんて側に手を引かれ、退いたそこを走り抜けていく人影。後から別の魚屋さんが怒って追って行ったから、何かきっと魚泥棒だろう。

「明日どうやって逃げ切るかでも考えてたのか?」

「……う。まあ、そんな所です」

「無駄なのに?」

「サラ先輩は一言余計です!」

 むう。なんて美少女めいた顔に不満げな色を乗せるサラ。

 そしてミウは半眼でシェルディナードを見上げる。

「シェルディナード先輩も、どさくさに紛れて手つないだままにしないで下さい」

 しかも手を引いた時は普通に握っていただけのはずなのに、いつの間にか指を絡める恋人つなぎ。油断も隙もあったもんじゃない。

 はい。解いて解いて。

 そんな面持ちでミウがつないだ手を見せる。

「……ふう。仕方ねーな。わかったよ」

 パッと手が開いて解放され、ミウの手はするりと自身の横に落ちて戻った。

「ミウの手、柔らかくて握り心地良いんだけどなー」

「セクハラやめて下さい」

 そう抗議すると、シェルディナードはクスクスと笑う。

 その笑みが普通に無邪気で、他愛なくて。

 じわじわと、心の良くないものが、広がっていく。




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




「ひえぇ……」

 中間レクリエーション当日。ホームルームを終え、開始の(チャイム)をクラスで待つ段階にて、ミウは処刑を待つ罪人のように真っ青な状態になっていた。

 なお今日の授業は全て休講である。

 制限次回はおよそ三十分。殺さない程度に全力で、死力尽くして逃げて狩る。毎年数名は怪我人が出たり設備が壊れたりするので、いつからか中間レクリエーション当日は休講になっていた。


 ――――やっぱり帰りたいぃぃぃぃぃぃっ!!


 周囲の熱気と殺気が入り交じる空気に、何なら気絶しそうだが本当に気絶したら命が危ない。

 そして、時は来た。

「――――っ!」

 鐘の音と同時に全力ダッシュで教室を脱出。続いて疾走しながら自身に申請していた加速アビリティが機能している事を確認して、一目散に温室まで駆けていく。


 ――――いやぁぁぁぁぁぁぁあ! 何ー!?


 途中、流れ弾やら雄叫びやらがそこら中で飛び交う地帯を抜けたりして絶叫しつつ、どうにかこうにか温室の扉が見えるところまでやって来た。が。

「ひ!」

 ズラリと並ぶ女性徒達。

「来たわね」

「こ、こんにちは~……」

 いけると思った相手だけ確実に妨害アビリティで止めるため魔力を全力でつぎ込んだが、それ以外にはやはり効果が無かったようだ。途中で襲ってこなかったので変だなとは思ったのだが。

「ただのモブのクセに、シェルディナード様と釣り合うと思うの? 恥を知りなさい」


 ――――いや、告白させたのあなた達ですよね!?


 何この理不尽!? そんな事を胸に抱きつつ、口に出せる雰囲気ではない。

 でも、だ。

「ど、退いて、下さいぃぃ」


 ――――シェルディナード先輩達が、来るぅぅぅぅぅぅ!!


 構っている暇はない。来る。きっと来る。

 何が怖いってシェルディナードとサラの方が夜会出席がかかっているだけに怖い。

 今すぐ回れ右して逃げ出したいのをこらえ、ミウは女性徒達の隙間めがけて走り出した。

「この!」

「ちょっと! きゃ!?」

 捕まえようと四方八方から伸びる手。何のホラーか。

 それでもミウの小さな身体が脇をすり抜ける方が速い。紙一重で潜り抜け、温室へと飛び込む。

「ミウ!」

「あ、アルデラちゃあん!!」

 アルデラが差し出す手にタッチして、ミウはすかさず温室の木々の中へと身を潜めた。

「なるほど。彼女の色は保護色代わりになるのか」

「うふふ。さあ、次はわたくしたちの番ね」

 既にエイミーと合流、アルデラともタッチしていたケルとミウを狩りに来るシェルディナードを待つエイミーがそこにいた。

 流石に外の女性徒達も、保護色で溶け込むミウが見つからず他の貴族が中に居ると入れないのか、忌々しげに入り口から睨み付けているばかりである。

 しかし、そんな騒がしい気配が唐突にピタリと止む。


 ――――き、来たぁぁぁぁぁっ!!


 シェルディナードが、やって来た。

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