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13.お説教されてる!?

13.お説教されてる!?




「そりゃ、いきなりすぐ側で人間の首落とされたら」

「それが何で怖い?」

「いや、普通怖いですよね!?」

 ミウが叫び、それを見ながらサラは少し首を傾げていた。

 彼女はあの人間の首を落とした事が怖いと言うけれど。

「俺は怖くねぇけど」

「シェルディナード先輩は強いからですよね!?」

「違げぇよ。サラを信じてるから」

「は?」

 どう言ったらわかるんだろうな?

 そんな感じで、シェルディナードがミウを見る。

「サラが俺を殺そうとするなんてあり得ねぇ。ま、何もなけりゃ」

「無い、よ」

「だから、俺は怖くない。目の前で人間の首落とされようが、その得物が『俺には』向けられねぇ事を知ってるから」

 元々、向けられたとしても怖くないのだが、そんな事は関係無いので言わない。

 大切なことは、

「サラは俺を傷つけない。それを知ってるから怖いなんて思わないんだよ」

 赤い親友の瞳に、サラは何となく納得した。

 親友の『彼女』が何故、サラを怖がったのか。

「オレ……ルーちゃんも、だけど、傷つける気、無い、よ」

 どことなく不安そうにこちらを見る緑の瞳。

 昨日の店の一見も拍車をかけたのだろう。彼女は元々、サラを怖がっていた。そこに、あの出来事。

 彼女を守るためにした事だけど、その刃が自分に向くかも知れない、サラが自分を『殺すかも知れない』と思ってしまった。

 そんな事、しない。

 サラ自身はそう思っているけど、彼女にそんな事はわからない。

「オレは、殺さない、よ。……それを、心配してる、なら、杞憂(きゆう)

 そんな事を怖がるなんて、理解出来ない。けど。

 それが怖いと言うのなら。

「約束、してあげる。護ってあげる、から、殺したりしないよ」

 もう一度、サラは親友の彼女の頭をそっと撫でる。




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




 何が起こっているのか。

 ミウは一瞬わからなくなった。


 ――――あれ。もしかして、シェルディナード先輩にお説教されてる!?


 いつもより若干シェルディナードの声のテンションが落ち着いているのと、何か仕方ないな系の雰囲気が漂っているようないないような。

 そして何でサラが怖いかと聞かれれば、そりゃ自分のすぐ側で首落とされたものがあったら怖いのは当たり前だと思う。それを伝えると、シェルディナードは怖くないと返された。

 それはシェルディナードが強いからだと思うけど、それも違うらしい。


 ――――傷つけないってわかってる…………。それは、シェルディナード先輩とサラ先輩の間だからわかることなんじゃ……。


「オレ……ルーちゃんも、だけど、傷つける気、無い、よ」

 ミウはサラの方を見て、はたと動きを止めた。


 ――――サラ先輩、傷ついてる?


 深い闇の淵みたいな藍色の瞳に浮かぶ光が、どこかしょんぼりとしたように揺れている。

 その姿は躊躇いもなく人間の首を落として平然としていた人物と同一だとは、思えないほど。

 人形のような美貌は変わらなくても、(まと)う雰囲気は口より雄弁(ゆうべん)に心を語っていた。


 ――――でも、だって。シェルディナード先輩もサラ先輩もお貴族様で……。


 ミウの命なんて簡単に奪えるし、奪っても非難されない立場だ。

 何かの気まぐれでいつ殺されても驚かない。それが可能な人達だから。そもそもの立ってる場所が違う。


 ――――…………本当に?


 まだあの告白から全然日は経っていない。たった数日。

 しかも今日なんて死ぬかと思った。

 でも。


 ――――なんか、違う。


 確かにあれから今まで、振り回され続けていて、精神的にもちょっと無理と思うこともある。

 でも、だ。


 ――――シェルディナード先輩もサラ先輩も、違う。


 考えていた『お貴族様』と、二人は違う。

 立ってる場所は確かに違うのかも知れないし、出自(それ)(くつがえ)る事は無いけれど。

 シェルディナードに本当に気持ちを無視した事をされたことはない。

 サラは言い方に問題はあるとしても、見下す事も必要以上に(おとし)めるような事もしていない。

 驚くくらい、『対等』にミウを見ている。

 それはあり得ないくらいに。


 ――――あたし…………。


 シェルディナードとサラを、きちんと見た事、あっただろうか? 不意にミウはそう思う。

 いつもいつも怖くて、二人の顔を正面から見る余裕なんてなくて。全然、見てない。

「…………」

 見てなかったから、今。こんな顔をサラにさせる事態になっているんだと、ようやくわかる。

 わかった途端(とたん)、恥ずかしくなった。

 身体が熱くなるどころか、血の気が引く。冷たい手で心臓を撫でられたみたいに。

 思わず下を向く。恥ずかしくて、二人の顔を見られない。

 そんなミウにサラがぽつりと言った。

「約束、してあげる。護ってあげる、から、殺したりしないよ」

 そっと伸ばされた手が、少しぎこちなく、ミウの頭を撫でた。安心させようとしているみたいに、怖がらせないように、優しく。

 優しいと感じたから、苦しくて。

 目が熱い。苦しい。鼻の奥がツンとなる。

 (こら)えようとしてみるけど、余計に苦くて苦しい何かが胸から目の奥から、溢れてしまう。

 ボタッと熱い雫が目から自身の膝、その上で握り締めた手の甲に落ちる。

「え。……ルー、ちゃん」

「ハハハ。泣くなってミウ。サラ困ってんぞー」

「もう。何なの。何が、あと、怖いの……」

 何も、怖くない。

 サラの手がおろおろと頭の上をさ迷いつつ、なだめるように撫で続ける。シェルディナードが、わしゃわしゃとそれより軽く、でも適度に加減してサラに加わる。

 早く泣き止もうとしたものの、ミウが泣き止む頃にはその目は腫れぼったくなってしまっていて、さその顔をシェルディナードにからかわれる未来は避けられそうになかった。

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