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15


 ――どさり、と鈍い音がした。


「いったぁ……」


 思わず呻いたセランを、男が忌々しげに睨む。


「てめぇ、女どもを逃がしやがって……!」

「逃げられたくないなら、なんであの部屋に閉じ込めたの? 自分の使ってる家のこともわからないなんて、どうかしてるんじゃない?」

「この……っ!」

「おい、やめろ!」


 別の男が顔を真っ赤にして怒る男を止める。


(これからどうなるかな)


 結論から言えば、セランは無事だった。

 部屋にやってきた男は、女たちがセランを残して跡形もなく消え去っていることに目を剥いた。どこに行ったのかと尋ねられたが、セランが教えるはずもなく。

 愚かにも男たちは部屋の中を探し始めた。どこへ逃げたのかよりも、どこから逃げたのかを優先したのである。

 セランにとって非常にありがたいことだった。もともと時間稼ぎのために残ったのだから。

 セランは「みんな、窓から出て行った」と嘘を教えたり、「見張りに協力してもらった」と仲間同士で険悪な空気が生まれるよう、うまく動いた。

 だが、それも絨毯の下を見つけられてしまうまでだった。

 男たちは驚いたことにこの通路の存在を知らなかったらしい。もともとここに住んでいたのではなく、ただ空き家があったから拠点としていただけなのはないか、とセランは思った。

 まだ、安心できるほどの時間稼ぎはできていなかった。このまま穴の奥へ進ませるわけにはいかず、男たちに向かって「この通路がどこに繋がっているかを確かめた方がいいのでは」と提案した。

 この通路のことを知らなかったのだから、行き先がどこかもわかっていないだろう。そして、それを知る人間を探すのにも時間がかかる。うまくいけば、行き先がわからないまま無駄に時間を使わせることができるのではと思った。

 最も最悪な状況になるのは、この先のことを知る人間がすぐに出てきてしまうことである。だが、隠し通路にうろたえ、憤る姿を見ていることからその線は薄いだろうと賭けに出た。

 いなくなった女たちがどこから逃げたのかを最初に確かめようとしただけあって、男たちはあまり頭が回らない。しかも下っ端の人間は統率も取れていないようだった。

 怒鳴り合い、あれこれと文句を言いながら、いつの間にかセランの言葉に踊らされる。

 願った通りに通路の中を抜けるのではなく、外のどこに繋がっているかを探そうとし始めた。

 セランは危険な賭けに勝ったのだ。

 しかも、運のいいことにどこと繋がっているかを知る者もいなかった。これもやはりセランの狙い通り、ただ拠点にしていただけで屋敷内のすべてを把握しているわけではなかったらしい。

 その混乱に乗じて自分も逃げ出そうとしたセランだったが、最後の一人がそう簡単に逃がしてもらえるはずもなく、厳重に縛り上げられ別室に移動させられてしまった。

 そうして、今に至る。


(そこそこ時間稼ぎできたと思うけど……大丈夫だったかな)


 目の前で言い合う男たちは放置し、皆の無事を祈る。

 やがて、男の一人がセランを乱暴に引っ張り上げた。

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