表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】異世界に召喚されなかったから、現実世界にダンジョンを作ってやりたい放題  作者: 日富美信吾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/79

60:無事に帰還してみた


 意識を取り戻した田助はそこが暗闇の中だったので、


「なるほど、まだ夜か。じゃあ、もう少し寝てないとだよな!」


 などと意味不明な供述をしているが、実際は自分が置かれている状況をしっかりと理解していた。


 理解していたからこそ、そんなふうに現実逃避したのである。


 ウェネフを庇って、ロングホーン・タートルに呑み込まれた。


 つまりここは奴の体の中というわけだ。


 このまま脱出できなければ田助は消化され、奴の栄養になるのだろう。


 最悪である。


 だが、よかったこともあった。


 ウェネフだ。


 あいつが無事で本当によかった。


 最後に見たウェネフは呆気にとられたような、何とも言えない間の抜けた顔をしていた。


 美少女が絶対にしてはいけない顔だ。


 思い出すだけで笑えてくる。


 無事に戻ることができたらそのことを指摘しないといけない。


 ウェネフのことだ。小気味よいツッコミを返してくれるだろう。


 今からそれが楽しみだ。


「……なんてことを思ってる場合じゃないよな」


 田助の耳の奥には、衣子(きぬこ)の悲痛な叫び声が残っていた。


 このまま田助が戻らないなんてことになったら、どれだけ衣子が悲しむか。


 いや、衣子だけじゃない。


 アンファもポチも、それにウェネフ、もしかしたらシャルハラートも悲しむかもしれない。


「誰も悲しませたくない」


 なら、どうする?


 決まっている。


 ここから脱出すればいい。


「たったそれだけでいいんだから、簡単なことじゃないか」


 アイテムボックスからLEDライトを取り出して、スイッチを入れる。


「うげ……」


 サラリーマン時代、会社で行っていた健康診断で胃カメラを飲んだ時、モニター画面に映っていた、自分の食道や胃の中の様子を思い出した。


 それとよく似ていた。


 サイズなどはかけ離れているが、だいたい似たようなものだった。


「個人的にはモンスターに呑み込まれたら、その体内に迷宮が広がっていたってのが好みなんだが……」


 モンスターの中に別の世界が広がっている感じだ。


 独自のモンスターが生息していて、独自の文化圏を作り出している。


 想像するだけで胸が熱くなる。


 正直、そんなことになっていたらもう少し――いや、かなりテンションは上がっていただろう。


 自分が陥っている状況を忘れて、それこそ『ヒャッハー!』していたに違いない。


 だが、違った。


 ある意味、これは幸いなことなのだろう。


 冷静にここから脱出することだけを考えることができる。


「命拾いしたな、俺」


 さて、進むべき道は二つだ。


 右か、左か。


 正しい選択をすれば口にたどり着くことができて、そのまま脱出できる。


 もちろん、閉ざされた口を無理矢理こじ開ける必要があるが。


「どうするか」


 右を見て、左を見て。


 もう一度、右を見て、さらに左を見て。


「よし、決めた」


 田助は自分の直感に従うことにした。


 腰に装備していた真・断ち切り丸を抜き放つ。


 それを地面、いや、肉面(?)に立てて倒れた方に進む――という古典的な手法も考えてみた。


 いわゆる神頼みというやつだ。


 だが、田助の知っている神は駄女神なので、この状況であんなのに頼るのは最悪以外の何ものでもないだろう。


 だから田助が選んだのは第三の道。


「とぉぉぉおおおぉおぉぉおおおおぉぉおぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁ……!」


 目の前の肉壁を突き破って進めばいい。


 外側に向かっていれば最短で外に出られるだろう。


 もし中央に向かっていたとしても、田助の運の悪さを考えればおそらくその可能性が一番高いが、多少、遠回りになるだけで、そのまま突き進めば結果的に外に出られるので問題ない。


 いわゆる力業、脳筋的解決方法だった。


「真・断ち切り丸に切れぬものなし!」


 だが――。


「なっ、この肉壁、厚いぞ……!?」


 真・断ち切り丸のおかげでそれほど力を必要としないで切り裂けるのだが、思いのほか肉壁が厚くて、道が開かなかった。


「どうする……?」


 などと考えていたら、ゴゴゴゴ……と何やら非常によろしくない予感のする音が聞こえてきた。


 ちらりと見れば、何やら水が押し寄せてくるではないか。


 ロングホーン・タートルがいた場所を考えれば、飲み込んだ海水という可能性もあるが、胃酸が田助を消化するためにやってきたということも考えられる。


 胃酸だとしたら最悪だ。


 まあ、海水でも押し流されて胃に送られるので、どのみち最悪なのだが。


 悪化する状況を打破するための方法を今すぐにでも田助は考えなければならなかった。




     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 衣子の目の前で田助がロングホーン・タートルに呑み込まれてしまった。


 田助を陰ひなたに守ると決めていたのに、自分はその瞬間、ただ叫んだだけだった。


 不覚。


 反省、いや、猛省すべきだが、今は何よりやるべきことがある。


「あ、あ、あ、あ……」


 ウェネフが顔色を失い、ガクガク震えている。


 自分を庇って田助が呑み込まれてしまったからだろう。


 その気持ちは痛いほどにわかる。


 だが、


「ウェネフ、落ち込むのは後にしてください!」


 衣子はウェネフの正面に立って、その肩を掴む。


「今は田助様を救い出すことを最優先に考えなければなりません」


 衣子の言葉に、ウェネフがハッとする。


「け、けど……あんなふうにごっくんされちゃったら、さすがに助からないんじゃ……」


 余計なことを言うシャルハラートに笑顔を向ければ、


「ひぃ! 申し訳ございませんでしたぁ、衣子様……!」


「わかればいいのです」


 満足げにうなずく衣子。


 ウェネフが何とも言えないような視線を向けてくる。


「どうかしましたか? ウェネフ」


「ううん、別に」


 なら気にしないでもいいだろう。


「それでは、どうやって田助様をあのモンスターの中から救出するかですが……」


 と衣子が呟いた時だった。


 ロングホーン・タートルの体が揺れた。


 衣子たちは何もしていない。


 海の上に浮かんでいるので、そのせいかとも思ったが、微妙に違う感じがする。


「あ、また揺れたわね」


 シャルハラートの言葉にうなずく。


「いったい何が起こっているの……?」


「もしかして田助様が脱出するために何かしているのかもしれません」


「何かって何?」


 ウェネフに尋ねられたが、わからないので首を振ることしかできない。


 だが、衣子は口にしたその言葉が真実だと確信した。


 理屈ではない。


 それでもあれは田助がしかけた何かに違いないと。


「田助様……!」




     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 状況は最悪だ。


 だが、それでも田助の中に諦めるという選択肢は元より存在しなかった。


「……こうなったら仕方ない。俺の、封印された力を解放するしかないみたいだな!」


 カッコイイ言い方をしたいだけで、要するに魔法だ。


 真・断ち切り丸で戦ってばかりいるせいで、未だにうまく制御できずにいる魔法を全力でぶっ放すのだ。


 MPが切れると気持ち悪くなって意識を失い、ぶっ倒れるので、MP回復用のマナポーションを異世界ストアで購入しておく。


 あと、デーモンキング・ゴーレムと対峙した時に購入した魔法効果を高めるアイテムや触媒も装備する。


「よし」


 準備は整った。


 田助自身としては誰が見ていなくても派手で格好いい魔法を使いたい所存。


 となると、火炎球一択。


 だが、それでは田助自身が巻き込まれる可能性がある。


 なので、


「地味だが、水刃(ウォーター・カッター)か、石弾(ストーン・バレット)のどっちかだな」


 水刃は文字どおり水の刃で目標を切る魔法で、石弾も同じように文字どおり岩の弾丸で目標を穿つ魔法だ。


 どちらも田助が使えば初級魔法とは思えない威力を発揮する。


「よし、決めた。石弾だ」


 というわけで、魔法を発動する。


「標的を貫け! 大地の欠片――石弾!」


 田助が突き出した手のひらの前に石、いや、岩が生まれ、回転しながら肉壁に向かって発射される。


「おし、いけたぜ!」


 無事、田助が通れる程度の穴が開いた。


 肉の欠片や血があちこと飛び散りまくって、とてもスプラッタな光景になっているのは気にしない。


「次だ、次!」


 石弾を使いまくって、穴を開けまくって、途中、マナポーションを飲みまくりながら、ずんずん進んでいく田助。


 半ば予想していたとおり、田助は中央部分に進んでいるみたいだったが、気にせず突き進む。


「あと半分だ!」


 どれだけ最悪の状況に放り込まれても現実逃避することで――じゃなかった。


 前向きに物事を捉えることで状況は打破できるのだ。


 ゆえにこの結果は必然。


「大地の欠片――石弾(ストーン・バレット)ォォォォォォォォォォォォ!」


 田助の魔法がロングホーン・タートルの横っ腹を貫き、眼前が開けた。


 そこには大海原が広がっていた。


 田助がロングホーン・タートルの腹から抜け出せば、


「田助様ぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 衣子に抱きつかれ、


「無事でよかったぁぁぁぁぁ……!」


 ウェネフには泣かれ、


「ちょっと!? なんかいろいろぐちゃぐちゃしてて……近寄らないんで欲しいんですけど!?」


 シャルハラートにはむしろ積極的に絡みにいった。


 何はともあれ、


「ただいま、みんな……!」


 田助は無事、衣子たちの元に帰還することができたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー

>>>>>【 感 想 を 送 る 】<<<<<

▼皆様の応援のおかげで書籍化しました!▼
 
小学館 / ガガガブックス
定価 / 本体1400円+税
発売日 / 2019.11.20
ISBN / 9784094611311
小学館 / ガガガブックス
定価 / 本体1400円+税
発売日 / 2020.08.21
ISBN / 9784094611427
画像をクリックすると、各巻の公式ページに移動します
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ