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 なるべく笑顔を作りながら話す。

 しかし、本当はセランにもそんな余裕などない。


(……どうすればいい)


 本当は不安だった。

 自分のしていることが正しいのか、本当に脱出に繋がるのかわからない。

 だが、セランは自分の思いつくことを伝えるしかできなかった。

 なにもせずに悩むのは性に合わない。だったらまず動いてみた方がいい。


「その六人で……そうだね、次の食事が運ばれてくるまでに仲良くなっておこう。そうしたら、また夜の分の食事までに今度は脱出方法を相談する。食事が終わったら、それぞれどんな方法が出たか話し合う。どうかな?」


 誰も異論はなかった。他に案などないのだから、セランに従うしかないのである。

 気付けば、自然とセランが彼女たちを治める立場に落ち着いていた。

 最初に希望を語り、なにかとこうして全員に提案するせいもあったが、元来の行動力が不安がる女たちを惹きつけている。

 今、セランという存在が安心感を与えていた。

 セラン自身そう思っていたから、一瞬も恐れを顔に出さないようにする。


(全員で逃げるには、全員で力を合わせなきゃならない。でも、どうしたら?)


 女たちはためらいながらも六人の組を作っていった。

 セランの周りにも六人集まる。その中にはミウもいた。


「改めて自己紹介するね。私、セラン。どうやらすごーく高い値段がつくみたいだけど、勝手に売りさばかれるなんてまっぴら。貴重な商品は扱いが難しいってこと、あの人たちに嫌ってくらい教えてあげようと思ってる」


 ふふ、と笑う声が聞こえたことにほっとする。

 セランの周りに集まった女たちはミウ以外に、リア、アレンナ、セオ、ユエンといた。さすがにこの人数であれば顔と名前が一致する。


「あの……」


 そろりと手を挙げたのはアレンナだった。

 生まれも育ちもウァテルで、二人の子供がいるとは思えない美しい女性である。


「仲良くなっておくって話でしたよね。脱出に関係ない話をしてもいいんですか……?

「私はいいと思う。すぐ逃げたい気持ちはあるけど、そればっかり考えてたらおかしくなっちゃうよ。まずは心を落ち着かせるところと、仲間がいるんだってことを覚えるところから始めよう?」

「じゃあ……ナ・ズのことを教えてほしいです。夫が地質学者をしていて、いつか二人で砂漠を見に行ってみたいと……」


 アレンナが言葉を詰まらせる。

 思いを察し、セランはその背中を撫でた。


「そういう気持ち、我慢しなくていいと思う。帰りたいって思ったら、絶対帰れるもの」

「ありがとう……」


 そうして、一人一人の話を聞いていく。

 帰りたいという気持ちを補強し、帰れるという希望を後押しした。

 もちろんセランにだってこの後どうなってしまうかはわからないが、鬱々としているよりはずっと建設的な行為である。おかげでセランの組の女たちは皆、目に光を灯すようになった。

 なんとなく周りを確認すると、他の組も互いの思いを口にし合ったり、この状況に憤ったりと自分たちの感情をさらけ出していた。


(うん、ちょっと元気出てきたね)


 砂漠に生きてきたセランは知っている。

 真っ先にやられ、命を落とすのは心の弱いものから。いつだって諦めた者から取って食われてしまう。

 ほっとしながら、ナ・ズの話をしたり、他の者の話を聞いたりしていく。

 それぞれの話に夢中になっていたとき、乱暴に扉が開いた。

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