82:ダンジョンでお花畑を作ってみた
廃病院ダンジョンの住居部分にて。
田助は、手にした自分の相棒をまじまじと見つめ、深く息を吐き出した。
先日、変態刀鍛冶である六巻の工房で、プリズム・ゴーレムからドロップした『プリズムコア』を合成し、見事なる進化を遂げた真・断ち切り丸。
ガラスのように透き通り、見る角度によって虹色に輝く刀身は、まさに芸術品と呼ぶに相応しい。
だが、問題があった。
鑑定結果に燦然と輝く追加効果だ。
『抜刀中、装備している者は七色に激しく発光し、周囲の注目を強制的に集める』
ゲーミングPCさながらの極彩色で光り輝き、モンスターのヘイトを問答無用で稼ぎまくる呪いである。
隠密行動完全否定、だったが。
「やっぱり最高だな……!」
田助はこの相棒の新しい姿に惚れまくっていた。
それこそ、
「田助様……? それはつまり私よりその光物がいいと……?」
嫁である衣子が嫉妬するくらいに。
「待て待て落ち着け衣子。光物——じゃなくて。相棒が最高なのはいいことだろ? それに、俺がこの世界で誰より愛しているのはお前だけだ」
「田助様! では、私に養わせていただけますね? はい。ふふ、いいお返事です」
「まだ何も言ってねえ!?」
それはさておき。
相棒がステキなビフォアアフターを遂げたからには、
「最大限、ダンジョンを堪能するしかねえよな!?」
「……そんなことがなくても、いつだってタスケはダンジョンを堪能してるじゃない」
とはウェネフの弁であり、
「そう褒め——」
「——てないから!」
照れ屋なやつである。
「さて、どうやってダンジョンを堪能する?」
田助は頬ずりを求めるアンファに応えながら考えた。
「俺がビカビカ光って立っているだけで、敵が勝手に寄ってくる——ってことは、だ」
「近所迷惑よね」
といったのはシャルハラートである。
「さすが自称女神だ、自分のことがよくわかってるじゃないか」
「えへへ、そうでしょ〜——って褒めてないわよね!?」
「そこに気づくとは……!」
「気づかないわけがないでしょ!」
とか言うが、一度は喜んでるんだよなあ。
衣子に「めっ」されて口をつぐむシャルハラートを見て笑いながら、
「……敵が勝手に寄って来るってことは、わざわざ自分からモンスターを探し歩かなくても、向こうから経験値とドロップアイテムが歩いてきてくれるってことと同じだよな?」
田助が衣子たちを見れば、絹子たちは確かにといった感じの顔でうなずいた。
「つまり、だ。タワーディフェンスが楽しめるってことじゃないのか!?」
タワーディフェンスとは、一定のルートを通って攻め込んでくる敵の群れに対し、通路に罠や自動迎撃の設備を配置して、自陣に到達される前に一方的に殲滅する防衛ゲームの定番ジャンルである。
「要するにどういうことよ?」
田助の説明が、シャルハラートにはわからないらしい。
「つまり、俺は一歩も動かず、勝手に近づいてくる敵を罠や地の利で倒しまくる、最高の方法ってことだよ!」
「……何が最高の方法よ。怠惰なだけじゃない」
「そんなに——」
「褒めてないからね?」
先んじて言われてしまった。まったく生意気なやつである。
「よし! それじゃあさっそくタワーディフェンスを堪能しに行こうぜ!」
そうして田助たちが向かった先は、草原ダンジョンだった。
草原ダンジョンは、アンファのレベルアップによって迷路要素が追加されている。
刻一刻と姿を変える生きた迷路。
タワーディフェンスの舞台として、これほど相応しい場所があるだろうか。
いや、ない!
「ねえ! なんで私がこんな草むらを歩かなきゃいけないのよ! 美の女神である私の超絶美しい生足に虫がついたらどうしてくれるの!?」
来るか? と聞いたら、当たり前でしょ! と言ったから連れてきたのだが。
「衣子、頼む」
「お任せください、田助様」
衣子にちょっと激しめの「めっ」をされたシャルハラートはすぐに大人しくなった。
そうして田助たちは、その迷路の中央にあった、少し開けた広場を拠点と定めた。
「さあ、タワーディフェンスの始まりだ! かかってこい、モンスターども!」
田助は、腰に帯びた真・断ち切り丸の柄に手をかけ、勢いよく引き抜いた。
澄んだ金属音と共に、田助の体が激しく発光した。
赤、青、緑、黄、紫……目まぐるしく変わる極彩色の光が迷路内を、まるでディスコ空間のように照らし出す。
「うわっ、眩しっ!?」
ウェネフが目を覆って顔をしかめる。
「ああ……田助様、まるでミラーボールのようで、とても神々しいです……!」
衣子は両手を胸の前で組み、うっとりとした表情を浮かべている。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
アンファとポチがその光に合わせて踊り始めれば、まさしくディスコみたいな感じになった。
ちょっとだけほのぼのしていたが、その凄まじい発光と、強制ヘイト集中の呪いは、即座に効果を発揮した。
迷路の奥深くから、ゴブリンたちの甲高い叫び声、コボルドの咆哮、さらには巨大な昆虫系モンスターの羽音が、一斉に響き渡る。
「順調にヘイトを稼いでるな! さあ、迷路のギミックに苦戦しながら、俺の元へたどり着いてみせろ!」
田助は刀を構え、余裕の笑みを浮かべて待ち構えた。
だが、事態は田助の予想を、斜め上に裏切ることになる。
ズドドドドドドド……!
地鳴りのような足音が、四方八方から急速に近づいてくる。
「ん……? なんかおかしくないか?」
田助が違和感を覚えた次の瞬間だった。
バキィィィィン! メリメリメリッ!
「GYAAAAAAA!」
「わふぉぉぉぉぉぉん!」
広場を囲んでいた迷路の壁である巨大植物たちが、物理的にぶち破られ、なぎ倒されていく。
どうやらヘイトを稼ぎすぎた結果、怒り狂ったモンスターたちは迷路の順路を解くという過程を完全に放棄したらしい。
ただひたすらに、発光する田助の元へと、一直線に殺到してくる。
その結果、田助たちが陣取っていた広場を中心に、ただの更地になってしまった。
「おいおいおい! 迷路の意味がねえじゃねえか!」
タワーディフェンスどころか、全方位からの波状攻撃。
「ちょっとご主人様、いったいどれだけ敵を呼べば気が済むのよ!?」
ウェネフが青ざめた顔で叫ぶ。
「田助様を害そうとする虫ケラどもは、私がすべて処しましょう」
瞳のハイライトを消した衣子が、恐るべき速度で漆黒の小刀を引き抜く。
レベルが178にもなっているのに、あまりにも抜刀があまりにも早すぎて見えなかった。
「待ってくれ、衣子! ここは俺に任せてくれ!」
田助は迫り来るモンスターの大群を前に、一歩前に出た。
真・断ち切り丸を上段に構え、息を吸い込んだ。
「秘奥義・漆封刃雷!」
漆黒の闇に封じられし刃が、雷の如き神速で放たれる。
その光り輝く軌跡を見た者は、己が斬られ、死んだことすら気付かずに散っていくという幻の秘剣だ。
もちろんそんなものは存在せず、田助のでっち上げインチキ極意である。
だが、田助が刀を振り下ろし、モンスターたちと斬り結ぶ前に、異変が起こった。
プリズムカスタムから放たれ続けている強烈な七色の光を浴びていた、かつて迷路の壁を作っていた植物たちが、まるで早送り映像を見ているかのような異常な速度で成長を始めたのだ。
どうやら強すぎる光エネルギーによって、強制的な光合成が引き起こされたようである。
田助たちが目を見張る中、更地はみるみるうちに緑で覆い尽くされ、色とりどりの超巨大な鼻が咲き乱れる、お花畑へと変貌してしまう。
しかも、ただのお花畑ではない。
異常成長した巨大な花々が、ポンッ、ポンッ、と音を立てて、大量の花粉を周囲に放ち始めたではないか。
それは、強烈なリラックス効果を持つ、甘く心地よい芳香だった。
「GYA……?」
「わぅ……?」
殺到してきた狂暴なゴブリンやコボルド、昆虫系モンスターたちの動きが止まる。
血走っていた彼らの目に宿る殺意が抜け落ちていく。
チャリン、カラン。
ゴブリンたちは手にしていた粗末な武器を取り落とすと、トロンとした間抜けな表情で膝から崩れ落ち、お花畑に寝転がってしまった。
あっちでゴロゴロ。
こっちでゴロゴロ。
阿鼻叫喚の地獄絵図になるはずだった空間が、一転して、平和な光景に早変わり。
「……タワーディフェンスのつもりだったんだけどなぁ」
どこからどう見ても、ただのピクニック空間である。
完全に戦意を喪失し、花畑で腹を見せてくつろいでいるモンスターたちを斬り捨てる気にはなれなかった。
田助は真・断ち切り丸を鞘に納めた。
その瞬間、田助の体から放たれていた極彩色の光が消え去った。
「まあ、なんだ。思ってたのとはちょっと違うが」
「ちょっと?」
と異口同音に告げたのはウェネフとシャルハラートである。
そちらを軽く睨んでから、
「かなり違うが! こんなことになっちまったからには、方針変更だ」
田助はアイテムボックスから、以前作った、オーク肉と密林姫蜂の蜂蜜を使った、特製の絶品サンドイッチを取り出した。
「田助様の放つ愛の光が、この荒んだダンジョンに平和をもたらしたのですね! さすが私の田助様です!」
それはちょっと違うんじゃないかと思いつつも、衣子が「あ〜ん」してくれたサンドイッチを田助は食べる。
「まったく。タスケの刀、非常識すぎるわ」
「そう言いつつもまんざらでもない表情してるじゃないか、ウェネフ」
と言ったら睨まれた。
「た〜!」
「わふっ!」
「あはははは!」
アンファとシャルハラートはポチの背に乗り、敵意をなくしてゴロゴロしているゴブリンやコボルドたちと一緒に、お花畑の中を駆け回って遊んでいる。
当初の予定と違いすぎるが、これはこれで最高だ。
しばらくの間、この平和なお花畑でのピクニックを、田助たちは堪能するのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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