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それから数日、セランはせっせと情報収集に努めた。
誰かを見かければ必ず声をかけ、南の大陸に行ったことがあるかと尋ねる。
ほとんどの亜人たちは首を横に振った。頷いたのは予想していた通り、鳥の亜人たちばかりである。
セランのような飛べない生き物でも早くたどり着く方法があるかと聞けば、それには全員が申し訳なさそうな顔をした。
どうあがいても人間であるセランは数か月を覚悟する必要があるらしい。
こうして聞いている間に旅立った方が早いのでは、と思い始めて更に数日が経った頃だった。
「こ、こんにちは」
たまたま外の回廊でばったり出会ってしまったのは、忘れもしない、以前セランを殺そうと襲ってきたあの鳥の亜人だった。
(どうしよう!)
あのときはまだ得物が手にあったが、今は完全に手ぶらである。無防備すぎるセランに身を守るすべはない。
なるべく友好的な笑みを作りながら、じりじりと下がる。
セランを見て驚いていた亜人が、それを引き留めた。
「ごめん、君が逃げるのもわかる。わかるけど……少し話す時間をくれないか。ずっと謝りたかったんだ」
「私に?」
驚いたセランが立ち止まる。
疑おうとは思いもしなかった。
「俺の親は人間に殺されたんだ。翼狩りにあって……」
キッカも苦い顔をしていた、翼狩り。亜人たちを襲い、身体の一部を高値で売りさばくという。最初に犠牲になったのが鳥の亜人だったから、翼狩りという通称になったのだとどこかで聞いた。
「だから、人間は……嫌いなんだ」
「そうだったの……」
一度は引いた足を前に出す。
そうして男に近付くと、セランは自分の手を差し出した。
「そんな事情があったなんて……。だったら、私を殺そうとしたのも仕方がないよね。もう怒ってないから、仲直りしよう?」
「……いいのか? そんなにあっさり許しても」
「謝ってるのに怒り続けるのは疲れちゃうよ。それに私、お友達が増えることは歓迎していきたいの。ほら、ここはまだ知らない人の方が多いし」
「……人間にもいろいろいるんだな。俺はてっきり、君もここで誰かを狩るつもりなんだと思ってた」
「ああ……あのとき、武器を持ってたしね」
「だけど、俺たちが全員同じ個体じゃないように、人間もいろんな種類がいるんだって諭されたんだよ。……実はあれから、ときどき君のことを調べたんだ」
「えっ」
「君はここにいる間、誰のことも傷付けていなかった。傷付けようともしなかった。なのに、俺は……」
「ううん、本当に気にしないで」
命を狙ってきた相手とこんな風に話せている事実は、まだセランに奇妙な感覚を訴えていた。
だが、たとえ仮面で表情が見えずとも、本当に申し訳なく感じていることは伝わってくる。
「私もあのとき、あなたに怪我をさせちゃったと思う。大丈夫だった?」
「君に傷付けられるようじゃ、俺は今すぐ風切り羽根を切らなきゃならない」
この男もまた人間ではないのだとしみじみ実感する。
独特な例えを使うのは、キッカを含めた鳥の亜人に共通することだった。
「君に謝れてよかった。あのときのお詫びじゃないけど、もし俺にできることがあったら言ってくれ。協力するよ」
「ありがとう。でも、今はお友達になれたのが嬉しいな」
ああ、とセランがあることに気付く。そして笑った。
「大切なことを忘れてた。私、セランって言うの。あなたの名前は?」




