49:相棒復活はなかなか難しい
刀鍛冶の名前を『平井』→『六巻伍郎』に変更しました。
合わせて話し方も修正しました。
砕け散った断ち切り丸はミスリルで作られているらしい。
ミスリルといえばラノベやWEB小説ではお馴染み、オリハルコンやアダマンタイトに並ぶ異世界金属だ。
その中でもミスリルは魔法に対して親和性を持つとか、魔力を宿すとか、そんな感じだったと思う。
刀鍛冶である六巻は手にした断ち切り丸の欠片を改めて確認している。
触れてみたり、日にかざしてみたりまではわかる。
だが、どこからか取り出したビニール袋に欠片を入れてクンカクンカする必要はあるのか?
ましてやペロッと舐める意味は!?
「うん。やっぱりそうっす。これは自分の知らない金属っすね」
どんな確認方法だ。聞いたことがない。
いや、まあ、刀鍛冶に詳しいわけではないので、そういう確認方法もあるのかもしれないが。
田助が驚愕していると、
「あ、ああ、すんませんっす! 自分、独学でここまでやってきたんで」
六巻がタオルを巻いた頭を掻きながら、はにかむ。
ゴリラに見える苦しい奴なので、かわいくはない。
「なるほど――って、いやいやいや!? 独学だからって素材の匂いを嗅いだり、舐めたりする必要があるのか!?」
「そこは山田さん、企業秘密っすよ」
企業秘密と言われると、実はさっきの変態チックな行動にも深い理由とか意味が――。
「まあ、自分の場合はしたいからしているだけっすけどね! ハァハァ」
「ただの変態じゃねえか!」
「山田さん、ちょっと失礼じゃないっすかね……?」
思わずツッコミを入れたら、六巻の眼差しが剣呑になった。
「自分は変態じゃないっす」
「あ、すみま――」
「変態紳士っす。キリッ」
キリッ、じゃねえし。
……駄目だこいつ。
田助は断ち切り丸の欠片を取り返して、この場を辞そうと思った。
思ったが、そこでふと考えた。
こいつは変態紳士だ。
だが、田助の話を聞いて会ってもいいと言ってくれたのは、この変態紳士だけなのだ。
なら、当然、田助の取るべき答えは一つしかないだろう。
「あの、すみません。他を当たらせていただくんで、その欠片、返してもらっていいですかね?」
これしかない。
田助の話を聞いてくれる人はきっといるはずだ。
たとえ地球の裏側だったとしても、赴くだけの時間と資金はある。
無職で、ダンジョンで荒稼ぎしているからだ。
「ほら、早く返してくださいよ」
「い、嫌っす! 自分はこの、ほんのりとかび臭く、舐めれば微妙に酸っぱい謎の金属の正体がどうしても知りたいっす!」
匂いとか、味とか、そんなものは知りたくなかった。
「だから絶対に返さないっす!」
こいつ、最悪である。
返してもらうことを諦めようかとも思ったが、断ち切り丸をこんな変態の元に残していくのも忍びない。
「……言ってもどうせ信じないって」
こんな変態には丁寧な言葉は必要ないだろう。
「信じるか信じないかは聞いてから判断するっす!」
「ミスリルだ」
「みす……りる?」
「聞いたことないだろ? ……ほら、言ったんだから返してくれ」
「それはラノベなんかに出てくる、あのミスリルのことっすか!?」
「知っているのか電電!?」
「それだと俳優の名前っす。それを言うなら雷雷っす」
「それだとなんか中華屋だろ? ――って、そんなことはどうでもいいんだよ!」
「言い出したのは山田さんっす」
確かに。
ともあれ、詳しく話を聞けば、六巻もかなりの量のラノベを読んでいることがわかった。
それどころかWEB小説も読んでいて、田助が好きな作品のフォロワーであることも判明して意気投合した。
「ラノベでミスリル製の武器や防具が出てくる度、どんな匂いがして、味がするのか、興味津々だったっす!」
本当にどうしようもない変態紳士である。
意気投合するのは早まったかもしれない。
「なるほど。これがミスリル。そういうことなら、自分が知らないのも当然っすね」
納得しちゃう六巻だが、
「いや待て。それがミスリルだって本当に信じるのか?」
田助には鑑定スキルがある。
だから断ち切り丸がミスリルでできていることがわかった。
しかし、六巻にはそれがない。
六巻がどれだけラノベ好きだったとしても、普通は信じられないだろう。
「見たことのない素材で、味も匂いも初めてでしたっす」
「それだけで?」
「いいえ。決定打は他にあるっす」
「何だよ。もったいぶらずに早く言えよ」
「山田さん、あなたっす」
「は?」
「あなたは嘘をついているように見えないっす。だから自分はあなたの言葉を信じるっす。ただそれだけっす」
「六巻……」
田助が女子だったら間違いなく六巻に惚れていた。
だが、田助は女子ではなく男子、というよりおっさんだったので、
「……言ってて恥ずかしくないか?」
そうやって茶化した。
「は、恥ずかしいっす! けど、信じてもらうにはそれしかないかなって思ったっす!」
ゴリラみたいな男が照れてもやはりかわいくはない。
かわいくはないのだが……自分の発言を信じてもらえるというのは、なんだかこう、胸に来るものがあった。
だから田助は六巻の、
「でも山田さん。どうしてミスリル製の刀なんてものを持ってたっすか?」
という疑問に答えることにした。
駄女神との出会いから、スキルを手に入れ、ダンジョンコアを入手し、ダンジョンを堪能するようになった今日までの日々を。
小一時間ほどでまとめた、田助のこれまでのダイジェストを聞き終えた六巻は、
「ダンジョン! すごいっす……!」
と興奮していた。
「やはりいろんな素材が手に入るっすよね!?」
六巻ならばそこに食いついてくるとは思っていた。
「いろいろな。見るか?」
「いいっすか!?」
六巻にはアイテムボックスのことも話した。
なので堂々と何もないところからダンジョンで手に入れた素材を取り出す。
「ほら。……六巻? おい、どうした?」
「ど、どうしたじゃないっすよ!? え、本当にアイテムボックスっすか!?」
「さっき言っただろ。もしかして聞いてなかったのか?」
「聞いたっすけど、実際に見せられると衝撃が凄まじくて……! いや、本当にスキルが存在するっすね……! すごいっす!」
何だか照れる。
「い、いいから、ほら。これだよ、素材だよ」
「ありがとうございますっす! ……ふぉおおおおおおおおおおおっ! 異世界の素材っすぅぅぅぅううううううううう!」
六巻が大げさに喜ぶものだから、
「おいおいおい、こんな程度ですごいとか言ってるんじゃねえよ!」
と調子に乗ってあれこれ出してしまった。
で、当然、二人して盛り上がる。
本題を忘れて。
そのことを二人が思い出したのは外が暗くなり始めた頃だった。
「ま、まあ、なんだ、六巻さん。こういうこともあるよな!?」
「そ、そうっすよね、山田さん……!」
あはは、わははと二人して笑って誤魔化した。
「さて、本題の話を進めようじゃないか」
と田助の言葉に、六巻がうなずく。
「山田さん、この刀を治すなら、当然材料はミスリルになると思うっすけど」
「今のところ、ダンジョンからミスリルが採れたことはないな」
「なら、どうするっす?」
「買えばいいんだよ、俺の異世界ストアで!」
というわけで、さっそくミスリルをポチってみた。
えげつない金額を要求されたのは、それだけ希少価値が高いということだろう。
ちなみにオリハルコンはさらに高く、アダマンタイトも同様である。
さすが異世界金属。
ちなみに今回の一件で田助はこんなことを思いついていた。
異世界ストアで直接武器を購入するのではなく、材料を買って六巻に専用武器を作ってもらうというものだ。
断ち切り丸の代わりの相棒としていろいろ武器を購入して思ったのだが、何というか微妙に痒いところに手が届かない感があったのである。
ネットショッピングと同じだ。写真や説明文を読んでいいと思って買ったものが、実際に届いてみるとなんか違うと感じるみたいな。
そこで直接意見を出して、自分専用に作り上げてもらうわけだ。
実際、今回の断ち切り丸から、やってもらってもいいと思っている。
今までの断ち切り丸に不満があるわけではない。
だが、何というかもっと自分専用にカスタマイズしてみたい気持ちもあって。
というわけで、異世界ストアで購入して、いつものように現れたミスリルの塊を六巻に渡す。
いや、渡せなかった。
六巻は呆然として受け取らなかったのだ。
「い、いいいいいい今のは!?」
アイテムボックスの時と同じ――いや、あの時よりもずっと衝撃を受けたようだ。
六巻が立ち直るのを待ってから、改めてミスリルを手渡す。
「ほら、これがミスリルだ」
「っすか……」
まだ若干、呆然としているが、その顔が真剣なものになった。
――と思ったら、袋を取り出してそこに入れるとクンカクンカ。
そして、ぺろっと舐め始めた。
「おい。やると思ったけど、本当にやるなよ」
「いやあ」
いやあ、ではない。
「では、さっそく作業に取りかかってみるっす」
ミスリルの塊と砕けた断ち切り丸の欠片すべてを抱えて、六巻が作業場へ赴く。
これで相棒が復活すると思っていたのだが、そう簡単にはいかなかった。
慌てた様子で六巻が戻ってきて言ったのだ。
「どれだけ熱してもミスリルは塊のままで、形を変えられないっす……!」
と。




