56:ダンジョンで自炊してみた
衣子は日用品を買いに出掛けた。
アイテムボックスを持っている田助が行くと言ったのだが、シャルハラートを荷物持ちにするから大丈夫だとそう言って。
シャルハラートのことだからてっきり、
「ちょっと! 女神であるこの私を荷物持ちにするとか、どう考えてもあり得ないんですけど!?」
などと言い出すものばかりだと思ったのだが、違った。
「わ、わかってるわよ! 行くわよ! 行けばいいんでしょ!? だから! お仕置きだけは勘弁してください衣子様……!!」
あの時、衣子が行った調教は未だに有効らしい。
というか、女神が勘弁とかいうのはどうなんだ?
衣子がシャルハラートに何をしたのか激しく気になるが、気にしないことにしておこう。
世の中には知らない方がしあわせなこともあるのだ。
アンファはダンジョンの研究をしたいと、タブレット端末で勉強中。
というわけで、今日は田助、ウェネフ、ポチの二人と一匹でダンジョンに潜ることになった。
廃病院ダンジョンでアンデッド系モンスターを倒し、草原ダンジョンではゴブリンなどのWEB小説でお馴染みのモンスターを倒す。
動物系モンスターはこちらから必要以上に刺激をしなければ、攻撃してこないのでスルーする。
本格的ダンジョンに入り、ちょっとした広場になっている箇所で休むことにした。
「え、どうして? タスケはまだいけるでしょ?」
休憩の準備を始めようとするタスケに、ウェネフが戸惑いを隠せない。
「まあな」
「だったら」
「けど、ウェネフは無理だろ? だから休む。嫌だと言ったらご主人様として命令する」
「……そ、そう。ありがと」
「別に感謝されるようなことじゃない。奴隷のことを気遣うのもご主人様の仕事だからな」
「なら、あたしに余計なツッコミをさせないように配慮して欲しいんだけど」
「それは無理な相談だな!」
「めちゃくちゃ爽やかな笑顔で言わないでよ!?」
「最高だろ?」
「最低よ!」
まったくもうとぷんすか怒るウェネフ。
ポチもかまって欲しそうだったので、わしゃわしゃしておく。
準備を再開する。
といっても、アイテムボックスから必要な機材を取り出すだけだ。
「携帯用ガスコンロだろ」
「便利よね」
「それに電子レンジ」
「それも便利よね――って待ちなさいよ!」
この世界の生活にもすっかり慣れたウェネフは、今では電子レンジを一人で使えるようになったのである。
田助か衣子が一緒でなければ怖がって使えなかったことを思えば、相当な進歩と言えるだろう。
「どうした?」
「どうしたじゃないわよ! 電子レンジなんて、ダンジョンの中で使えるわけないでしょ!?」
「それが使えるんだなぁ、これがあれば……!」
そう言って田助がアイテムボックスから取り出したのは大容量のモバイル電源である。
いろんなメーカーが出しているので、詳しく知りたい人はぜひググって欲しい。
というわけで、さっそく調理を開始する。
「今日作るのはカレーだ。まずはアイテムボックスから、すでに切ってあるタマネギ、人参、ジャガイモを取り出して、電子レンジに投入。5分くらいやれば充分か」
チン。
「よし、これでだいたい火が通ったはず。後はやっぱりすでに切ってあるミノタウロスの肉と一緒にバターで炒めて」
ミノタウロスの肉から滲み出る肉汁とバターの香ばしさ、それに野菜の甘い匂いがあたりに漂い始める。
腹が空いたのだろう。ポチが早くもよだれを垂らし始める。
「ねえ、ちょっと」
ウェネフが話しかけてくる。
「なんでダンジョンの中でカレー作るのよ!?」
「なんでって、そんなの食べたいからに決まってるだろ?」
「そうじゃなくて! そんなことしなくてもあなたのアイテムボックスに作ったカレーを入れておけば、いつでも熱々のカレーが食べられるじゃない!」
「そこに気づくとは……! ……なんて言うと思ったか? 残念、言いません!」
田助の言葉に、ウェネフが美少女がしてはいけない顔をする。
「カレーはな、コトコト煮込むからうまくなるんだよ!」
「だったらどうして電子レンジを使ったの!?」
「時短だよ、時短。少しでも効率的にダンジョンを攻略するためには一秒も無駄にできないんだよ」
材料をあらかじめ切っておいたのも、同じ理由だ。
「なら、アイテムボックスにできたてのカレーを入れておけばいいじゃない!」
「おいおい、ウェネフ。話がループしてるぞ? まったく、しょうがない奴だな」
「ご主人様が非常識なのが悪いんでしょ!?」
「照れ――」
「――る要素なんてどこにもないからぁ……!」
やはり最後までは言わせてくれないらしい。
まったく意地悪なウェネフである。
「全然休憩した感じがしない……!」
これだけ元気よくツッコミを入れたら、それもそうだろう。
「まあ、なんだ。カレーでも食って元気出せよ」
「誰のせいだと思ってるのよ!?」
「いやあ、照れ――」
「――る要素は、だからどこにもないからぁ……!」
どうあっても最後までは言わせてくれないらしい。
だが、それがいい。
「ほら」
と田助が差し出したカレーをウェネフは受け取り、
「いただきます……!」
思いきり頬張る。
「……これでおいしくなかったら文句も言えるのにっ。何でこんなにおいしいのよっ」
「なんか言ったか?」
「別にっ、何も言ってないっ」
「おいしいとか言われると照れるんだが」
「聞こえてるんじゃない……!」
聞こえていないとは言っていない。
ポチの分も用意する。
猫舌のポチは「わふわふ」息を吹きかけ、冷ましながらおいしそうに食べていた。
そんな二人の様子を見ながら、田助も自分の分に手を伸ばす。
「うん。うまい」
やはりミノタウロスの肉を使ったのがよかったのだろう。
モンスター食材を使うと本当に料理がおいしくなる。
「さて、お代わりを――」
食べようと思ったのだが、なくなっていた。
ポチが食べたのだろうか?
「わふぅ!」
違うらしい。
では、
「おいおい、ウェネフ。食べ過ぎだぞ?」
「違うから」
じゃあ誰が?
鍋を見れば、青くて、艶々していて、ぷるぷるしているものが動いていた。
スライムである。
「お前が犯人か……!」
田助の言葉にスライムが固まる。
どうやら見つかるとは思っていなかったようだ。
間抜けなのだろう。
それを言ったら、スライムにすっかりカレーを食べられてしまった田助も同じだ。
「なあ、お前。そんなにカレー、うまかったか?」
スライムがぷるぷると震えた。
どうやら肯定しているらしい。
「わぉん?」
ポチが倒すかどうか聞いてきたので、田助は首を横に振った。
モンスターは戦って倒すのが基本ではある。
だが、ポチや密林ダンジョンの蜜蜂たちのように、友好的なモンスターも存在する。
そういうモンスターまで倒そうとは思わない。
「これも食うか?」
おやつに食べようと思っていた果物をアイテムボックスから取りだし、スライムに差し出す。
スライムはうれしそうに食べた。
「ま、こういうのも悪くないな」




