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 ――それからセランはその亜人――カフという名のはやぶさだった――とよく話すようになった。

 カフは人間というものがわからなくなったと言い、セランを通じてもっと知識を深めていきたいと言った。

 驚いたことに学者らしく、ナ・ズの気候や風を研究しているらしい。人間を知りたい、という知識欲は学者気質によるものだとのことだった。

 それを聞いて、正直に言うとセランは落ち込んだ。学者にすら勝てなかったのである。カフは亜人の戦闘力を語り、特に肉食の獣である自身は本能から戦うすべを知っているのだと諭してくれた。

 セランが人間のことを教えると、カフは鳥について教えてくれた。同じ鳥の亜人でも様々な種類がいるのは知っていたが、中には飛べない鳥もいるという。翼の代わりに足が発達し、土を掘ることのできる鳥もいるとのことだった。

 キッカに教えれば先日の水不足について話したことに生かせるのではと思ったが、あれからあまり話す時間が取れていない。

 グウェンが来たあの日から、どうも忙しくなったようだった。例の鉱石についてまた進展があったようで、そちらにつきっきりだと言う。

 寂しさを感じないと言えば嘘になるが、今、セランは別の計画に夢中だった。

 それはもちろん――。


「カフ、準備できたよ」

「本当にいいのか?」


 カフが心配そうに問いかける。


「もちろん。むしろ、あなたは本当に大丈夫?」

「俺は構わないよ。しばらく休みがあるし。それに、一度南に行ってみたかったんだ」


 そう、セランはウァテルに行くことを諦めてなどいなかった。

 できることがあるなら協力すると言ってくれたカフに、だめもとでセラン自身の運搬をお願いしたのが数日前。驚かれはしたが、意外なほどすんなり承諾された。

 いわく、カフ自身も南の地に興味を持っており、いい機会だと思ったとのこと。

 二人はそれぞれ準備をし、そしてようやく今日を迎えた。


「忘れ物は? もしなにかあったら、今ならまだ間に合うよ」

「ううん、大丈夫」


(キッカにもちゃんと手紙を書いてきたし)


 キッカはセランがカフと仲直りをし、親しくしていることを伝えてある。

 あの事件を知っていながら、キッカは大丈夫かとも心配だとも言わなかった。

 本来、カフは本当に気のいい男なのだろう。あんな風に他人を襲い、殺そうと傷付けるような人物ではない。ただ、親を殺した仇と同じ種族だと思ったせいで、獣としての本能が露出してしまった。

 亜人たち獣には、報復を是とする考え方がある。一人を傷付けられたことに対し百を殺しても、本人の気が済むなら問題ないという。だからカフがセランを襲うのは彼らにとっては正当なことで、報復行動に出たことを咎め続けたりはしないのだ。

 セランに対する報復はしない、とカフが言っていたことを告げると、キッカはよかったと言ったものだった。

 ただ、妙に気にしているようだったことだけが引っかかっている。


「じゃあ、行こうか?」

「そうだね。遅くなっちゃったら困るし」


 ふ、とカフの姿が溶ける。

 瞬きの間に、一羽の大きな隼がいた。


「こんなに大きいんだ……」


 背に乗るよう促され、恐る恐る乗ってみる。

 以前、二部族が抗争していると聞いて調べに行ったときも鳥の背に乗ったが、あのときとはまた羽根の感触などが違っていた。


(前はもっと大きかったけど、あの人は人間の姿をしていたときから大きかった。カフはあんまりそんな感じ、しないのに)


「ちゃんと掴まっててくれよ。じゃないと、海の真ん中で落としたら話にならない」

「それはそれで気になってるんだよね。海ってたくさんの塩辛い水なんでしょ? どんな感じなのか体験してみくて」

「やめておいた方がいいんじゃないかなぁ」


 鳥の姿のままカフが笑う。くくく、という独特な音は鳴き声のように聞こえた。


(おいしい魚が手に入りますように)


 そう願ってカフの背にしがみつく。

 一拍置いた後、隼はセランを乗せて空に飛び上がった。

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