75:モンスター肉が売れまくった
アイテムボックスをより使いやすいように調整することに成功した田助は、その使い勝手を確かめる――そんな名目で、衣子、ウェネフとともに様々なダンジョンを縦横無尽に駆け巡り、モンスターを倒しまくった。
もちろん、食べておいしいモンスターを中心にだ。
そうでないモンスターももちろん倒したが、今回に関して言えば、それはおまけに過ぎない。
その結果、大量のモンスター肉と素材、ドロップアイテム、それに経験値を手に入れることができた。
おかげでそれぞれレベルが上がり、田助は178に、衣子は160に、ウェネフは83になった。
田助はもちろん喜んだが、一番喜んでいたのはウェネフだった。
その理由はこうだ。
「奴隷に落とされた時、こんなふうにレベルアップできる日は来ないかもしれないと思っていたから」
もちろん、絶対に諦めるつもりはなかったけど、と続けたウェネフの目尻が光る。
涙だ。
田助は気がついたが、それに触れることはしなかった。
その代わり、ただ「そうか」と言って、ウェネフは「うん」と答えた。
異世界ストアで奴隷として売られていたウェネフを購入したのは、魔法を習得するためだった。
だが、今。
そんなことは関係なく、彼女を購入してよかったと、やさしい笑みを浮かべる衣子に寄り添われながら、田助はそう思った。
その次の日。
前日と同じようにダンジョンに突撃、モンスターを倒して、肉と素材と経験値をゲットしようとしていた田助だったが、その姿はダンジョンになく、衣子の祖父である正和の屋敷にあった。
なぜか。
まさにダンジョンに突入しようとしていた、その時。
道本から連絡が入って、モンスター肉を卸すことはできないかと言われたのだ。
田助にしてみれば、自分が倒したモンスターの肉を卸す絶好のチャンス。
断る理由は何もない。
だが、ふと思った。
田助の記憶に間違いがなければ、前回、マジックバッグいっぱいにオーク肉を詰め込み、渡したはず。
あれからさほど日は経っていない。
これはいったいどういうことだ?
そんな田助の疑問に対する、電話口での道本の答えはこうだった。
『実は山田様からお預かりしたあの肉が、好評でございまして!』
今の世の中、流行廃りの波は驚くほど早い。
つい先日流行っていたはずのものが、気がつけばあっという間に忘れ去られる――なんてことがざらにある。
だから、好評な時に在庫が尽き、需要が途切れてしまうという、そんな最悪の事態を回避すべく、道本はモンスター肉を補充しておきたいというのである。
果たして約束した時間どおりに、道本はやってきた。
田助はオーク肉がいっぱい詰まったマジックバッグを差し出す。
「ありがとうございます、山田様」
「いえ。礼を言うのは、むしろ俺の方ですよ」
道本がいなければ、モンスター肉を卸すことなどできなかったのだから。
いや、それだけじゃない。
これまでダンジョンを堪能しまくることができたのは、道本が尽力してくれたからだ。
道本には本当に感謝しかない。
その道本が、来たばかりだというのに立ち上がり、部屋を出ていこうとしていた。
どうやら、さっそく卸に向かうのだろう。
ありがたいと思いつつも、田助はそれを引き留めた。
「実はもっとうまい肉があるって言ったら……どうします?」
「まさか……本当でございますか!?」
驚きに目を見開く道本に、田助はうなずく。
うまい肉とは、ドラゴン肉のことである。
論より証拠である。
こんなこともあろうかと、田助はあらかじめアイテムボックスに、ドラゴン肉を焼いたものを用意しておいた。
味付けはシンプルに塩胡椒だけ。
素材を感じてもらうためだ。
アイテムボックスの中では、時間は経過しない。
取り出せば、ドラゴン肉の何とも言えない香ばしい匂いが応接間に広がる。
道本の分だけと思ったが、正和が食べたそうにしていたので正和の分も追加で取り出し、二人に味わってもらった。
リアクションは想像していた以上のものだった。
二人はしばし、茫然自失状態に。
5分近くその状態が続き、我を取り戻した道本は田助に詰め寄ると、
「こんな素晴らしいものがあったとは……! いやはや、さすがは山田様でございます!」
興奮した状態の道本を見れば、大げさだと思う一方、自分が倒したドラゴンの肉を食べてこんなに喜んでもらえるとはと、うれしさもハンパない。
照れくささに頬を掻く田助。
「こんな素晴らしいものを預けていただけるとは……不肖、この道本、ますます山田様のために尽力させていただく所存でございます!」
冗談ではなく本気で告げる道本は深く頭を下げると、さっそくドラゴン肉を卸してくるとこの場を立ち去った。
田助は、今度は呼び止めなかった。
むしろ笑顔で見送った。
充実した気分を味わっていれば、正和が声をかけてきた。
「山田くん、今の肉を少しわけてもらえないだろうか。もちろん、代金は支払うから」
「いいですけど?」
詳しく聞けば、正和の妻、衣子の祖母である美津子が、近く誕生日を迎えるらしい。
その際、食べさせたいのだという。
「そういうことなら、喜んでプレゼントさせていただきます」
衣子の家族は自分の身内でもあるのだから。
「ありがとう、山田くん」
正和が破顔した。
数日後、ダンジョンを堪能していた田助の元に、道本から連絡が入った。
アンファがレベルアップしたおかげで、ダンジョンの中でも電波を受信するし、何ならWi-Fiも使い放題なのである。
道本からの連絡はまず慌てた様子から始まった。
「た、大変でございます、山田様!」
などと言いながらも、その声は弾んでいた。
詳しく聞けば、ドラゴン肉が飛ぶように売れているらしい。
当然だと思いつつ、話の続きを聞いて仰天する。
100グラム1000万円に設定したというのだ。
確かに異世界ストアでもそれくらいの値段設定はされている。
だが、それは異世界だからだ。
ドラゴンというめちゃくちゃ強いモンスターが存在し、そんなやつを素材としてちゃんと回収できるように倒すことが、どれだけ難しいかを皆が認知しているからだ。
田助はあの肉がドラゴンのものだとは伝えていないし、何よりここは現実世界。
そんな強気すぎる値段で売れるとは。
田助は道本の手腕を褒めたが、道本はあの肉が素晴らしいからで、すべて田助の成果であると譲らなかった。
「何にしても、それだけ強気な価格設定でも飛ぶように売れるというのは大変なことですね」
道本が慌てるのもよくわかると思っていたら、
「いいえ? 今回はお試しということで格安で提供させていただきました」
これで格安とか、意味がわからない。
「それに大変なのはそれではございません」
道本が続ける。
何と、オーク肉がドラゴン肉以上に売れまくって、早くも在庫がなくなりそうだというのだ。
「前回も購入したシェフが言うには肉質が違うとのことで。実際、自分も食しましたが、別格のおいしさでございました。山田様、あれは本当に前回と同じ肉だったのでしょうか?」
そのとおりなので肯定するしかない。
ただ、違いがあるとすれば、田助が倒し、スキルで解体したということぐらいだ。
その後、至急、オーク肉を用意して欲しいと言われ、衣子たちに手伝ってもらい、オークを倒しまくって、道本に納品した。
その際、そんなに違うものなのかと試しに食べてみて驚いた。
まったく違ったのだ。
異世界ストアで購入したオーク肉と食べ比べてみれば、何が違うのかは一目瞭然。
田助がスキルで解体したものは、オーク肉特有の臭みがまったくなく、純粋に肉の旨味を感じることができるのだ。
異世界ストアで購入したものを食べた時には、そんな臭みがあるなんて思わなかったのに。
「どうやら田助様の解体方法だと、そういうものを取り除くことができるみたいですね。さすが私の田助様です」
いつの間に衣子のものになったんだ!? と思ったが、衣子が我がことのように喜んでいるので、まあいいかと田助は思った。
あと、そんな衣子の隣でアンファもふんすと自慢げに胸を反らして倒れそうになっているのを、ポチに支えられていてかわいかった。
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