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偏愛者第一号 神秘的な芳香

偏愛者第一号はある匂いを愛してしまう変な男のお話です。

はーいどうもー。なっぴぃだよん♪

今日から、新しい職場でごわす。

そうそう言ってなかったっけな。引っ越してきたのよ。ちと前に。そいでこれからは最寄りになった田んぼ駅から職場に通いまーす。

どんなたぬきちゃん達にあっえるっかなっ☆


まず、ワイの「ふぁっしょん」を簡単に説明しちゃうねん。

上はおしゃれな短めのTシャツにライダースね。

そいで下は世界で一番浅いと有名な「ハケネーヨ」ってゆー「超・高・級ブランド」のダメージ最高に入っちゃってるジーパン。

下着は絶対に何があっても女性ものの紐パンティ。これだけは譲れない。てかもうこれだけでいいんだけど。え?いいよ。まじ?じゃあ明日からはそうしy……って、私の親友のプー子ちゃんがだめだって~残念。またの機会にするでやんスね☆彡。

靴下と靴は興味ない。まあこんな感じ~って感じ。

するとさ、後ろから見たときいい感じに紐パンが見える訳よ。もうこの絶妙な見え方加減がワイの一日の気分を決めるといっても過言ではない!

因みに今日は大吉。

あ、後ろのお兄さんには秘密だよ?

俺はいつもこの「田んぼ駅」を利用して職場に通っている。

名前は素早 元。すばや、げんって読む。

え?仕事は何かって?

うん。

まあ、えっと、嗅覚研究。ってとこかな。

鼻が、いいんだよね。犬にはかなわないけど。俺、来世は犬に生まれたいかも。したら色々な香りが嗅げるでしょ?

それでさっきからずっと思っていることがある。

今、これだ!っていう香りがするんだ。目の前の人から。俺はこの香りを嗅ぐために生まれてきたんだ!っていうほどの。


目の前のスタイルのいい男性の後をつける。その距離1メートル。

まあ混んでるし、変では、ないよね?

そう思いながらエスカレーターでも元はすぐ一つ後ろのブロックに乗る。

男性の乗っているブロックが少し高くなって意図せず男性の尻付近が視界に入る。

Eh?

Why?

一瞬日本語とその神秘的な香りの事を忘れる。

青い水玉模様の紐パンが確かにそこにあった。

若干、食い込んでる、し?

周囲の人は気が付いていない。

Why?

ああそうか、俺が至近距離を歩いていたから完全に周りの人の視界を遮っていたのか。

そんなことを考えているうちにエスカレーターも終盤に近付き元の目線が男性の肩辺りに戻る。

元はエスカレーターを降りると驚きからか立ちすくんでしまった。

「おい!お前邪魔なんだよ。さっさと歩けコアラ!」

後ろの奇抜なメイクをしたギャルにどつかれやっと我に返った。

「あ、すみません」

元は急いで歩き出す。男性は10m先。

ここにきて目の前の女子高生たちが男性の紐パンに気が付いたのか顔を見合わせてなにやらこそこそと話す。

「ねえ、あれ」

「あれだよね。パンツ」

「そうそう。あはは」

「こら!笑っちゃダメだって」

ショートヘアの女の子がロングヘアの女の子を諭す。

その時俺は見てしまった。

男性が振り返り女子高生たちにウインクするところを。

パチッ☆彡

っときれいなウインク。

それから男性が前に向き直るとき、俺とも目が合ってしまった気がする。

俺は阿保面をカメラで撮られた気分になって慌てて目をそらした。

一方の女子高生たちはその“キラキラウインク”にきゃっきゃと喜んでいる。

「ねえ、意外とイケメンじゃなかった?」

「それな。まじできもいの想像してたからときめいちゃったかも」

「ちょっと芽衣何言ってんの。それはさすがにない」

世間一般ではかわいいといわれるような女子高生二人がはしゃいでいるのを見て少し嫉妬する。

ん?嫉妬?誰に?

違う違う違う。俺はあの人の香りが好きなだけ。あの人の、多分、、、



足の、香り。酸味が、絶妙、なんだ。


ほーらほらほら後ろのjkメスたぬきが喜んでいらっしゃる。

後ろのお兄さんは反応が薄いな。どうしたどうした?「かかし」かなんかかなあ?

トゥルルルルルルル~ドアガ、シマリマス。

「やばいの極み!」

なっぴぃはそういって「宝箱駅行き」の電車に飛び乗った。いや、実際は乗れずに電車の扉とホームドア隙間に入り込んでしまう。

扉が再度開く。うんざりした調子で

「駆け込み乗車はおやめくださーい」

という声が駅のホームに響く。

乗客のサラリーマンも「迷惑だ」という顔をしている。

よーし無事に乗れたZ!

さっきのかかし君がさり気なく乗り込んでくる。

ワイのお陰だぜえ。感謝しろよなおチビちゃん。

それから約20分ほどして「宝箱駅」についた。

途中満員すぎて息ができないほぞだったが終点ともなるとそこまで混んでいない。かかしくんの姿はもうなかった。

なんだよ~つまらんなあ。

なっぴぃは初出勤に胸を躍らせながら駅近の「職場」へと入っていった。

元は職場に電話をする。

「すみません。あたらしい商品の香りでいいものを見つけたので今日はそっちに行かないかもしれません。はい。はい。すみません。」

よし、職場はこれでOK。

例の男性を盗み見る。元はなるべく距離を開けて遠めに眺めた。

途中こみすぎて見失ったが男性は終点まで下りず、電車内ではずっとスマートフォンを眺めているようだった。

腕時計を見る。田んぼ駅から宝箱駅まで22分30秒。とびらが開くと男性はさっと電車を降りた。今になって気が付いたが、男性はモデル歩きをしている。どこまでも抜かりがない。

たまにサラリーマンやOLが彼の秘密(さらけ出しているから秘密ではないか)に気が付き笑っている。

吹き出すやつもいる。見事吹き出した方には彼からウインクというプレゼントを贈呈しているようだった。

駅の改札を出て雑踏の中、2分ほど歩いて、“そこ”に男性は入っていった。

「赤花幼稚園」

表札のようなものがかかっている。

「まじか」

その小さな幼稚園にモデル歩きの彼は入っていく。

変質者が幼児をさらって監禁し、逮捕された。新聞やニュースをあまり見ない元でさえ知っている最近のニュースが脳裏に浮かんだ。

今、元が見ている光景はそういう類の事件が発生する前兆にしか見えなかった。

待て。ここで見ていないふりをして本当に幼児が連れ去られたらどうする?俺は捕まるのか?いや、俺が捕まらなかったとしても彼は捕まるよな。したらあの神秘的な芳香はどうする。

これはまさに千年に一度のアイドルならぬ千年に一度の芳香だぞ。それでいいのか俺。

こんな時でも芳香の事ばかり考えている。しょうがないよな。だって嗅覚研究者だもの。

無理やり理由をつけて俺は幼稚園に入っていく変質者に向かって、そろりそろりと近づく。いまだ!後ろから捕まえる。

よし、たしかに捕まえた!

「おい!何する気だ!」

元は言った。

しかし男性の背が高すぎて抱きしめたみたいになっていることに0.5秒遅れて気が付く。

さっと俺の腕をほどいてこちらに彼が向き直る。

「あ、かかしたぬきちゃん」

「……Eh?」

「大丈夫っすよ~ん。ワイは今日からここで働くで候。じゃねーん」

そういって片手を上げた彼は、幼児の遊ぶ積み木へと、おままごとへと、シャボン玉へと、近づいて行ったのだった。

向かい風が吹いた。やっぱり、たまらない。この芳香。

思わず彷徨しそうになる。

ウサギ小屋から真ん丸な瞳が変態を見るような目で見つめてきた。

違う。俺はHENNTAIじゃない。HENNAIなだけだ。

なんだあのかかしたぬき野郎は。腕があるなんて聞いていない。

俺は漸く幼稚園の玄関にたどり着きドアを開けた。

小さい。小さい。小さい。どこを見ても小さいたぬきしかいない。

そこにメスたぬきが一匹現れ俺を外へ押し戻した。

「ちょっと。どういうつもりです?」

「何がやねん?」

「その恰好。そんな姿、幼児に見せないでください」

なっぴぃは自分の服装を一通り見た。

「やっぱりそうか」

「はい」

「かっこよすぎますよねワイ。」

重症患者を見る目で見られているにもかかわらずなっぴぃは“全力スマイル”で返した。

「あ、竹内先生っていうんですねん(^^)♪よろしくでぇーーーす!この名札かわいい×100でぇす!ワイも欲しくてたまらないよぉ」

なっぴぃの笑顔に「竹内先生」は硬直する。

一度竹内先生は中に戻り、何かを探しに行く。帰ってきたその手には灰色のパーカーとエプロンが握られていた。

「どうしても、その恰好しか無理なら、せめて仕事中はこのパーカーを腰に巻いてください」

「おっけおっけ」

「それから、このエプロンも」

「うお!ちゅうりっぷ柄ですね!ワイこの柄のパンティ持ってるん!」

「あ、はあ」

息を漏らしドン引き、といった様子でなっぴぃを一通り眺めまわした。それからやっとまあいっか。これで。といった表情で頷くと、竹内先生はなっぴぃを中へ入れてくれたのだった。

その日は一日中幼稚園の向かいのカフェにいた。いわゆる彼の出待ち、だ。

3時ごろ母親やらおねえちゃんやらが子供や妹、弟を迎えに来た。

とそこに、彼がいた。急げ!

店をでて植え込みの陰に身をひそめる。

「なっぴぃ」

黄色い名札を付け、変なエプロンを付けている。お尻は、パーカーでかろうじて隠れているが、風が吹く度、危ない。

幼児が全員返って見送りを終えたなっぴぃさんは言った。

「かかし君。でていらっしゃいな。チミ。チミだよ。そこの。」

突然葉っぱの隙間から現れたなっぴぃさんに驚き尻もちをつく。

「チミ、なんでワイをつけてるんさ。」

「いやその」

「いってみなはれ。ワイはどんな趣味でも性癖でも受け入れられるやつなんだぜ」

その声は優しい。

そうか。そうだな。こんな変な恰好をする奴なら、俺のほうがましか。

この人になら言ってもいいか。

「あなたの、あなたの足のにおいが、好きなんです」


「ありがとう」

なっぴぃはいった。

「……。」

「……。」

「それからそれから?まさかそれだけだったりしないですわよね?」

「もっと嗅ぎたいです」

言ってからなにを言っているんだ俺は、と思う。さすがに恥ずかしくなってその言葉を撤回しようとしたところで信じられない言葉の雨が降ってきた。

「じゃあ、やるよ。ワイの靴と靴下☆彡」

ウインクと舌ペロのダブルパンチである。

「さらば」

なっぴぃははだしで幼稚園に戻っていった。

風が吹いた。

水玉が輝く。

水滴が落ちてくる。

「俺は、別に、なっぴぃさんが好きなわけじゃない。でも、嫌いじゃないかな」

元は靴と靴下を塗れないようにビニール袋にいれた。

そして、また明日同じ時間に駅へ行こうと決めた。

彼に会うために。













気分を害された方、もしいらっしゃいましたらすみません。

これからもこんな砕けた感じで進んでいくつもりです。

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