16:許婚がモンスターを倒してみた
今まさに自分に襲いかかろうとしているスケルトンに対して、漆黒の装備で身を固めた衣子が自ら飛び込んでいく。
「危ない……!」
と叫ぶ田助だったが、次に目撃することになる光景に唖然となった。
衣子が得物である漆黒の小刀を抜くと、恐るべき速度でスケルトンに斬りつけ、あっという間に細切れにしてしまったのである。
田助はこうなる前のことを思い出していた。
「さて、これからダンジョンに挑戦するわけだが」
衣子に万が一があってはいけないと、金塊を現金化した資金をすべてぶち込んで、異世界ストアで衣子のための装備を購入することにした。
「田助様の生活費がなくなってしまいます!」
「まあ、そうなんだけど」
「つまり、いよいよ私に養われる気になったという理解でよろしいでしょうか?」
ダメです。
「そうじゃないだろ!?」
「わかっています。ちょっとした本気――ではなく、冗談です」
「今、本気って言わなかったか?」
「はい、言いました」
「誤魔化そう!? そこは一応、誤魔化そう!?」
「将来を誓い合った人に嘘をつくなんて許されませんから」
やわらかく微笑めば許されると思うなよ?
まあ、田助は許すのだが。
「あの、私の装備ですし、私がお金を払った方がいいと思うのですが。だんじょんを堪能したいと言い出したのも私ですし」
「いや、ここは俺に出させてくれ」
「ですが……」
「格好つけさせてくれよ」
「田助様はそんなことをしなくても充分素敵で、格好いいです」
キリッと言い切る衣子はとても男前だった。
「ま、まあ、なんだ。あれだよ。衣子は俺の、だ、大事な許婚だからな」
田助の言葉に衣子がうれしそうに「ありがとうございます」と言った。
というわけで、現段階で購入できる最強装備を購入したのである。
――それが今、衣子が装備している漆黒シリーズ(田助が命名)だ。
衣子の安全性を最優先に防御力の高いものを選ぼうとした田助だったが、衣子は動きが阻害されるのはちょっと……と難色を示した。
それなら、いざとなったら自分が守ればいいと田助は考え、衣子の提案どおり、動きやすく、回避率がアップする装備を中心に選んだ。
その結果、何だか忍者というか、異世界風クノイチっぽい感じになったのだった。
さて、あっという間にスケルトンを倒した衣子。
万が一の時に備えていた田助だったが、その必要がなくてホッとした。
アンファも同じように「な~ぅ」とホッとした表情を見せる。
ライバル関係であるはずなのに、その様子に田助はおかしくて笑った。
衣子が話しかけてくる。
「どうですか、田助様」
「すごいよ。な、アンファ?」
「まー!」
「で、今のは何だ? 東雲流暗殺術の奥義なのか?」
「いいえ? 今のはただの肩慣らしですよ?」
「え……肩、慣らし……?」
「はい」
どうやら田助の許婚はいろいろと規格外らしい。
「あと田助様、これは何でしょう?」
そう言って衣子が地面に落ちていた何かを拾い上げる。
渡されたそれを受け取って、眺めてみた。
一見したところ、ただの石ころに見える。
が、微妙に熱を感じるというか、石の奥にほのかな光が見えた。
「これは……!」
田助の想像どおりなら魔石だ。スケルトンの。
焦る気持ちを抑えながら鑑定し、想像が間違っていなかったことを確認する。
「すごい! 魔石がドロップした!」
「魔石……? というのは何ですか?」
「うーん、何て言えばいいのか」
田助が好んで読んできたWEB小説を引用する形で説明する。
魔法の触媒になったり、魔導具と呼ばれるファンタジーな機械を動かすエネルギーになったり、用途はいろいろだ。
「けど、今のところ使い道はない!」
「……使い道がないのに、田助様はどうしてそんなにうれしそうなんですか?」
それはモンスターを倒せば、今回は魔石だったが、アイテムがドロップするとわかったからだ。
今のところ田助は一度もドロップしていないが、希望は捨てない。
いつか必ずドロップさせてやる! と思っている。
それに何より、
「モンスターを倒して、こうして魔石を手に入れるっていうのはやっぱりお約束だし、胸が熱くなるんだよ。何だか冒険者になったみたいで!」
「では、この魔石は田助様にプレゼントいたします。私にこの装備をプレゼントしてくださったお礼です」
「マジで!? ……あ、いや、心の底から欲しいけど、これは衣子が持っておくべきだ。初めてドロップしたアイテムなんだから、その記念に。絶対に」
そう言って田助は衣子にスケルトンの魔石を渡した。
モンスターからアイテムがドロップすることがわかったため、田助はアンファを衣子に預けてスケルトンとゾンビを倒しまくった。
だが、どれだけ倒してもやはりアイテムはドロップしない。
魔石がドロップしたのは勘違いだったのか?
そう思ってアンファを預かり、衣子に倒してもらえば魔石は毎回必ず、それ以外のアイテム――骨だったり、金貨だったり、アクセサリーだったりも、10回に1回の割合くらいでドロップした。
それらを衣子はすべて田助に渡した。
今度こそ装備のお礼として受け取って欲しいと。
ドロップアイテムはドロップさせた者の持ち物だと田助は言ったのだが、衣子は頑として譲らず、伝家の宝刀を抜いた。
「では、田助様を私に養わせていただけるのなら、受け取らなくてもけっこうです」
「謹んで受け取らせていただきます!」
金貨やアクセサリーは鑑定した結果、それなりにいい値段になりそうだった。
衣子から受け取ったドロップアイテムをアイテムボックスに収納する田助。
「くそっ! 俺は絶対に諦めない! 必ずドロップアイテムを自力でゲットしてやる! スケルトンはどこだ!? ゾンビは!? 俺に倒されろ……!」
廊下を曲がったそこは突き当たり――のはずなのだが。
「え?」
下りの階段が、ぽっかりと暗い口を開けていた。




