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 キッカの気持ちを改めて確認し、これで今度こそ幸せな新婚生活を送れる――と思ったが、セランはもうひとつ気がかりが残っていることに気付いてしまった。


(……うーん)


 夫となった人は機嫌よく空を見上げながら歌っている。

 セランにしか聞こえないというのは本当らしく、その点は愛されているようで嬉しい。

 しかし、である。


(まだキッカの素顔を見たことがないんだよね……)


 どんなときでもキッカは仮面を装着していた。

 くちばしのない顔を晒せるか、というのが言い分だが、もともとくちばしなどなく、常に晒し続けているセランにはさっぱり理解できない。


(あの仮面を無理矢理奪いたいわけじゃない。でも、これって夫婦としてよくないと思う……!)


 隠し事をするのはいけないのだと、ティアリーゼが教えてくれた。

 だから気持ちを伝えるべきだということで、キッカとの微妙なすれ違いも解消されている。もっとも、あれもセランのために忙しい日々を送っていただけで、最初から好きだの好きではないだのと不安に思う必要はなかったのだが。


(どうにかして、合法的にキッカの仮面をはぎ取りたい)


 セランがそんなことを考えているとも知らず、キッカは歌詞のない愛の歌を今日も歌い続けていた。


 その日からセランのささやかな戦いが始まった。

 気を付けて過ごしてみれば、意外とキッカには隙が多い。


「キッカー、起きてるー……?」


 外を好むキッカは、特に用がなければバルコニーに出ている。

 端の方で欄干にもたれ、昼寝することも少なくはなかった。

 横になって眠らないのは、なんとなく落ち着かないからだとのこと。しかし今は逆にそれがありがたい。寝ている状態では仮面も外しづらいだろうから。


(今なら……)


 そろりと近付いて、眠るキッカの顔に手を伸ばす。

 心臓が緊張と期待で激しく高鳴っていた。

 眠るときにこっそり見るのが果たして合法なのかどうか、そこはまず置いておく。

 恥ずかしいと言うなら、本人が気付かない間に見てしまえばいいのではという思いから、あと少しの距離を縮め――。


「…………んあ?」

「うひゃっ」


 ぱっとキッカが顔を上げたせいで、勢いよく飛びのいてしまった。


「なんだよー。起こすなら声かけろって」

「び、びっくりさせようと思ったの」

「はは、びっくりしてんのはお前の方だったなー」


(失敗……!)


 ふあ、とあくびをしたのを悔しい思いで見つめる。

 人の姿を取っていてもやはり獣は獣である。しかも相手はその獣たちを統べる魔王。隙は見せても、肝心なところまでは踏み込ませない。

 セランも同じように獣ならもう少し勝ち目があっただろう。だが、どうあがいたところで人間であることはやめられない。

 かといって、同じ亜人の誰かにキッカの素顔を暴いてほしいとは思わなかった。

 おそらく、キッカは素顔を誰にも見せたことがない。だとすると、それを見るべきなのはつがいとして選ばれたセランではないのか。そんな思いがあったからだ。


(次こそは……)


 昼寝中は思っているよりもうまくいかないのかもしれない。

 そう考え、セランはすぐに次の作戦を練り始めた。

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