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 ぺたり、となにか生暖かいものが頬に触れた気がした。

 なんだかそれがとても優しいものに感じられて――だからこそ、そう感じるのはおかしいのではないか、と徐々に頭が動き出す。

 再び、ぺたり、となにかが触れた。今度は頬ではなく、額である。

 どうやらそのなにか――手のようだ――はセランの肌に触れて回っているようだった。

 確かめるような手つき。しかし、なにを。

 三度みたび触れた手はセランのまぶたの上に。

 そうされて初めて、まぶた越しに光を感じていたのだと知った。

 手が離れて再び淡い光が入ってくる。

 おかしい――とまだあまりうまく回らない頭で考えた。


(ナ・ズに生きる翼を持つ民は、砂漠の真ん中にある大きな木の頂上に招かれるっておばあさまが言ってた。今はもう飛べなくても、必ずお迎えが来るんだって)


 もし曾祖母の言葉を信じるなら、セランは息絶えた後に招かれたのだろう。

 ――だが。


(私に翼なんてない)


 自分は招いてもらえないのかと聞いたセランに、曾祖母はこう言った。

 ――羽ばたける心があれば、王はどんな者でもその翼の下に受け入れてくれる。

 王というのがなんなのか、曾祖母は特に詳細を伝えなかった。

 大きくなったセランはその言葉がなにを表すものかを知っている。

 金鷹の魔王――ナ・ズを守護するもの。


(もし。……もし、本当に私を招いてくれたのなら、ここにおばあさまがいる?)


 ぼんやりしていた頭が急速に覚醒する。

 大好きだった曾祖母。もう一度会えるなら、こんなに嬉しいことはない――。


「おばあさま!」

「うおぁっ!?」


 勢いよく起き上がったセランの真横で、妙な声が聞こえた。

 考えるよりもそちらに顔を向け、おお、とあまり女らしくない反応をしてしまう。

 まず、短い小麦色の髪が目に入った。こめかみの辺りに木のビーズが三つ垂れ下がっている。しかし、そんなものよりもまず気になったのは顔全体を覆う奇妙な仮面だった。

 普通の面ならば祭祀で見かけることもある。だが、これはそのどれとも見た目が違っていた。ちょうど鼻あたりからその下にかけてが突き出すように尖っている。なにに似ているかと言えば、くちばしに似ているというのが一番近い。

 よくよく見れば、くちばしの下は塞がれていなかった。この人物を下から見上げれば、そこから顔が見えるだろう。こんな奇妙な人物にそうした真似をしたいかと言われれば話は別だが。

 まじまじと観察してから、セランは自分も見られていることに気が付いた。

 仮面の向こう側から、金色の瞳がこちらを覗いている。

 思わずぎょっとするほど鋭い光だった。

 さながら、鷹のように。


「あ……あなた、誰?」

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