表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/92


「あなた……婚礼もまだなのに、私と夜を過ごすつもり?」

「今時、新婚初夜まで清いままの子の方が少ないよ」

「少なかろうがなんだろうが、私はそういうのよくないと思う」


(そもそも、心の準備が全然できてない……!)


 セランはじりじりとラシードから距離を取ろうとした。

 他の部族との諍いや、獣の対処などは最低限こなせる。恐らく多少はラシード相手にもやれるだろう。

 が、なんと言っても相手は婚約者であり、セランより二つも年上の男である。多少戦えたところで全力を出すわけにはいかず、そうなれば結局向こうに自由を許してしまう恐れがあった。


「婚礼の日まであとちょっとじゃない。そのちょっとさえ待てば、なんにも問題ないんだよ……?」

「逆に考えてほしいな。そのちょっとがどうしても待てないから、今夜君のもとに来たんだ」

「わ、私のこと……そんなに好きだったの……?」

「…………それはもちろん。婚約者だしね」


(今、間があったじゃない! 絶対嘘! 嘘に決まってる!)


「好きだって言うなら、今夜は引いて。……私の身体は、私を大事にしてくれる人にしか差し出せない」

「……君は僕のことをどうとも思ってくれていないのかい?」

「大切な婚約者だと思ってる。でも、今夜はだめ」


 頑ななセランを見て、ラシードはあからさまにがっかりした様子を見せた。

 穏やかだと思っていた目からも、欲を秘めたぎらつきが消える。


「わかったよ。だけどまさか、こんな風の強い日に僕を追い出そうなんて言わないよね?」

「だったら私が出て行くわ。それならいいでしょ」

「えっ」

「それじゃあ、おやすみなさい」


 毛布だけ奪って、後は振り返らずに天幕を出る。

 外はやはり強い風が吹いていた。

 唇を噛み締め、どこへ行こうか逡巡する。


(ほんとに『ケダモノ』が来るなんて、誰が予想するって言うの)


 セランは非常に怒っていた。

 恋も愛も知らないが、今のラシードの行為が婚礼の神聖さを汚すようで。


(風邪を引いたら、婚礼の日取りが変わったりしないかな!)


 毛布を身体に巻き付け、足音荒く避難場所を探しに向かう。

 最終的にセランが向かったのは、アズィム族の食料を保管する天幕だった。

 自分の眠る場所に比べれば隙間風はひどいし、風の音も大きい。干し肉などの食料のにおいも入り混じり、眠ることを考えると最悪の環境である。


(でも、自分のところで寝るよりいい。誰も襲いに来ないもの)


 並んだ木箱のちょうど真ん中に陣取り、絨毯の上で丸くなる。

 しばらく寝返りを打ったりと落ち着かなかったが、やがて眠りに引きずられていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ