26:胡散臭い商人をあっと言わせてみた
呼ばれて正和の家までやってきた田助は、以前上がったことのある応接間に通された。
ででんとソファに腰掛け待っていた正和の対面に座るように促される。
「で、オーナー。話って何ですか?」
「うむ。実はもうそろそろ儂のことをお祖父様と呼んでもいい頃だと思ってね」
「じゃ、俺はこれで失礼しますね」
「おっと待ちたまえ山田くん。どこに行こうと言うのかね」
「呼び出した要件がくだらないことだったから帰るんだよ! 何だよそれ!? そんなことくらいで呼ぶなよ!」
「はっはっは、ちょっとした本気じゃないか」
「それを言うならちょっとした冗談だ! ……というか、俺、この後、行くところがあるんですよ。話がそれだけなら、もう行ってもいいですかね」
「それはこれと関係することかな?」
正和が懐から取り出したものに田助は見覚えがあった。
それもそのはずだ。
それは田助が質屋に売ったドロップアイテムのアクセサリーだったのだ。
「今回、山田くんを呼んだ本当の理由がこれだ」
正和の話を要約するとこういうことだった。
この界隈の質屋に、ふらりと現れては金貨やアクセサリーなどを売り歩いている人物がいる。
もの自体は本物だから買い取ってはいるが、金貨は見たことのない国のものだし、アクセサリーの細工もやはり見たことがない。
それらがけっこうな量になってきた。
もしかしたら犯罪絡みの可能性もあるのではないか。
「警察に通報した方がいいかもしれない、なんて話も出てきていたそうだ」
その言葉にドキッとする。
「しかし、まあ、安心して欲しい。儂が裏から手を回しておいたので、もう大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます」
「君はもう身内だからね。当然のことだよ」
「それにしてもオーナー、本当は何者なんです?」
「ただのアパートのオーナーだよ?」
「……越後のちりめん問屋のご隠居様みたいな感じで言わないでください。なんか権力でも握ってるんじゃないかって勘ぐりたくなってくるじゃないですか」
「はっはっは」
「……否定しないし」
深く追求しないことにしておこう。
「山田くん、君のさっきの感じだと、これから行くところというのは」
「ああ、はい。そうです。質屋に行こうと思ってました。でも、そういうことなら行かない方がいいですよね」
正和がうなずく。
「けど、そうするとこれからどうすれば……」
「そのことだが儂に考えがあってね。……おい!」
正和の声に、糸目の男性が入室してきた。
その男の第一印象は「ゲッツ!」だった。
なぜなら真っ黄色のスーツを着ていたからだ。
ただし、本家(?)と違って、この男は見るからに胡散臭い。
糸目もそうだし、オールバックに撫でつけた髪型もそうだし、口許に貼りつけたような笑みもそうだ。
男は田助のそばに来ると丁寧に腰を折り、名刺を差し出しながら言った。
「どうも、道本と申します。以後、お見知りおきを」
丁寧すぎるのも逆に胡散臭く感じる。
「この道本に一括して卸さないか?」
正和の言葉を聞きながら、田助は受け取った名刺に視線を落とした。
【道本商会 tel 080-XXXX-XXXX】
それしか書いていない。
「自分は古物だったり、美術品だったり、まあ、他にもいろいろなものを扱っておりまして」
「はぁ」
「山田様が質屋に流していた商品ですが、自分に任せていただけるのなら、最低でも今までの十倍の値段で捌く自信がございます」
「なるほ――え、十倍? 最低でも!?」
「ええ、ええ。最低でもでございます」
驚き、ゴクリと喉を鳴らしてしまった田助に対して、道本がしてやったりという感じで微笑んだ。
田助は表情を引き締め直して、
「……こちらとしては断る理由がないですね」
まず、正和からの紹介であること。
なので、胡散臭い感じはするが、身元は保証されているだろう。
あと、いちいち今日はどこの質屋に売りに行こうと考えなくて済むのもいい。
何より、最低でも十倍というのは、やっぱり魅力的だった。
「道本さん、ちなみに商品はどれくらい卸していいんですか?」
「いくらでもかまいませんよ」
「本当ですか?」
「ええ、ええ。すべて捌ききる自信がございますので」
言質は取った。
田助は正和に部屋を貸して欲しいとお願いした。
商品を用意するからと。
正和は田助がこれからやろうとしていることに気づいたのか、ニヤリと笑って大きな部屋を用意してくれた。
「では、ちょっと待っていてください。用意してきますので」
二人をその場に残して、田助は大きな部屋の中に入る。
そうしてアイテムボックスに収納していた金貨やアクセサリーなどを、この部屋いっぱいに取り出した。
その後、部屋を出て、二人の元に戻る。
「用意できました」
「え? もうですか?」
道本が驚いているが、こんなのは序の口だ。
金貨やアクセサリーなどがみっちり詰まった部屋の前に案内して、
「さあ、どうぞ。見てみてください」
道本にドアを開けるように促した。
「では……」
戸惑いつつもドアを開けた道本は、部屋の中を見て、ビシッ!! と凍り付いた。
「…………!? …………!! …………!!!!」
声も出ないほど驚いているらしい。
してやったり。
今度は田助が、そんな顔で笑ってみせる番だった。
「いくらでもかまわないんですよね? すべて捌ききる自信があるとついさっき言ってましたし」
「……た、確かに言いましたが、まさかこれほどとは。しかもこのような短時間のうちに。これはいったい……?」
そこで道本は正和をちらりと見た。
正和は首を横に振って、詮索するなと言外に匂わせた。
それだけで道本はうなずき、納得を示した。
「どうやら自分はとんでもない方に仕掛けてしまったようでございますね」
聞けば商売柄、取引相手に舐められないようにああいう態度を取ったりするらしい。
「素直に脱帽でございます。山田様、今後ともどうかよろしくお願いいたします」
そう言って素直に頭を下げる姿は誠実そのものだった。
だから田助も同じように頭を下げる。
「こちらこそちょっとやり過ぎてしまいました。今後ともよろしくお願いします」
「……これでちょっとでございますか?」
「え? あ、はい。まあ」
「ちなみに在庫はあとどれほど……?」
プロポーズする時にモンスターを倒しまくって資金を得たわけだが、その後、アンファがレベルアップして新しく作り出したダンジョンでモンスターを倒して、倒して、倒しまくって、運の数値が【1】というハンデがあるものの、それなりにドロップするようになっていたので、
「最低でもこの十倍ですかね」
気がつけばそれぐらいになっていた。
衣子は「すごいです!」と褒めてくれたし、アンファは「たーう!」と驚いていた。
「なるほ――え、十倍? 最低でもでございますか!?」
道本の言葉がなんか聞いたことがあるなと思ったら、ちょっと前に田助が言ったものだった。
「い、いやはや……山田様は規格外のようでございます」
「あ、あれ? 呆れられてます? もしかして」
「いいえ、いいえ! とんでもございません! むしろその逆でございます!」
道本は糸目を思いきり見開いて、田助に身を寄せてきた。
「山田様と取引できることの喜びを噛みしめているのでございます! 山田様」
「は、はい」
道本の剣幕に、田助はのけぞる。
「この道本、山田様よりお預かりしたこちらの品物、すべてきちっと販売させていただきます! 最低でも百倍の値段で!」
「あ、はい。よろしく――って、百倍!?」
「では、さっそく取りかからせていただきたいと思いますので、これにて失礼いたします!」
道本が内ポケットから携帯電話を取り出し、どこかに電話しながら立ち去る。
どうやら田助の行動が道本のやる気スイッチを全力で押したみたいだ。
「あの道本がこんなに興奮するとは。儂の想像以上だ。さすがだな、山田くん」
正和によれば道本はいろいろと難しい人物らしく、あれほどやる気になった道本は付き合いの長い正和でも初めてだとか。
驚きの方が強かったが、悪い気はしない田助だった。






