35:奴隷の装備を取り返してみた
展開の都合上、『33:非常識だと言われてみた』のウェネフ初登場の際の格好を、いかにも魔法使いっぽい格好から、『ボロボロの布の中央に穴を開け、その穴に頭を通す貫頭衣という、いかにも奴隷っぽい姿』に修正いたしました。
よろしくお願いします。
田助自身、異世界ストアがチートスキルだという自覚はあった。
異世界で売買されているものなら、どんなものでも購入が可能なのだ。
当然だろう。
だから、ウェネフが驚くのもよくわかる。
だが、実際はチートスキルがチートに磨きをかけて、田助の想像以上のことをやらかしてしまっていたようだ。
これが伝説のあれだろう。
『あれ? 俺、なんかやっちゃった?』
というやつだろう。
まさに無自覚チートの極み。
「まさか俺がその境地にたどり着くとか……胸が熱くなるな!」
ラインバルト魔法王国の関係各位には申し訳ないことをしたと思う。
だが、これから先も必要とあればその時は躊躇わず、どんなものでも何でも買うつもりだ。
やらないで後悔するよりも、やって後悔する方がずっといい。
倒れる時は前のめりというやつだ。
散々驚き、混乱し、興奮していたウェネフが、ようやく落ち着きを取り戻した。
で、今さらながら、ここがダンジョンの中であることに気がついたようだ。
確かにここはダンジョンの一部ではあるが、住みやすく改造された部分。
なので、通常のダンジョンとはちょっと違う。
さらに言えば、
「ここはウェネフ、お前が元いた世界とは別の世界なんだ」
「は!? あなたは何を言って………………………………………………………………いえ、そうね。あなたの言うとおり、ここは異世界」
「まあ、信じられないのも無理はない――って信じるのか!?」
「え、嘘なの?」
非難がましい目で見据えてくるウェネフ。
「いや、嘘じゃないけど……信じるの早すぎると思うんだけど」
衣子を見れば、衣子も同じように感じていたようでうなずいている。
「もしかしてあれか? ウェネフの世界とこの世界じゃ、何か明確な違いがあるのか? よくある違いと言えば、この世界だと魔力を感じられないとかだが」
「魔力? 感じるけど」
「感じるの?」
「うん」
「そ、そうなのか。じゃあ、なんで信じたんだ? 普通、信じないだろ。いきなり異世界に連れてこられたとか言われても」
「そうね。普通は信じないでしょうね。でも、ここにはあなたがいる」
「俺?」
「散々非常識なことをしでかしたあなたが言ったんだから、それがどれだけ信じがたいことだったとしても、きっと本当のことだと思うしかないじゃない」
ジト目で睨まれてしまった。
「そいつはあんまりうれしくない信頼のされ方だな……」
苦笑する田助である。
「奴隷に身を落とされて……辱めを受けることは予想していたけど。まさか異世界にやってくるとは思っていなかったわ」
「辱めとか人聞き悪いこと言うな。俺はそんなつもりでお前を買ったわけじゃない」
「なら、何のため?」
「そんなの決まってるだろ? どうやったら魔法を使えるようになるのか、聞くためだ!」
「……え、それだけ? 本当に?」
「当たり前だ」
とうなずく田助の言葉が信じられないのか。
ウェネフは衣子にも確認して、衣子が「そうですよ」とうなずくことで、どうにかこうにか納得できたみたいだった。
「信じられない」
納得できたわけではなかったようだ。
「だってあたしはオークと人間のハーフなのよ?」
「ああ、うん。知ってる」
異世界ストアの商品説明欄に書いてあった。
「オークはモンスターで、そんなモンスターと人間の間に生まれたハーフは差別されて当然なのよ?」
「ハーフが差別される。よくある異世界設定だな」
「よくある……異世界設定?」
「気にするな。こっちの話だ」
こっちの話というか、WEB小説やラノベのお約束の話である。
「あたしが奴隷になったのもそれが原因だから」
ウェネフが奴隷に身を落とすことになった経緯を語り始めた。
ウェネフの話をまとめるとこうだ。
オークと人間の間に生まれたウェネフだったが、そこには愛があったという。
実際、両親がお互いを認め、愛し合っているのが伝わってくる姿を目撃していたし、ウェネフ自身も両親の愛を一身に受けて育った自信がある。
だが、それは両親が変わり者だっただけに過ぎない。
世間一般では異なる種族で愛し合うことも、その果てに生まれた子どもも差別の対象であり、実際、ウェネフは差別されてきた。
両親の愛すら嘘だと決めつけられた。
だから立ち上がった。
両親の愛が本物であること。
その結果、自分自身が生まれ、だから差別されるような存在ではないことを証明するために。
異世界で何かを証明するためには力が必要だった。
だからウェネフはSランク冒険者にまで上り詰めた。
想像を絶するほどの努力を積み重ねた果てにだ。
そうしてウェネフは自分自身を周囲に認めさせるに至ったと、そう思っていた。
だが、それを認めようとしない者がいた。
自らは決して努力することなく、努力する者の足を引っ張ることだけに命をかけるような、ろくでもない輩が。
そういう輩の策略に嵌められ、ウェネフは努力の果てに手に入れたSランク冒険者の地位を剥奪された。
さらに、してもいない借金があると言われ、努力の証でもある、ウェネフ自身がダンジョンに潜って手に入れたり、鍛えたりした思い入れたっぷりの装備も奪われ、奴隷に身を落とすハメになった。
「何だよそれ! 胸くそ悪すぎるだろ!? てか、それだけの策略を巡らすことができるなら、その力を自分自身を鍛える方向に向けろよっ!」
吐き捨てる田助。
「怒ってるの……?」
不思議そうにウェネフが聞いてくる。
それが田助にはたまらなく悲しかった。
ウェネフにしてみれば受け入れてもらえないことが当たり前で、だから自分に共感してもらえるとは微塵も思っていないのだ。
「怒ってるよ、当たり前だろ!」
何がWEB小説やラノベでよくあるお約束だ。
ふざけるな。
自分自身にも腹が立つ。
その場をぐるぐると歩き回ってから、
「そうだ!」
立ち止まった。
ウェネフの両肩を掴んで、
「ウェネフ、お前の装備の値段は!?」
「え?」
「いいから値段だ!」
「さっきも言ったけど、ダンジョンで見つけたものだったり、特別に作ってもらったものだから、あってないようなもので」
「なら、付けろ! すべての装備に今すぐに!」
田助の言葉で、ぴんと来たのだろう。
ウェネフがハッとなって、それから考える顔になって、奪われた装備に値段を付け始める。
「ざっと見積もってこれぐらいだと思う!」
「駄目だ、それじゃあ高すぎる!」
「え、でも、これぐらいでもむしろ安いと思うんだけど……」
Sランク冒険者の装備だ。
それを考えれば、確かに安いかもしれない。
だが、
「もっと安く……むしろ1円でいい!」
「なんで!? ……あ、そうか!」
田助の言いたいことがウェネフは理解できたようだ。
ウェネフの地位や実力に嫉妬して、その装備を奪った奴ら。
そいつらが今も装備を手元に置いているかどうかはわからない。
適当な値段でとっくに売り捌いている可能性だってある。
だが、それでも、その装備の本来の持ち主はウェネフだ。
騙され、不当に奪われたのだ。
ならば、その所有権は今もウェネフにあるはずだ。
いや、違う。
あるのだ。今も。現在進行形で!
つまり、本来の、正当な持ち主であるウェネフには装備に値段を付ける権利がある!
そして値段が付けられたものならば、田助の異世界ストアで購入することができる。
なら、高い値段を付けてどうする?
ウェネフを不当に苦しめた奴らの利益になるだけじゃないか。
そんなのは間違っている。
だから、最低の値段を付けるのだ。
ウェネフを陥れた奴らに「ざまあ……!」するために。
すでに売り捌いているのなら、その時は急に装備が消えてなくなり、売った相手からどういうことだと問い詰められるだろう。
値段を相当ふっかけているのなら、それを返せと当然言われるはずだ。
あるいはお前が盗んだのではないかと疑いをかけられるかもしれない。
買った相手が貴族とかなら、そいつは奴隷に落とされることだって考えられる。
あるいは自分が装備している場合はどうか。
Sランク冒険者の装備任せで、身の丈に合わない冒険をしている最中、突然、装備を失ったら?
命を失うという最悪の結果だってあり得るだろう。
だが、それがどうした。
自らは努力せず、がんばったウェネフに嫉妬し、足を引っ張った奴らが悪い。
すべて当然の報いだ。
「あたしのすべての装備の値段はそれで……!」
「よし! あとは俺の仕事だ……!」
異世界ストアで探す。
「見つけた……!」
さっさと購入手続きを終える。
ピンポーン♪ という玄関チャイムに似た音ともに届く段ボール箱の数々。
それらを前に、本当に自分の装備が戻ってきたのか、ウェネフは不安そうな顔をする。
こちらを見てくるウェネフに、田助はうなずいてみせた。
ゆっくり、一つずつ、段ボール箱を開けていくウェネフ。
すべてを開け終わるとウェネフは笑った。
今にも泣き出しそうな、そんな顔だった。
「全部……これ、全部、あたしの装備……! ありがとう……!」
衣子が田助の手をそっと握ってくる。
「よかったですね、田助様」
田助はその手を握りかえして、
「ああ。よかった。本当によかった」
衣子を抱き寄せている田助は気づかない。
異世界ストアのスキルにさらに『+』が増えていることに。
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●異世界ストア++
異世界で売買されているもの、値段が付けられたものならば、どんなものでも購入することができるスキル。
不正に仕入れられたものは、本来の所有者が値付け設定を行うことができる。
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『+』が増えると同時に、新しい効果が付け加えられていた。




