76:モンスター肉を確保しまくった
ダンジョンでモンスターを倒すと、一定の確立でアイテムがドロップする。
「ねえ、さっきからモンスターを倒してるのに、ちっともアイテムがドロップしないんですけど!」
草原ダンジョンで一緒にダンジョンを堪能していたシャルハラートがそう言って田助を見た。
「処しましょう、田助様。田助様に生意気な口をきく駄女神にはお仕置きが必要だと思うのです」
ハイライトの消えた瞳でそんなことを言うのは、田助の嫁の衣子である。
ちなみにシャルハラートの腕に抱かれているアンファも衣子の意見に激しく同意のようで、「たー!」と手を上げてプンスコしていた。かわいい。
田助は衣子とアンファに、落ち着くように告げた。
シャルハラートは穀潰しの駄女神ではあるが、この件に関していえば何も間違ったことを言っていないからだ。
何せ田助の運の数値は1。
「俺がモンスターを倒した時、アイテムのドロップ率はすこぶる悪い!」
田助が開き直ったとか何とかシャルハラートが言っているが、聞き流す。
「けど、それがどうした! 何十、いや、何百、何千と倒し続ければ、それなりにアイテムはドロップするんだよ……!」
「そんなふうに考えられるのはタスケくらいよ」
ウェネフが肩をすくめて苦笑した。
そうやってドロップしたアイテムの中から必要ないと判断したものを道本を通じて売ることで、田助はダンジョンを堪能するための資金を稼いできた。
だが、それもつい先日までのこと。
というのも、田助が道本を介して売ってきたアイテムを購入した者が、田助に直接会いたいと言い出したのだ。
ちょっとした防御魔法が付与されたものを売ったことがあって、それを購入した者がアイテムによって命の危険を回避することができたから、そのお礼がしたいというのである。
命を助けられたことはよかったと思うし、感謝されてうれしくないと言ったら嘘になる。
だが、直接会うのはできなかった。
会えば、感謝だけで終わらないだろう。
「命の危険を回避したアイテムはどこで手に入れたものなのか」
「もっと手に入らないのか」
それ以外にも、きっといろいろ聞かれることだろう。
それに対して田助が答えられることは何もない。
ダンジョン、それにスキルの存在を明らかにするつもりがないからだ。
それらの存在が知られてしまったら、どうなる?
「ダンジョン!? 自分も堪能してみたい!」
それだけならまだしも、
「自分だけのダンジョンを持ってるなんてずるい」
「自分も欲しい」
「何としても手に入れたい」
「奪いたい」
そのためなら、
「どんなことだってする!」
たとえばそれは、田助の大事な人たちを人質に取る、なんてことだったりするかもしれない。
もっとも、モンスターを倒してレベルアップしている田助にとって、人質を無傷で解放することは、たぶん、それほど困難なことではないだろうが、それでも万が一ということもある。
「冒険するのはダンジョンの中だけで充分だからな」
無用な争いを起こす必要はない。
そういうわけで、モンスターを倒してドロップしたアイテム、ダンジョンの中で見つけた宝箱の中に入っていたアイテム、異世界ストアで購入したアイテムなどを売ることを、しばらくの間、中止することにした。
だが、それではダンジョンを堪能するための資金が底をつく。
何かないか。考えた田助は、モンスター肉を売ることを思いついた。
散々食べてきて体調が悪くなったとか言うことはないし、これまで売ってきたアイテムのように形が残ったりしない。
何より、モンスター肉はめちゃくちゃうまい。
なので売れるのではないかと考えたのだ。
そして実際、モンスター肉は飛ぶように売れた。強気の値段設定だったにもかかわらずだ。
道本の手腕に脱帽である。道本は田助が引き渡したモンスター肉がうまいからだと言うが、道本の手腕がなければ、そもそも売れないのだ。
最初は異世界ストアで購入したモンスター肉を引き渡していたが、WEB小説の愛好家でもある田助は、どうせなら自分が倒したモンスターの肉を売りたいと考えた。
モンスターを倒し、その素材を冒険者ギルドに持ち込む。WEB小説のお約束だ。
持ち込む先は道本だが、それでも似たような気分は味わえるはずだ。
モンスターをどうやって解体するかで困ったが、アイテムボックスのスキルを進化させることで、事なきを得た。
そうして田助が倒し、田助のスキルによって解体されたモンスター肉は、すでに売っていた異世界ストアで購入したものとはうまさがまったく違うと、さらに好評を博すようになったのだった。
その結果、どうなったか。
モンスター肉の需要はますます高まり、それに応えるため、田助は――いや、田助たちはモンスターの討伐に、日々、追われることになったのである。
現に今も、道本にモンスター肉を引き渡すため、田助たちはダンジョンに潜り、モンスターを倒しまくっているところだった。
やること自体はこれまでと――普通にダンジョンを堪能していた時と、それほど変わりはない。
「あ、ほら。新しいモンスターが現れたわよ!」
「あたしがやる!」
シャルハラートが指さす方向から現れたゴブリンの集団を、ウェネフが風属性の魔法――風乱刃を使ってバラバラに切り刻む。
モンスターがダンジョンから溢れ出ないよう、こんな感じにモンスターを倒す。
「田助様、向こうからジャイアントボアが……!」
「任せろ!」
突進してくる巨大な猪型モンスターを、田助は真・断ち切り丸で一刀両断する。
モンスター肉として販売する相手の時はこうして原形を留める形で綺麗に倒して、アイテムボックスのスキルを使用して解体する。
「ちょっとー! 目当てのモンスターはいつになったら現れるのよ!」
「確かに。さっきから全然見かけないわね」
プンスコしているシャルハラートに、ウェネフが同意を示す。
目当てのモンスターというのは、オークのことだった。
道本に懇願されたのだ。できればオーク肉を多く納品して欲しいと。
田助自身、自分のスキルで解体したオーク肉の旨さは、異世界ストアで購入したものとは段違いであることを実感しているので、道本の求めは理解できた。
だが、ダンジョンに発生するモンスターはオークだけじゃない。
オークだけを多く倒して納品するというのは、なかなか難しい注文なのだ。
それでも田助は要望に応えたかった。
その方が儲かるという思いは否定しないが、何よりも大きな理由は喜んで欲しいからだ。
道本は言っていた。
『山田様、あの肉は本当に好評なのでございます! 食べた方がみな、喜んでいまして……!』
そんな話を聞かされたら、がんばろうという気になるじゃないか。
「とはいえ、オークはあらかた刈り尽くした感があるんだよなぁ」
さっきから全然見かけないのには、そういった理由もあった。
「わふっ?」
ポチが首を傾げ「どうするのか」と訊ねてくるのを、田助はその頭を撫でてやりながら考える。
今の数でも充分かもしれないが、どうせならもっと納品して喜んでもらいたい。
しかし、オークは既にあらかた刈り尽くしてしまっている。
なら、どうする?
「あ、そうだ!」
田助はぽんと手を打った。
「オークしかいないダンジョンがあればいいんだ!」
発生するモンスターがオークだけ。
それなら充分な数のオークを確保することができる。
幸いなことに、こうしてみんなしてモンスターを倒すことによって、アンファのレベルも上がっており、新しいダンジョンを作り出すことが可能になっている。
「オークしかいないダンジョン……いいんじゃないかしら」
「さすがは田助様です!」
シャルハラートと衣子が田助の意見に賛同して、
「た~!」
アンファが両手を挙げ、さっそくオークしか発生しないダンジョンを作り出そうとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
それをウェネフが止めた。
「オークしかいないダンジョンなんか作ってどうするのよ!? タスケは新しく作るダンジョンがそんなダンジョンでいいの!? そんなダンジョンをこれからも堪能できるって胸を張って言える!?」
真剣な顔で詰め寄られて、田助は考えた。
いや、考えるまでもなかった。
「言えるわけがない」
「アンファはダンジョンコアなんだから。その力を使うなら、適当な日を決めて、オークだけが出現するように調整してもらうとか、そういうふうにすればいいじゃない」
「それだ……!」
そういうわけで。
草原ダンジョンで、オークしか出現しないようにアンファに調整してもらい、大量のオーク肉を確保するようにした田助だった。






