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「わわっ!」

「うっわ」


 二人の驚いた声が重なる。

 転びそうになりながら一緒にそこを離れると、ひび割れた大地がみるみる潤っていった。

 くぼんだところに水が溜まり、やがて溢れて隣の土を削る。そうしてまたくぼみが深くなり、どんどん水の溜まり場が広くなっていった。


「すげー、なにが起きてんだ?」

「地下水かも……? ここまで出てくると思わなかったけど……」

「なんだそれ」

「知らない? 砂を掘るとたまに水が出てくるんだよ。なかなかいい井戸は掘れないけどね。でも、ここまですごいのは初めて」


 集落にいた頃、セランは井戸掘りを手伝ったことがある。

 そのときは掘っても掘っても乾いた砂に吸収され、こんな風に水が溜まることはなかった。


「お前……平然としてるけど、これ、相当すごいことじゃねぇのか」

「オアシス掘り当てちゃったかな?」

「いや、そうじゃなくて――」


 ぷしゅ、と勢いのいい音がした。

 かと思うと、今度は別のひび割れから空に向かって水が噴き上がる。


「ここ、もしかしてたくさん水があるところの上だったのかも! すごいね!」

「いや、そんな呑気なこと言ってる場合か? ――って、うわっ!」


 次から次へと噴き出した水がキッカの上に降り注ぐ。


「くっそ、濡れるの嫌いなんだよ……!」

「あはは! でも、気持ちいいね!」


 火照った顔に降り注ぐ水は冷たい。

 思っていたより泥の割合も少なく、これならいつまででも浴びていられそうだった。

 逃げまどうキッカとは対照的に、セランは楽しく水を浴びる。

 もやもやした思いや、言葉にできない気持ちをすべて流そうとするかのように。


「キッカももっと遊ぼうよー。せっかくオアシス誕生の瞬間なのに!」

「うっせ、だからって濡れんのは嫌なんだ!」

「あはは、そこまで?」

「笑ってねぇで、すぐここ離れるぞ!」

「えー」

「えー、じゃねぇよ! さっきの奴らが様子見に来たらどうする!」

「あ、そっか!」


 さっきまで二人のいた場所は、もう感想した岩場ではなかった。

 オアシスと呼ぶにはまだ殺伐とした光景だが、時間が経てばやがて草木が生え、そう呼べるだけの場所になるだろう。


(オアシスってこうやってできるんだなぁ。今まで考えたこともなかった。うちの集落の近くにあったあそこも、私が生まれたときにはもうあったわけだし……。……そっか、あそこの水がなくならないのって地下から水が湧き出してたからだったんだ……)


 その場を離れながら、一度だけ振り返る。

 遠くに見えた人影は恐らく先ほどの追手たち。

 だが、もうセランたちを追いかける気にはならないだろう。

 これだけの水があれば、いったいどのくらい仲間たちの喉を潤せるか――。


(そっか、地下水のこと……完全に忘れてた)


 乾いた大陸の深刻な水不足。

 魔王になった暁には解消したいと思っていたが、思いがけないところでその方法を見出した気がした。

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