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(キッカって意外としっかりしてるんだなぁ)
軽口を言ったり、冗談を言ったり。セランの言うことに反論したり、笑ったり。そんなキッカは、今のキッカから想像しづらい。
「この石、どんだけ見つかった?」
「大した量はないな。この砂漠を海に変えるだけの数はない」
「ってことは、もしばらまくなら割ることになるのか」
「そうなると、効果も多少落ちるだろうな」
「ないよりいい」
キッカがグウェンから鉱石を受け取る。
そして、不意にセランを振り返った。
「お前、こういうの見たことあるか?」
「え? ううん、ないよ。初めて見た。そもそも、砂を水に変える石なんて聞いたこともないし」
「ってことは、人間はこいつの存在を知らねぇわけだ」
「たぶんそうだと思うけど……。あくまで私の身の周りでの話だよ?」
「いい。お前、結構いいとこの育ちだろ。アズィム族は決して小さい部族じゃねぇ」
「そうなの?」
「そうなんだ」
(しっかりしてるし、物知りだ)
なぜかそう気付いて嬉しくなる。
キッカのいいところを、またひとつ知った気がした。
「グウェン、この石……俺に預けてもらってもいいか」
「ああ。もとよりそのつもりで持参した。ただし――」
「わかってるよ。扱いには気を付ける。間違ってもお前んとこに人間が押し掛けるような真似はさせねぇ」
「そうしてくれ」
人間が関係すると、どうもこのグウェンという男は頑なになるらしい。
キッカが事情と言っていたものはなんなのか、と少し気になった。
「用事はこれだけだ。他になければ、もう帰るが」
「なんだよ、ゆっくりしていきゃいいじゃん。はるばるこっちまで来たんだからさ」
「私にも守るべきものがある。……それに、お前のつがいは受け入れがたい」
「つがい?」
また、セランは疑問を口に出してしまった。
「お前のことだ。わかっているだろう」
「……つがいって、夫婦のことだよね」
「はははっ」
急に笑い声が響いた。
キッカは腹をくの字に折って爆笑している。
「ありえねぇって! シュシュじゃねぇんだから、人間をつがいには選ばねぇよ!」
「その割にはずいぶん気に入っているようだったが?」
「そりゃ、今は俺の客だもん。気ぐらい遣うさ」
「本当かどうか怪しいものだな」
「だから、ねぇって。俺、つがいにするなら尾羽の長い美人がいいし」
(……ん)
ちりっとセランの胸の奥が疼いた。
不思議に思いながら、そこを手で押さえる。
(今の……なに?)
なんだかとても――嫌な気持ちがした。
悲しみに近いが、もっと焼けつくような、今までに感じたことのない感情。
(なんだろう……)
その感情の名前を見つけられないまま、その日は終わってしまった。




