55:モンスターからプレゼントをもらってみた
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ゴブリンが町中を徘徊していた頃、同じ町内にヒーローが現れたらしい。
田助はそのことをSNSで知った。
ピンチの時に颯爽と駆けつけ、老若男女、誰彼かまわず助けまくる。
そして何も言わずに去って行く。
まさしくヒーロー。
だが、その正体を知る者はいない。
ある者は子どもだったといい、またある者は少女だったという。
おっさんだった、老人だった、いやそもそも人間ですらなく猫だったという者までいた。
ネットでは有志が集まり、その正体を突き止めようと躍起になっていた。
ちなみに田助もヒーローに助けられた。
ヒーローのことでみんなが盛り上がっているおかげで、ゴブリン騒動がすっかり下火になったのだ。
ゴブリンの存在からダンジョンを連想する者が現れていたら、今頃、大変なことになっていただろう。
「どこの誰かわからないが、ありがとな。ヒーロー」
田助は知らない。
そのヒーローの正体が実は田助であることを。
だからヒーローに感謝するというのは、すなわち田助自身に感謝することに他ならず、後にそのことを知った田助は叫んだ。
『自画自賛!? それとも自作自演!? どっちにしてもめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど……!』
と。
だが、今現在、何も知らない田助は、これでまたダンジョンをまったりと堪能できると暢気に喜んでいた。
知らないということは、ある意味、とても幸福なことである。
というわけで、ダンジョンだ。
今回は田助が全員を誘ったため、衣子、アンファ、ポチ、ウェネフ、シャルハラートのフルメンバー。
ゴブリン騒ぎの際、二度とこんなことが起こらないようにという再発防止の観点から、特に念入りにモンスター退治をしたからだろう。
モンスターとの遭遇はほぼほぼなく、廃病院ダンジョン、草原ダンジョン、本格的ダンジョンを抜け、密林ダンジョンまでやってくることができた。
田助としては正直、少々、物足りない思いもあったが、レベル1のままだったりするシャルハラートにはよかったらしい。
「そう言えばお前、レベル上げ、しなくていいのか?」
「そうね。別に今は上げなくてもいいかも」
「何でだよ。レベルを上げて、早く神の世界に戻りたいんだろ」
「戻ったら、その、あれじゃない!」
「あれ?」
「う、うるさいわね! とにかくしばらく戻るつもりはないの! 私と一緒にいられる幸運を感謝しなさい!」
よくわからないが、真っ赤になったシャルハラートに睨まれた。
幸運? 不幸の間違いだろう。
シャルハラートはいい加減、自分が駄女神であることを自覚すべきだ。
「駄女神まで攻略するなんて。さすが田助様です」
前半はよく聞き取れなかったが、衣子に感心された。
アンファとポチにもだ。
ウェネフだけは呆れたような、そんな感じの眼差しを向けてきたが。
それはそれとして、今いるここ、密林ダンジョンだ。
熱帯雨林が見渡す限りどこまでも広がっている。
昆虫系、動物系のモンスターが出現するが、一番多いのは植物系――特に樹木系のモンスターだ。
枝を手のように、根を足のように動かして襲いかかってくる妖樹。
こいつは水ではなく血を、日光ではなく生き物の悲鳴を浴びて生きるモンスター。
ひときわ大きく凶悪に成長したものを暴妖樹と呼ぶ。
獲物を捕食しようと動き出すまで、普通の樹木と見分けはつかず、田助も、
『……なんか嫌な感じがする』
と直感に従い、鑑定を使っていなければ、餌食になっていただろう。
他にも、足を踏み入れた場所そのものがモンスターだったということもあった。
正確に言うなら森に擬態したモンスターと呼ぶべきなんだろう。
中に彷徨い込んだ獲物を、花や、葉や、ツタや、ツルや、枝で絡め取って、取り込む。
本体は中心部にあった、カンアオイみたいな花がそれだ。
これもまた、鑑定がなかったら大変なことになっていたに違いない。
それ以外では、菌糸系のモンスターもいる。
菌糸、簡単に言ってしまえばキノコだ。
自分より大きなキノコがノッシノッシと歩いているのを見た時は、驚き、興奮もしたが、ちょっと恐くもあった。
しかも頭から毒だったり、痺れる胞子を吐き出すのだ。
とはいえこのキノコ系モンスター、食べるとまるで松茸のようなものもあって、なかなか侮れない。
その密林ダンジョン。
アンファがレベルアップしたことで、廃病院ダンジョンと同じようにここもバージョンアップした。
草原ダンジョンと同じで迷路要素だ。
だが、草原ダンジョンが平面的であるのに対して、この密林ダンジョンは立体的。
樹木を這うように伸びたツルやツタを上ったり下ったり、あるいは樹木と樹木を結んでいる、やっぱりツルだったりツタだったりを渡って、次の階層を目指すのだ。
草原ダンジョンにあった刻一刻と姿を変える要素がないのは、そのツルだったりツタだったりが細くて、足が外れやすくなっているからだろう。
安全設計だなとポチにまたがっているアンファを褒めれば、
「た~!」
ぷにぷにの手で田助のことをぱしぱし叩いて、照れていた。
かわいすぎる。
将来は天使になるに違いない(なりません。ダンジョンコアです)。
「ダンジョンが安全設計とか意味不明」
とはウェネフの弁である。
「さて、それじゃあ行くか」
今、田助たちが立っているのは密林ダンジョンの入口なのだ。
だが、いくらか進んだところで、足が止まる。
ヴヴヴヴヴ!
そんな音とともに、ちょっとした大型犬ほどの大きさをした蜜蜂が襲いかかってきたからだ。
当然、これほど巨大な蜜蜂が普通に存在しているわけがない。
モンスターだ。
それぞれ得物を構え、戦いに備える。
「ん?」
いくら待っても、蜜蜂が襲いかかってこない。
田助たちの周囲を――いや、違う。
田助の周囲をぶんぶん飛び回り続けている。
「タスケ……まさか蜂にまで手を出すなんて。変態」
「おいちょっと待てウェネフ! 聞き捨てならないことを言うんじゃない! 蜂にまでって何だ!? 俺は生まれてこの方、衣子以外に手を出したことはないぞ!?」
聞きようによっては情けなくなるような発言である。
だが、事実だ。
「確かにまだ手を出してないけど」
「これから出すみたいな言い方もやめろ!」
そもそも田助を好きだと、はっきりと好意を示してくれるのは衣子にアンファ、それにポチくらいなもので。
衣子は妻だし、アンファは天使だし、ポチに至っては♂だ。
手を出したりするわけがない。
そんな田助の主張をウェネフは冷めた目で、シャルハラートはキョドった目で、衣子は、
「あらあら、うふふ」
笑ってるんだけど、笑ってないような……。
深く追求したら駄目だと本能が告げるので、田助はそこでやめた。
ともあれ、これまでもこれからも、田助が他に手を出すことはないのである。
「じゃあ、この蜂たちは何?」
「そんなの俺の方が知りたいんだが」
攻撃する意思を感じないので武器は収めたが、巨大な蜜蜂が周囲をぶんぶん飛んでいるのは正直恐い。
何かを伝えたいような気がするが、さすがにそんなことまで鑑定ではわからない。
どうしたものかと思っていれば、ポチにまたがったアンファがぷにぷにした手で自分の胸をぽんと叩いた。
「おお、アンファ! かわいいな!」
「た~! ん、たー!」
一瞬照れて、しかし、違う違うそうじゃないという感じで首を振る姿も本当にかわいい。
「ん? 何だ? 抱きしめて欲しいのか?」
これも違うというのだが、若干、抱きしめて欲しそうだったので抱きしめた。
「田助様、アンファ様はモンスターの言葉がわかるみたいです」
衣子に言われた。
「マジか!?」
「たーぅ!」
アンファが胸を張る。
マジらしい。
というわけで、アンファに蜜蜂モンスターの言葉を翻訳してもらった。
「た、たー、たーぅ、ぬぅ、なーぅ!」
「おお、なるほどな!」
「田助様、アンファ様が何を言っているか、ついにわかるようになったのですね……!」
衣子の言葉に、アンファの顔に笑みが輝く。
「いいや! まったくわからん!」
「ならなんでうなずいたのよ……!」
ウェネフに呆れられてしまった。
「いやあ」
「褒めてないんだから照れるなぁ!」
ナイスツッコミとサムズアップすれば、ウェネフに睨まれた。
ともあれ、このまま膠着状態が続くのは何なので、アンファの言葉を衣子に翻訳してもらった。
要約すればこういうことらしい。
「ふむ。つまり、この蜜蜂たちは俺に感謝しているってことなのか……」
「たーぅ!」
ゴブリン騒ぎの時、この密林ダンジョンに偶然、大量発生していた岩石熊と呼ばれるモンスターを倒しまくった。
で、その岩石熊、この蜜蜂モンスターたちの幼虫やさなぎ、蜂蜜を主食にしているらしい。
しかし田助が岩石熊を倒しまくったことで、最悪の事態を回避することができたらしい。
その感謝の印として、お礼がしたいというのだ。
こいつらのためにやったわけじゃないからと言うのだが、蜜蜂モンスターたちはそれでは自分たちの気が済まないと翅を激しく震わせる。
「恐い恐い恐い! わかった! 受け取るから! だからそのブンブンをやめてくれ!」
大型犬ほどの大きさの蜜蜂が周囲を激しく飛び回るとか、恐怖しか感じない。
「たーぉ!」
「自分たちの気持ちが通じてうれしいと言ってるようですよ、田助様」
「通じるも何もめちゃくちゃ脅されたんだが」
ともあれ、巣まで案内される田助たち。
そこで大量の蜂蜜をプレゼントされたのだった。
後日。
アンファのリクエストに応えてホットケーキを作った際、
「そう言えば……」
と、この蜂蜜のことを思い出して使ってみたところ、驚いた。
信じられないくらいうまかったのだ。
市販されているものとはまったく違う。
濃厚な甘みに芳醇な香り。
くどくならない、ギリギリのところで均衡を保っている。
思わず鑑定してみたら、
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●密林姫蜂の蜜
密林姫蜂の蜂蜜。
警戒心が強い蜂のため、その蜜を入手することは困難であり、市場に出回ることはほとんどない。
幻の蜂蜜。
体力回復効果があるため、天然ポーションと呼ばれることもある。
肌にもよく、美容効果も認められる。
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結果に絶句する田助。
「い、いやいやいやいや……!?」
ちなみに市場価格はいくらほどするのかと、異世界ストアで検索してみたら、あり得ない結果が表示されてさらに田助は絶句した。
「スキルオーブに匹敵するってマジか……!」
まさかこんなにすごいものとは。
必要があったから岩石熊を倒しただけなのに、いくら何でももらいすぎだ。
そう考えた田助は、密林姫蜂たちに礼をすることにした。
何がいいか、衣子たちと一緒に考えた結果、
「ダンジョン内にない花をプレゼントするのはどうでしょうか?」
「衣子、ナイスアイデアだ!」
といってもちょっとの量では足りないだろう。
ということで、ホームセンターに行って、花の種や苗を、
「こっから、ここまで。全部ください」
と、大人買い。
そして密林ダンジョンの一部を開拓。
そこに花畑を作った。
密林姫蜂たちは喜んだ。
色とりどりのいろんな花が咲くようになると、密林姫蜂はその巨体で器用に花畑を飛び回って、花粉や蜜を集めるように。
以降、定期的に蜂蜜をわけてもらうようになった。




