11:許婚ができた
田助は正和の発言を冗談か何かだと思ったが、言った正和自身も、それどころか衣子も、顔が真剣と書いてマジと読む感じだった。
「い、いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ! 何で結婚なんて話になるんですか!?」
展開がいきなりすぎて理解が追いつかない。
「山田くんの人柄を改めて知って、君になら衣子を任せられると考えたのだ。山田くん、衣子は祖父の儂が言うことではないが、よくできた娘だよ」
ちらりと衣子を見る。
胸は大きいのに腰回りはきゅっと引き締まっていて、まさに出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるナイスバディだ。
「どうだ? いい体だろう?」
「はい!」
と思わずうなずいてしまって慌てたが、衣子に嫌がった様子は見られず、むしろほんのりと照れていた。
その姿は素直にかわいいと思うし、こんな子と結婚できたらしあわせだろう。
だが――。
「俺、今、無職なんです。だからお嬢さんと結婚できません」
いくら人柄を知って、田助に任せたいと考えても、相手が無職だと知れば無理だと考えるだろう。
この話はなかったことに――。
「ますます気に入った!」
ならなかった。
「何でそうなるんですか!? 俺、無職なんですよ!?」
「問題ない。金なら儂が全面的に援助しよう! 何ならうちに婿養子に入ってもらってもいい!」
「落ち着いてください、オーナー! 正気に戻って!」
「ふははは! 儂は正気だ! 燃えさかるほどにな!」
「それ絶対に正気じゃないだろ!? てか笑い方がなんか悪の親玉っぽくなってるし! ああ、もう! 綾根さん! この暴走老人にあなたからも何か言ってやってください!」
「ふつつか者ですが、末永くよろしくお願いいたします」
「違うから! そうじゃないから!」
田助は混乱した。
「何だこいつら!? 人の話を聞かなすぎる! 俺は無職だって言ってるのにぃぃぃっ!」
田助の絶叫が正和の家に響き渡った。
それからしばらくは混沌とした状況が続いたが、新しく部屋に入ってきた正和の妻、美津子によって事態は収束した。
「うちのがご迷惑をお掛けしましたわ」
正和の首を軽くトンと叩いて気を失わせると、そのまま片手で部屋から引きずり出して行ったのである。
ちなみに美津子は着物の似合う、細身の淑女であった。
何者!? と思って鑑定を使ったが弾かれてしまった。
「山田様、無粋なことは控えていただければ幸いですわ」
「あ、はい。申し訳ございませんでした」
世の中には絶対に逆らってはいけない人がいる。
そのことを理解した瞬間だった。
「あとは若い人たちで」
まるで見合いの時の仲人みたいな台詞を残して出て行く美津子。
残された田助は「美津子、お前もか……!」と思ったが、誰もいなくなったので改めて衣子に確認してみることにした。
何だかんだ言って正和がいたから本当のことを言えないという可能性もあるだろう。
「もうオーナーもいません。だからはっきり言ってください。綾根さん、本当に俺と結婚したいんですか?」
「山田様は私が婚約破棄されたことをご存じですか?」
まったく違う返事が返ってきたことに戸惑いつつも、正和から聞いていたのでうなずく。
「私たちの結婚は家同志の繋がりを強くするためのものでしたが、それでも幼い頃からの将来結ばれると言われてきた許婚です。甘い雰囲気を醸し出すのは難しかったですが、それでも辛い時や苦しい時、支え合っていく家族としてやっていけると思っていました。ですが、私があんなことになって、彼は婚約破棄を……。彼は私を支えようとは思ってくれなかったのです」
絶望して、死のうとした時、救いの手をさしのべてくれる人がいたと、衣子は言った。
「それがあなたです、山田様。あなたの話は祖父からたくさん教えていただきました。そしてこうしてお会いして、聞いていたとおり――いえ、聞いていた以上に素敵な人だと確信しました。私はあなたと結婚したいです」
「本気ですか?」
「本気と書いて本気と読むくらい私はマジです!」
おい。そこまで言うなら最後も本気で締めろよと心の中で突っ込む田助。
「さっきも言いましたが、俺は無職です。これから先も何か職に就くつもりはありません」
何せダンジョンを堪能するのだ。
働いてなどいられるか。
「では、私が山田様を養うわけですね!」
どうしてうれしそうなのか。
「……いろいろとやることがあるので、あなたにかまっていられないと思います」
「放置ぷれい、というものですね」
違います。
「他はありませんか? 私はどんなことでも受け入れますよ?」
何この子、懐が広すぎるなんてものじゃないんだが!?
「…………………………わかった! わかりました!」
「それじゃあ!?」
衣子の顔がぱっと輝く。
「いえ、結婚はまだしません」
「そんな!? 焦らしぷれい……?」
「違うから!」
本当になんなのだこの子は!?
「一緒にいることで、きっと気持ちが変わると思うので。まずはお友だ――」
「許婚で」
「お友――」
「許婚ですよ、田助様。だって私の気が変わることは絶対にありませんから」
「……………………はい、綾根さん」
「衣子」
「……………………………………………………はい、衣子さん」
衣子がうれしそうに微笑む。
こうして田助に許婚ができた。
どうしてこうなった!?






