27:強いモンスターを倒してみた
先日、アンファがレベルアップした際、新しいダンジョンを作ることができるようになった。
そこで田助はお願いをした。
「なあ、アンファ。本格的なダンジョンを作ってもらうことってできるか?」
と。
ダンジョンという言葉を聞いて、たぶん誰もが真っ先に想像する、石作りの壁のあれだ。
アンファは笑顔で、
「た~う!」
と田助の望みを叶えてくれた。
そして、今、田助はそのダンジョンの中にいる。
田助の望みどおり、壁は石作り。
灯りがなければ先どころか、自分の手すら見ることができない漆黒の闇が広がっている。
ジメジメと嫌な湿気が体にまとわりつき、いつ、どこからモンスターが現れるかわからない緊張感に精神がガリガリと削られていく。
だが、それがいい。
廃病院ダンジョンも草原ダンジョンももちろんよかったが、やはりダンジョンと言ったらこれだろう。
自分はダンジョンを攻略しているんだという実感が得られる。
田助はアイテムボックスから頭に装着できるタイプのLEDライトを取り出して、点灯した。
LEDの無機質な感じの光がダンジョンの壁を照らし出す。
ところどころに苔が生えていたり、謎の植物が発生していたりする。
ちなみにこの謎の植物はディオネア・リーパーと呼ばれるモンスターだ。
ハエトリグサ、あるいはハエトリソウという植物が巨大化したような感じと言えば、おそらく理解しやすいだろう。
自発的に襲いかかってくるわけじゃなく、甘い匂いを発生させてモンスターを誘き寄せ、巨大な葉っぱで包んで消化液で溶かして吸収するのである。
ちなみに普通に食べられるし、栄養価も高い。
モンスターを餌にしているだけのことはある。
「さて、いくか」
装備はいつもの深紅の鎧一式に、断ち切り丸だ。
ゆっくりと進んでいく。
このダンジョンに現れるモンスターは多岐にわたった。
廃病院ダンジョンに出現するスケルトンやゾンビ、ゴーストといったアンデッドモンスター。
草原ダンジョンに出現したゴブリンやスライム、コボルドなどのWEB小説定番のモンスター。
さらにいえば、もっと凶悪なモンスターが出現する。
初めてこのダンジョンに足を踏み入れた時、本格的なダンジョン攻略の楽しさに我を忘れてダンジョンの奥に足を踏み入れてしまい、そこで田助が出会ったのは――……。
ダンジョンの角を曲がった瞬間、それまでと空気が一変したことに気がついた。
そこはちょっとした広間みたいな空間になっていて、そこにいたのだ。
奴が――メタルバジリスクが。
最初は、
「ずいぶん大きなトカゲだな。ドラゴンの一種か?」
と思ったのだが、よく考えれば、
「……いや、待て。ニワトリのトサカみたいなのがついてるぞ」
そこで思い出したのだ。
バジリスクという名前を。
読んできたWEB小説に出てきた、そのモンスターの名前を。
だが、それは田助の思い違いだった。
そのモンスターの正式な名称はメタルバジリスク。
鑑定結果が教えてくれた。
通常のバジリスクと違い、まるで鎧のような金属でできた鱗で体が覆われていることから、アーマーバジリスクとも呼ばれているらしい。
さらに名前の由来となったのがそのスキル。
通常のバジリスクが所有している石化ではなく、金属化。
視線が合った者を金属にして、鋭い牙で噛み砕いて食べるのだ。
この時の田助のレベルは10になったばかり。
対してメタルバジリスクのレベルは45。
普通に戦って勝てる相手ではない。
田助の全身の毛穴という毛穴がぶわっと広がって、嫌な感じの汗が滝のように流れた。
ダンジョンコアを設置して目覚めた後、スケルトンやゾンビを前にした時も攻撃手段など何もなく、絶望したものだったが、こんな絶望はあの時以来だった。
いや、もしかしたら、本能的な恐怖はあの時以上かもしれない。
とにかく生き残ることだけを田助は考えた。
――違う。
それしか考えられなかった。
幸い、メタルバジリスクは田助に気づいていなかったので、息を潜め、ゆっくりと後退することで事なきを得られる――はずだった。
だが、そうはならなかった。
後退しようとした際、足に小石がぶつかって音を立てたのだ。
決して小さくはない音を。
メタルバジリスクのギョロリとした目が田助を見た――と思う前に、田助は全力で目をそらした。
あと少し遅かったら、今頃、田助は金属になって、メタルバジリスクの主食になっていたことだろう。
こちらの存在がバレてしまった以上、こそこそ逃げる必要はない。
田助は大手を振って、その場から全力ダッシュした。
金属の鱗で身を守ることを選択したメタルバジリスクは自らの重みのせいで足が遅く、それが幸いして無事に逃げ切ることができた。
金属化のスキルはノロマなメタルバジリスクが餌を得るため、つまり、生きていくために獲得した力なのだろう。
「……何にしても、あの時の俺は油断していたし、調子に乗っていた」
廃病院ダンジョンでグールに襲われ、慎重さを求める必要があることに気づいていたはずなのに。
そのことを衣子に話せば、
『また! 田助様はどうしてそう無茶なことばかりするのですか!』
と、怒られた後、
『どうやら私という存在を密着した太ももから感じていただく膝枕だけでは足りないみたいです。ですから』
『ですから?』
『全身で感じ取っていただきましょう。田助様には私という妻がいるということを』
その日、田助は一睡もできなかった。
変なことはしていない。
ただ、一晩中、衣子の抱き枕になっていただけだ。
衣子は見た目以上に立派なお宝をふたつも持っていました。どうもありがとうございました。
それ以来、ダンジョンを堪能しつつも以前よりも慎重になることを覚えたが、やはりダンジョンを前にすると楽しさが前面に出てきてしまう田助だった。
それは、まだ見たことのないものを見てみたい――そんな思いがあるからだった。
それでも初めて見るモンスターには必ず鑑定を使用することを以前より徹底するようにして、きちんと対策を取ることを心がけるようになった。
その成果を示す時がきた。
「メタルバジリスク、リベンジだ!」
メタルバジリスクは金属化というそのスキルこそ強力だが、自重のせいで動きは鈍くて緩慢だ。
ゆえに自らの餌場から動くことはない。
餌が来るのをその場で待ち続け、やってきたところを金属化。
金属となって動けなくなった餌を貪り食う。
餌は人間に限らず、モンスターも対象となる。
――らしいというのが、鑑定から得た情報だ。
田助は今もあの場所でメタルバジリスクが、餌が来るのを待っていることを田助は知っている。
実際、その場に向かえばメタルバジリスクは、
「いた……!」
田助はこの日のために、アイテムボックスの中に対メタルバジリスク用の決戦兵器を収納していた。
メタルバジリスクは視線を合わせた者を金属化するスキルを持っている。
その視線を鏡で自分に向けさせることができれば、金属でできたメタルバジリスクの像の完成だ。
「出てこい、マジカルミラー〝轟〟!」
轟音とともにアイテムボックスから取り出されたのはトラックだった。
これは大人だけが鑑賞することが許された、究極にして至高のアート作品から田助がヒントを得た武器だ。
トラックの荷台部分の中が全面鏡張りになっていて、ここにメタルバジリスクを誘い込むのだ。
そのための餌は田助自身。
――といっても、本当に田助自身が餌になって、万が一があっては困る。
ということで、荷台部分の中には4K対応モニターを設置して、田助の映像を流すことにした。
こんなことをしなくても、巨大な鏡を用意すればいいだけなのだが、そこは田助なりのロマンを求めた結果である。
これらを用意するための費用は、先日、道本に預けたドロップアイテムを売り捌いた金から捻出した。
ちなみに道本は当初、田助に話していた以上の値段でドロップアイテムを売り込んでくれ、田助を大いに驚かせた。
『山田様を驚かせることができて、とてもしあわせでございます』
とは道本の弁だ。
あと、マジカルミラー〝轟〟の手配を取り仕切ってくれたのも道本だった。
「……っと、考え事はやめるんだ。目の前のメタルバジリスクに集中しろ」
田助は気持ちを切り替える。
「メタルバジリスク! 俺はここにいるぞ!」
果たしてメタルバジリスクは反応を示した。
そこに餌がいると、ゆっくりと歩いてくる。
あと少し、もう少しでメタルバジリスクの体はすべてトラックの中に入って――。
「さあ、スキルを使え! メタルバジリスク!」
メタルバジリスクは4K対応モニターに映る田助に対して金属化のスキルを使った瞬間、モニターを収納。
そこには鏡があって、メタルバジリスクは自分自身と視線がぶつかった。
その結果――。
「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし!」
メタルバジリスクの像の完成だった。
レベル差がかなりあったからだろう。
田助のレベルは一気に5も上がって、15になった。




