53:ダンジョンの存在が露見した時のことについて言及してみた
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廃病院ダンジョン、そこに併設された住居部分に戻ってきた田助と衣子は、帰宅の挨拶もそこそこにして、ゴブリンが町中を闊歩しているかもしれないことについて話し始めた。
とはいえ、ごねる者もいた。シャルハラートだ。
「ねえ、私ってばちゃんと留守番できたんですけど! そんな私に何か言うことはないのかしら……!?」
できて当たり前のことを偉そうに言うとか、どこのどなた様だよと言いたい。
まあ、言ったら十中八九、
『超絶美人の女神様よ!』
という答えが返ってくるに違いない。
なので、適当に返事をしておくことにした。
「あー、はいはい。偉い偉い。シャルハラートは偉いなー」
「ふ、ふん! 当然よ! 私だってやればできる子なんだから!」
できる子とか自分で言っちゃうあたり、とても残念な感じがする。
あと、この程度のことでめちゃくちゃうれしそうなあたり、こいつはやっぱりチョロいなと田助は思った。
ともあれ、シャルハラートも大人しくなったので話を進めようと思ったら、
「たーぅ! たー、たー、たー!」
今度はアンファが騒ぎ始めた。
なぜ?
衣子に通訳を頼めば、自分も留守番をがんばったんだが? みたいなことを言っているらしい。
……これはあれか?
シャルハラートだけ褒めて、自分を褒めないのはどういうことかと、つまり嫉妬しているという理解でよろしいか? はい、よろしいです。
「ああ、もう! アンファはかわいいなぁ! もちろん、アンファががんばってないわけないだろ!? アンファはただ存在するだけで尊いんだからな! アンファかわいいよアンファ!」
田助はアンファを抱きしめ、ぷにぷにほっぺに頬ずりした。
「大好きだぞアンファ!」
「た~っ!」
田助に抱きしめられ、照れているアンファ、マジ天使である。
ダンジョンコアだが。
そんなことをやっていれば、今度はウェネフが田助の服の裾を引っ張ってきた。
「あたしも、その、がんばったと思う」
ウェネフがそんなことを言った。
何となく次は自分の流れだろうと、そんな空気を読んだに違いない。
「そうだな。ウェネフもよくがんばってくれた」
田助が褒めれば、ウェネフはそっぽを向いてしまった。
自分の番はもう終わりだと、そういうことだろう。
「……えへへ」
「? 何か言ったか、ウェネフ?」
「べ、別に何も言ってない!」
「そうか。ならいいけど」
そして当然、ここまで来れば衣子も乗ってくるだろう。このビッグウェーブに。
「田助様、私も留守番、がんばりましたよ?」
「ああ、そうだな。よくがんばってくれたな――って、衣子は俺と一緒に出掛けてただろうが!」
「そこに気づくとは……! さては田助様、天才ですね?」
衣子の場合、本気で言っている節があるから照れる。
いや、違った。
困るが正解だった。
「さて、ひととおり褒め終わったところで……って、そんな顔するな、ポチ。お前のこと、忘れてるわけないじゃないか」
しょぼんとしたポチの全身をわしゃわしゃした。
そして今度こそ本当に本題に入る。
「みんな、聞いてくれ。町中にゴブリンが現れたんだ!」
「そ、それは……!」
と驚いたのはシャルハラートで、
「何か問題なの?」
わからないなら、どうして驚いたのか。
「問題に決まってるだろ!? 現代社会にゴブリンが現れたなんてことになったら大騒ぎになる!」
おそらく最初は未確認生物、いわゆるUMAが現れたとマスコミが騒ぎ立てるだろう。
でもってWEB小説やラノベを嗜む連中がその特徴を聞きかじって、UMAの正体がゴブリンであることを突き止めるはずだ。
「そうしたらこの町に人が大勢押し寄せて……!」
「なるほど。一気に観光地と化して、税収が上がりますね」
「そうそう、そのとおり。さすが衣子――って違う! ここにダンジョンがあることがバレるかもしれないんだよ! ここは俺たちの大事なダンジョンなのに……!」
「なるほど。つまりダンジョンの恩恵を誰にも渡したくない、独り占めしたいと、そういうことね?」
シャルハラートが言った。
「ば、馬鹿、お前! そ、そそそそんなことあるわけないだろ!?」
「……タスケ、動揺しすぎ」
と、ウェネフ。
「……ええ、そうね。動揺しすぎね」
と、シャルハラート。
「……確かに。動揺している田助様も素敵です!」
何がどう確かになのかはわからないが衣子はいつもどおりで、
「たー!」
それに賛成を示すアンファと、
「わふっ!」
ポチであった。
「いや、マジで違うんだって!」
「本当に?」
ウェネフが尋ねる。
「……あー、まあ、そりゃあ、そういう気持ちがないって言ったら嘘になるけど」
ほらやっぱりという感じでシャルハラートが見てくる。
確かにその気持ちは否定しない。
「けど、それだけじゃないのは本当だ。ダンジョンがあるってバレたら、UMAが現れたと騒ぎ立てた時とは比べものにならないくらい、大騒ぎになるんだぞ? それだけじゃねえ。中にはダンジョンを攻略しようとする奴らが出てくるかもしれない」
いや、絶対に出てくるだろう。
「そうなったらどうなる?」
「どうなるって……」
わからないのだろう。シャルハラートが首を傾げる。
「ダンジョンを攻略するってことは、ダンジョンコアを制圧するってことだ。つまり、アンファの身に危険が迫るってことなんだよ!」
田助の指摘でようやくその可能性に思い至ったらしい。
シャルハラートとウェネフが危機感を抱いた顔になった。
「たー……」
不安になったらしいアンファが怯えた顔をする。
「大丈夫だ。絶対にそんなことはさせないから。アンファは俺が守る」
「たー!」
アンファが抱きついてくる。
思いきり抱きしめ、ぽんぽんとその背中を叩きながら田助は考える。
どうしてゴブリンが町中を徘徊することになったのだろう。
モンスターがダンジョンから溢れ出たりしないよう、田助はモンスターを倒しまくっていた。
もちろんそこにダンジョンを堪能したい、経験値を得たい、ドロップアイテムが欲しい、楽しいぜヒャッハー! という気持ちがなかったと言ったら嘘になる。
だが、町中にモンスターが現れて大騒ぎにならないようにという配慮もあったのだ。
それだけじゃない。
廃病院ダンジョンの窓は、某ホラーゲームのように内側から板を打ち付けておいた。
あれは外からアンデッドが入ってこないようにするためだが。
とにかく、そうやって万全の体制を敷いておいたつもりなのだ。
それでも穴があったのだろう。
廃病院ダンジョンの窓を確認したら、1箇所、板が外されている場所があった。
おそらくここからゴブリンは外に出たに違いない。
なので、今度は絶対に外せないように頑丈に板を打ち付けておいた。
「これでよし」
あとは町中を徘徊しているゴブリンを退治するだけだった。




